表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あしたへ贈る歌  作者: こいも
27/35

優しい思い出

二話続けて更新しています。

最新話から来られた方は前のお話からお読みください。

 ピアノに合わせて生徒たちが歌いだす。

 引き続き「この道」の歌唱授業である。

 この道はあの時に通ったね、この丘はあの時に来たね。

 ただそれだけの単純な歌詞だが、多くの人たちの心をつかみ、今も歌い継がれている。

 なぜだろうか。

 雪春はアルペジオを弾いた。

 生徒たちは苦戦して声を出していた。やはり「ああ」のところの最高音は少し厳しいか。しかし、一回目の授業よりだいぶ上達したようだ。

 伸びやかな声になってきているのを聞いて、雪春は満足した。

 四番まで弾き終えて、デッキにCDをセットする。最後にプロの歌手の演奏を聞いてもらうためだ。編集の段階でエコーが少しかかっていてずるいかもしれないが、そこはご愛嬌だ。

 曲が流れると、生徒たちは思い思いの姿勢で聞いていた。

 なんだか一様に遠い目をしているからおかしい。18年生きた中のいい思い出でもかき集めているのだろうか。

 そう、この曲が愛されてきた理由のひとつは、懐かしい記憶が蘇ってくるからだろう。

 この道も、あの丘も、あの雲も。

 自分が誰かと過ごした時、心にとまった風景だ。

 あぁ、そうだよ。

 そう言って笑いあった誰かと。

 

 音楽室内を見回すと、一花が目に入った。

 いつもはピンと伸ばした背筋を、椅子の背に預けている。少しうつむき加減だった顔が、ふっと微笑んだ。

 あぁ、そうか。

 雪春は唐突に理解した。


 そうか。だから君は―――


 曲の演奏が終わる。

 同時にチャイムがなり、授業が終了した。生徒たちはまばらに立ち上がり始める。

 教室の後ろに浮かんでいる幸太郎と目が合った。お疲れ、と口だけで言う姿に思わず苦笑する。

(声出したって周りには聞こえないのに)

 こんなに存在感があって、誰よりも人間味に溢れている彼の声が、誰にも届かない。それはとても不合理なようで―――しかし悲しいぐらい真理だった。

 生徒たちが退室し始め、最後の一人が出ていく頃には、雪春は覚悟を決めていた。


ラストスパートです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ