兄の誓い
男の一人がよろめきながら立ち上がった。
「てめぇ・・・この間のやつだな。」
ペッと血を吐き捨てる。
「いい加減しつけーな。」
雪春はゆっくり近づき、男たちの目の前に立った。
「お前たちに用はない。一花を置いてさっさと消えろ。」
「はぁ?」
見くびるような態度に、三人は青筋を立てた。
「舐めてんじゃねーぞ。」
「なぁ、やっちゃっていい?こいつ。」
男は指を鳴らす。
雪春は腕を組んで冷たい視線を向けた。
「なら早くしろ。俺は今見ての通り怒ってるんだ。これ以上待たせるなら手加減できない。」
「ふざけやがって!!」
三人は一斉に飛びかかった。
雪春は繰り出される拳をかがんで避け、突き出された腕を捉える。そのまま流れるように払って腹に一撃を入れた。
「ぐぁっ!」
端まで吹っ飛んでいった男を気にもかけず、今度は二人目の男の拳を肘で受け止めた。
「っこの!」
男の腰のチェーンが渇いた音を立てる。
まるでびくともしない細い腕に焦って、男はさらに体重をのせた。
「くそっ!」
その隙に三人目の男が向かってくる。雪春はその男の腹に蹴りを入れてから、受け止めていた腕をひねり上げる。脇で固められて少しでも無理に動かせば折れそうなほどの激痛が男を襲った。
「あ・・・ぐ、」
「てめぇっ!」
蹴りの衝撃から立ち直り再び向かってきた男の腕を捉えて反対に足を払う。軽々とひっくり返った男は背中から倒れ込んだ。そして固めていた男の腕を放し、よろけた隙にそのままに回し蹴りをした。
「ぐはっ」
右肩に衝撃を受け、そのまま後ろまで派手に吹っ飛び壁に激突した。衝撃で建物が揺らぎ、天井からパラパラと破片が落ちてくる。男たちは苦しげに呻いてから力なく意識を手放した。
雪春は動かなくなった三人を認めると、手を軽く払った。
一花は目の前で起こったことが信じられなかった。
ありえない可能性が頭の端をかすめる。
そんな、まさか。だって。
だってあの姿は――
「おい。」
雪春が資材の影に向かって声を投げた。
「そこにいるんだろう。さっさと出てこい。」
端から見えた頭の一部がビクリと揺れ、おそるおそる犬飼が顔をだす。
先ほどの威勢は影もなく、哀れなほど青ざめていた。
「み、三島せんせい・・・」
犬飼の口から弱々しい声が漏れた。雪春は無言で近寄る。
犬飼はいよいよ体を震わせ、言い訳を始めた。
「ぼ、ぼくのせいじゃない・・・。」
雪春は歩みを止めない。
資材のかけらが足に当たり、カラカラと音を立てる。
「学校でのことも、全部あの女が勝手にやったことなんだ!」
一歩一歩、地面を踏みしめる。その一見優雅な足取りに、恐怖がわきあがる。
犬飼はほとんど這い蹲るような格好で叫んだ。
「ぼくは悪くない!ゆ、許してくれ!」
地面に額をこすりつけて震える犬飼の前に立ち止まる。
雪春は小さな背中を見下ろした。
「俺はな、昔から決めてるんだ。」
ポツリと、柔らかな声が廃工場内に響く。その静かな声に希望を持って、犬飼はすがるような目を向けた。
雪春は悠然とした動きで屈むと、犬飼の胸ぐらを掴んだ。
「一花を泣かせた奴は、俺がぶん殴るってなぁ!」
小さな体で精一杯胸をはって宣言する幼い少年の姿が重なる。
“一花を泣かせた奴は、にーちゃんがやっつけてやるからな!!”
雪春の繰り出した拳が、犬飼の顔に吸い込まれていった。




