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或る小悪党の苦悩  作者: 黒雨みつき
その1『不幸のはじまり』
5/29

レベッカ


 ガラガラガラガラ……


「カーライルさん?」


 馬車の音と怪訝そうなその声、そして手の平から伝ってくる感触が、俺の意識を現在へと呼び戻す。


「急に立ち止まったりして、どうかなさったんですか?」


 視線を動かすと、そこには不思議そうに俺を見上げるファルの顔があった。


 俺は答える。


「いや。ただ、人生の無常さと己の愚かさを改めてかみしめていただけだ」

「?」


 あれから1週間。

 俺はついに、ネグラとしているこの町に戻ってきていた。


 本来ならあと2、3日は早く帰ってこられるはずだったが、やはり盲目の人間を連れていると思うようにはいかない。


 とっくに仕事の期限は切れていたが、それは今さらどうでもいい。いや、どうでもよくはないのだが、どうしようもなかった。


「ひとまず、家に戻ることにするか」

「家、ですか」


 ファルがパァッと顔を輝かせる。


「なんだか、とても楽しみですっ」

「……」


 そんなこいつの無邪気な反応は、残念ながら俺の陰鬱な気分を増幅させるだけだったが、盲目である少女には、そんな俺の表情を確認することさえできないわけで。


 ファルはニコニコしながら、


「こんなわくわくした気持ちになるのは久しぶりです。ホント、カーライルさんにはどれだけ感謝しても――」

「言っておくが」


 イライラが増してきたのを感じながら、俺は強引に言葉をさえぎり、ビシッとその眼前に指を突きつけてやる。


「盲目であることに気付かなかったことが原因とはいえ、結果として俺はお前をあの場所から連れ出した。だから俺には、少なくともお前が最低限生きていける場所を見つけてやらなきゃならないという責任がある」

「はあ」


 ファルは足を止めたものの、特別な反応は示さなかった。

 残念ながら盲目の少女に指を突きつけても何の意味もなかったらしい。


「あの、それって、やっぱり私が、あらかじめ目が見えないことを言わなかったのがいけなかったのでしょうか……」

「……」


 それは多分、気付かなかった俺がマヌケなのだろう。

 というか、だからこそ俺に責任があるわけで。


「つまり、俺が言いたいのは、だ。すでに何度も言ったことだが」


 俺はゆっくりと歩き出しながら、


「お前の面倒を見てやるのはそういう理由であって、決して善意や好意じゃないってことだ」

「……はあ」

「だから感謝する必要はない。その代わり、変に馴れ馴れしくするのもやめてくれ」

「ぁ……」


 俺の言葉に、ファルの表情はみるみるうちに曇った。


「ご、ごめんなさい……」


 明るかった表情が、一気に奈落の底へ。

 どうやら浮き沈みの激しい性格らしい。


「……」


 何だか子供をいじめているみたいで(実際子供だが)あまりいい気分ではなかったが、こういうことは先にしっかり言っておかなきゃならない。


 勘違いして変な幻想を抱くと、必ず後で苦しむことになるのだから。




 俺の家は町のメインストリートから大きく離れた、暗い路地の中にある。


 その一帯に住むのは、社会的弱者か犯罪者まがいかのどちらかで、暴力沙汰なんてのは日常茶飯事。

 その辺に死体が転がっていたりすることも、しょっちゅうではないにしろ十分に有り得るような、そんな場所。


 そこは、メインストリートを幸せそうに歩いていたような奴らには想像することも難しい世界だ。


「はぐれるなよ」


 俺は先ほどまでよりも若干力を込めてファルの手を引いた。


 もしも今はぐれるようなことがあれば、その時点でこいつの人生は終わるといってもいい。


 決して誇張じゃない。


「はあ……」


 普通の奴ならこの雰囲気に怖じ気づくものだが、盲目であるが故か、ファルはいつもとまったく変わらない様子で、見えないくせにキョロキョロと辺りを見回している。


(……なるほど)


 こういう普通っぽい仕草をするから盲目と気付かなかったのだと、今わかった。


 察するに、こいつの盲目は後天的なものなのだろう。


「おっ、カールちゃんじゃないの」


 その途中で声を掛けてきたのは、近所に住む顔見知りの男だった。


 大柄でいかにもな風体だが、実際はスリだとかせこい詐欺だとか、そういうチマチマしたことしかやらない、まあ俺と同じような小悪党だ。


 こいつの名前は3つぐらい知っているが、どれが本名なのかは知らない。

 いや、おそらくどれも本名ではないのだろう。


 この辺に住む悪党はそのほとんどがこういうせこい小悪党ばかりで、まあそれも当然。生粋の悪党ってのは檻の中かもっと豪華な場所に住んでいるもんなのだ。


「お?」


 と、そいつは俺の手の先にあるモノに目を止める。


「おいおい、カールちゃん。どっから拾ってきたのよ、その子、なかなかの上物じゃない」

「拾ったんじゃない」

「?」


 ファルは何が起きているのかわからない様子で、


「カーライルさん? お知り合いですか?」


 そう言って小首をかしげた。


「いや。知らない奴だ」

「おいおいおいおい。そりゃないでしょう、カールちゃん」


 そいつは俺の肩に手を回して、


「身も心も許しあったあの夜のことをもう忘れちゃったの?」

「殴るぞ、キサマ」

「はあ……?」


 幸い、ファルには何のことだかわからないらしい。


「もしかすると、カーライルさんのご親友さんですか?」

「そう! そういうことなのよ、お嬢ちゃん!」

「……」


 頭が痛くなってきた。


「行くぞ」

「わっ」


 強引に手を引くと、ファルはちょっと足下をふらつかせながら、


「あ、あの、それでは失礼します~……」


 必要もない挨拶をして、手まで振りやがった。


 で、その後も、顔見知りに何回か出会い、似たような反応をされる。


 ……ああ、そうそう。


 非常に惜しいことだが、風呂に入れて髪を整えさせてまともな服を着せてみた結果、こいつは俺の想像通りの素材だった。


 つまり美形だ。

 それも、かなり強烈な。


 ただ、それは『美形』という点のみに関して言った場合であり、女としての魅力なんてものはまだこれっぽっちも備えていない。


 要するにガキなのだ。


 ただ、それでもやはり人目を引いてしまうのは仕方のないことで。


「お前ら、言っとくが!」


 いつの間にかぞろぞろと集まりだしたギャラリーに、俺はイライラしながら言い放った。


「こいつは拾ったわけでもさらってきたわけでもねえし、ましてや俺の愛人でも奉公人でもねえ! わかったらとっとと失せろやっ!」


 途端、ぶつくさ言いながらも潮が引くように離れていくギャラリー。


 中には近寄ってきてファルの顔を興味深げにのぞき込む輩もいたが、触れることは俺が許さなかった。


「はー……」


 さすがのファルもそんな状況には気付いていたようで、少し呆気に取られたような顔をしながら、


「カーライルさんって、お友達が多いんですねー……」

「そんなんじゃない」


 素っ気なく答える。

 別に照れ隠しではなく、本当に友達だなんて言える連中じゃなかった。


(けど、ま、早いうちに顔を通しておけたのは良かったか)


 そう思う。

 これでファルに手出ししようとする輩は確実に減るはずだ。


 いくら小悪党どもの集まりとはいえ、こういった場所にもそれなりのルールが存在している。その中でも、ご近所さんに迷惑を掛けないことは、基本と言っていいほどの最低限のルールだ。


 仲間、というと少し聞こえが良すぎるが、こういった場所でやっていくには、やはりそれなりの結束が必要になってくるわけで。


 だから俺の身内だということを通しておけば、この近辺におけるファルの安全性は格段に上がる。


 それでも他の場所と比べて安全とはお世辞にも言えないが。


「さて、と」


 ひとりのときの2倍ほどの時間をかけて、俺たちはようやく我が家の前に到着した。


 我が家と言っても貧乏な俺が家など持てるはずはなく、もちろん借家だ。なかなか年期の入った平屋だが、周りから見ればかなりマシな部類に入るだろう。


「入る前に言っておく」


 そこまで来て、俺はようやくファルの手を離すことができた。


「あ……」


 ファルは少し不安そうにしたが、俺に動く気配がないことを悟って、


「ええっと……なんでしょうか?」

「俺の家には同居人がいる」

「ご家族ですか?」

「違う」


 その反応が返ってくるのはわかっていたので、即座にそう答える。


「ただの知り合いだ。互いの利害が一致したから一緒に住んでいるだけの」

「はあ」


 いまいち理解できなかったらしい。


 ま、そんな事情などこいつに理解してもらう必要はない。

 俺が言っておかなきゃならないのはひとつだけだ。


「そいつは俺と比べれば少しぐらいは愛想がいい。おそらく、お前のこともそれなりに構ってくるはずだ」

「ほ、ホントですか?」


 嬉しそうな顔。

 これも予想通り。


「だが」


 俺はすぐに言った。


「そいつと話をするのは必要最低限にしろ。仲良くなろうとは考えるな」

「……え?」


 案の定、ファルは呆気に取られた顔をした。


「あ、あの……仲良くしたらいけないんですか?」

「そういうことだ」

「……」


 無言。

 俺の意図がまったく理解できなかったらしい。


「いいか」


 その理由をいちいち説明するのも億劫だったので、俺はずっと続けてきた言葉を繰り返す。


「お前と俺は単なる義理の関係だ。それ以上でも以下でもない。だから、俺の周りに対しても常にそういう気持ちでいろ。馴れ合おうとするな」

「……」

「そうしていれば、俺はお前に対して最低限の責任を果たしてやる。それだけは約束する」

「わ……わかりました」


 しゅん、としながら頷く。

 納得できない様子は見て取れたが、それでも反論する気はなさそうだった。


(それで、いい)


 俺に対する不満を抱えてくれるのは一向に構わない。


 そもそも、最初からして少々俺に踏み込みすぎていたし、少しぐらい幻滅してくれた方がやりやすいってもんだ。


 満足してドアを開ける。


「段差がある。気を付けろ」


 再び手を引いてやると、


「は、はい」


 ファルは慌てたように付いてきた。


「お前の最初の仕事は、この家の構造を覚えることだ。ひとりで動けるようになれ。ここがトイレだ」


 玄関を入ってすぐ左手のドアに触れさせ、場所を覚えさせる。


「風呂は近くに公衆浴場がある。行きたいときは言えば連れていってやる。言わなくても、俺がいるうちは2日に1回は連れていく」


 それから中に入った。


「ただし、いくら慣れてきても絶対にひとりで出歩こうとはするな。俺が迷惑するからな」


 部屋は2つしかない。

 入ってすぐ、台所と兼用になった8畳ぐらいの部屋と、その右手奥に6畳ほどの部屋。


「……」


 約1ヶ月ぶりの我が家には、ほこりが溜まっていた。

 俺は眉をひそめて、右手奥の部屋に声をかける。


「おい。いないのか?」

「んー」


 かったるそうな返事が返ってきた。


 ……どうやらいるらしい。

 ややあって、その部屋からひょこっと顔が出てくる。


 もちろん見知った顔の、おそらくは俺よりも若干年上ではないかと思われる女。


 正確な歳は知らないし、もちろんわざわざ聞くつもりも調べるつもりもなく。


 名前――これも本名かどうかは知らないが、ひとまずは『レベッカ』という名前で通っていた。


 もちろん、俺もこいつを呼ぶときはこの名で呼んでいる。


 で、顔を出したレベッカはこいつ特有の、女にしては低い音質の声を出す。


「ああ、おかえり、カール」

「おかえりじゃねえよ」


 俺は部屋の惨状をながめ回しながら、


「そりゃ1ヶ月も留守にしてたんだ。俺の部屋にほこりがたまってるのは仕方ないとしよう。けどな」


 目を細めてレベッカを見る。


「お前のものらしきゴミまで俺のスペースを侵略してきているのは、一体どういうことか?」

「おや」


 そいつはさも今気付いたと言わんばかりの顔をした。


「小人さんが悪戯したのかな?」

「ふざけんな! とっとと片づけろッ!」

「やれやれ、わかったわかった。神経質だなあ」


 自分が悪いにも関わらず、いかにも仕方ないといった顔。

 理不尽極まりないが、一瞬、俺が悪いのかと勘違いしてしまいそうになるから不思議だ。


「ん?」


 そうやってめんどくさそうに部屋から這いずり出て来て、レベッカはようやくファルの存在に気付いたらしい。


 じいっとその全身を上から下まで眺め回すと、


「カール、女の趣味変わったんだ」

「……言うことはそれだけか」

「別に、君の内面には興味ないしね」


 本当に興味なさそうに俺の前を通り過ぎ、そのままファルの顔をのぞき込んだ。


 で、一方のファルはといえば、


「……あ、あの!」


 なにやら焦っていた。


「わ、私! も、もしかすると、とんでもないお邪魔虫な状態なのでは!」

「同じことを言わせるつもりか?」


 ある程度予想していた反応に、軽く頭を小突いてやる。


「こいつはただ一緒に住んでるだけの……あー、まあ仕事仲間みたいなもんだ」


 そう表現するのは本当は正しくなかったが、それを説明しようとすれば、俺のやっている仕事の内容まで明かすことになるので、あまり都合が良くない。


 それにそもそも、こいつがそんなことまで理解する必要はないはずだった。


「仕事仲間、ですか?」


 ファルはホッとため息をついて、


「あの、それじゃカーライルさんの奥様とかそういうことではないのですね?」

「ぷっ」


 その言葉に『奥様』が吹き出した。

 そりゃ俺だって、あまりの馬鹿馬鹿しさに大口開けて笑い出したい気分だ。


「で、なに? もしかすると、君がこの子の面倒を見ることになったわけ」

「しばらくの間、な」

「へえ。珍しい」


 驚いたような感心したような、そんな感嘆の声をもらして、再びファルの方へと向き直った。


「じゃ、ひとまずよろしく。私はレベッカ。……えーと」

「あ、ファ、ファリーナです! あ、でも、他の方からはずっとファルって呼ばれてました! なので、えっと……」

「ああ、堅くならなくていいよ。自然体、自然体」


 そう言ってレベッカは自ら肩を回してみせる。

 と……そうやっていて、こいつはすぐに気付いたらしい。


 少しファルの顔をのぞき込んだ後、俺の方を振り返って、


「この子、もしかして、目が?」

「……ああ」


 負けたみたいでなんだかちょっと悔しかった。


「ああ、そうか」


 そして納得顔のレベッカ。


「つまり君は、早とちりをして失敗したわけだ」

「……察し良すぎだぞ」


 そりゃこいつは俺の今回の仕事のことを知っているし、予想するだけの材料はあるかもしれないが、それにしても。


「それで面倒を見るって? ……ふぅん」


 レベッカはチラッとファルを見て、それから小さく首を振ると、


「らしくないな、カール」

「……そうか?」

「君はもっと非情なのかと」

「そういうことじゃない」


 非難する口調だったわけではないが、それに対しては反論せずにいられなかった。


「無関係の人間にはなるべく迷惑をかけないのが俺のポリシーだ。かけちまったなら、ある程度のフォローは必要だろ」

「そっか」


 レベッカはそれ以上何も言わない。


 ……イライラは相変わらず収まる気配がなかった。


(連れてくるべきじゃ……なかったのか?)


 もしかすると、俺はとんでもなく愚かな行動を取ったのかもしれない。


 人を養うってのがそう簡単なことじゃないのは良く理解している。というか、現時点で俺ひとりが食っていくのだって苦労しているのだ。


 食費だって馬鹿にならないし、一応、人の多いこの町で暮らす以上は服だってまともなものを着せる必要がある。


 出来れば早いうちに落ち着き先を見つけるつもりではいるが、それだって実際にどのぐらいかかるかわからない。


 義理を果たすとなれば、少なくとも、常識的に言ってまともな待遇の場所を見つけてやる必要があるだろう。


 だが、盲目であることを考えれば、それもそう簡単に行くとは思えなかった。


(ちっ……)


 我ながら馬鹿な失敗をしたもんだと思う。

 いや、まともな小悪党なら、あそこで見捨ててくるのかもしれない。


 だとすれば、俺は小悪党としても欠陥品ということか。


「へえ。その服、カールに買ってもらったのか」

「そーなんですよ。私、自分では見えないんですけど……似合ってますでしょうか?」

「悪くないよ。ただ残念ながら、彼の趣味が丸出しになったような服だね」

「え、そ、それはどーいう……」

「そりゃもう、口に出すのも恥ずかしいぐらい××で××な××××――」

「……ちょっと待て!」


 いつの間にか、ファルとレベッカが話に花を咲かせていた。

 しかも、ひどく俺の名誉が傷つけられそうな内容の。


「帰ってきて早々嫌がらせか、こら」


 顔を寄せて思いっきりにらみ付けてやると、レベッカはしれっとした顔で、


「だってホントのことだし」

「しれっと嘘つくんじゃねえ! だいたいこんな子供に言う言葉じゃねえよ!」


 そう言いながらファルの方を指さすと、


「せ……××で××な××××……」

「おい。お前もそんなの信じるんじゃ――」

「って、なんですか?」


 お約束のボケだった。


「ふぅぅぅ……」


 脱力。

 旅の疲れが見事なまでに倍増した。


「……とにかく」


 腹の底から沸き上がってくる殺意を押さえるのに数秒を要し、俺はなんとか平静な声を出す。


「お前、俺がさっき言ったことを忘れたのか」

「え……」


 ファルは少し呆気に取られた顔をしてから、ハッとして、


「あ……ご、ごめんなさい……」

「わかってりゃいい」


 そうしてファルを黙らせてから、今度はレベッカの奴に釘を刺す。


「お前もこいつには一切構わないでくれ。調子に乗って勝手なことをされるようになったら困るからな」

「なんだ」


 レベッカはつまらなさそうに首を振って、


「生意気に独占欲か」

「貴様は俺の人格まで否定する気か!」


 再び猛烈な勢いで沸き上がってくる殺意。

 今の俺なら視線だけで蟻ぐらいは殺せるに違いない。


 が、その視線を向けられた当の本人はまるで意に介した様子もなく、


「はいはい」


 軽くあしらうようにして自分の部屋に戻っていく。


「……くそっ」


 残ったのはやり場のない怒りだけだった。


 あいつと会話した後は、いつも妙な敗北感にさらされる。

 いい加減、精神衛生のためにも、奴を駆逐する方法を真剣に考えるべきかもしれなかった。


「……」


 ふと、不安になってファルを見る。

 すると案の定、


「はあ……独占欲ですか……」


 つぶやいて、何やらボーっとしていた。


「……違うからな」

「はっ」


 まるで夢から覚めたかのような表情で、ファルはピンと背筋を伸ばした。


「べ、別にそういうことを考えていたわけでは!」

「なら、いいが」


 口にまで出しといてから否定してもまるで説得力ないが、あえてそれ以上は突っ込まない。


 どうせすぐに――そう。


 そんな風に妙な幻想を抱いていられるのも、どうせ最初のうちだけなのだから――。


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