妥協点
「すー……すー……」
窓からは赤く染まった空が見えた。
カラスの鳴き声が、まもなく訪れる夜を知らせてくれる。
「すー……すー……」
ベッドで寝息を立てるのは、本日の騒動の原因を作ってくれた盲目の少女。
緊張の糸が切れてしまったのか、家につくなり気を失うようにして眠りについてしまった。
俺も疲れていた上に寝不足だったのだが、まあこのぐらいを我慢するのは慣れていたし、何より疲れた頭でも色々と考えておきたいことがあった。
「トラウマ、ってやつか?」
ファルの寝顔を見つめながら、レベッカは壁に寄りかかって腕を組んでいる。
「そんなカッコイイもんじゃない。ただ、未練がましく恨み続けてるだけのことだ」
特にすることがなかったので、俺も何となくファルの寝顔をながめながら。
目尻には涙の跡が残っていて、悪い夢でも見ているのかちょっとだけ眉間に皺を寄せていたが、うなされてるというほどでもなく。
「別に捨てられたこと自体を恨んでるわけじゃないんだ。あいつら……俺の両親にしてみりゃ、最後は自分らが食っていくのにも困って、それで仕方なく捨てたんだろうからな」
「……」
レベッカは黙って聞いている。
あんなことがあった後のせいか、俺も珍しく自分のことを話したい気分だった。
「俺が言いたいのは」
目を閉じる。
「それならどうして産んだんだって。大人のくせに、産む前にそんなことも考えられなかったのかって。ただそれだけのことなんだ。……だから、こいつのことも」
言って、少し落ち着いた様子のファルの寝顔を見た。
「どうせ最後に手を離すなら、仲良くなっちゃいけないと思った。それをやったら俺は、俺を産んだあの連中と同じになっちまうんじゃないかって」
「それはなんとなくわかるよ」
うなずいたレベッカは、今度は少しだけ怪訝な色を浮かべて、
「じゃあ、少し歩み寄ることにしたってのは、どういう心境の変化?」
「……ああ。それがな」
俺は笑った。
「気付いたんだ。同じあやまちを犯さないようにしていたつもりが、結局あいつらと同じことをしていたのかもしれないって」
「ふぅん?」
レベッカはただそうつぶやいた。
説明を求めているようだったが、納得できない風ではなかった。
もしかしたらこいつは、最初から俺の間違いに気付いていたのかもしれない。
普段はああやって適当な振る舞いをしてはいるが、こいつは勘が鋭い上に、どこか俺のことを見透かしているような雰囲気もある。
話すかどうかは少し迷ったが、特に隠しておくほどのことでもないと判断して、
「捨てられる前の記憶が少しある」
結局、しゃべることにした。
「けど、いい思い出なんてひとつもない。思い出どころか、両親とまともに会話した記憶もないんだ」
――いまいましい記憶。
狭い家の隅で膝を抱える弟。
その泣き顔。
両親の気を引こうと必死に話しかける俺。
それらをまるで無視して、ひそひそと自分たちだけで会話する、顔も思い出せない一組の男女。
モヤがかかったその薄暗い光景が、俺の最も古い記憶だ。
同じ部屋で暮らしていながら、俺たち5人はまるで他人のように分断されていた。
「俺が覚えている限り、母親の声をまともに聞いたのは一度だけだ。それも、俺たちを捨てるとき、外に連れ出そうとして声をかけてきた、その一度だけだよ」
言葉の最後は自嘲の笑みをともなった。
「なるほど。それで同じあやまちか」
レベッカはうなずいて、
「けど、同じじゃない。それならきっと、今の君の方がまだマシだ」
珍しく感情的な声を出した。
「……」
少し怪訝に思って振り返ったが、表情はいつも通りだった。
……俺に同情したわけではないと思う。
似たような話はそこら中に転がっているし、そもそもそんなに酔狂な奴じゃない。
とすると、あるいはこいつ自身にも似たような記憶があったのか。
「どこで間違えたんだろうな」
ため息とともに肩をすくめる。
「最初からそうならないように、少しでもこいつに依存されないように、気を遣ってきたつもりだったんだが」
「さあ。私の目には最初からそうだったように見えたけど」
「……そうか」
最初から突き放していたつもりが、それでも甘かったのだろうか。
……いや。
そもそも、まだ子供でしかないあいつには、義理と責任だけの関係というのが理解できなかったかもしれない。
だから、単純に保護者代わりを演じる俺を、擬似的な親として見てしまったのか。
「ま」
レベッカは小さくうなずくと、
「いいんじゃない。というか、私は最初からそうすることを勧めていたわけだし」
「いいとは思えんが、こうなった以上は仕方ないな」
「そう? 親が子を捨てるのとは話が違うと思うが」
そう言って、チラッとファルを見る。
「少なくとも、いつか手放すってことを彼女に予告してあるんだから」
「それがこいつに理解できていればな」
「それは大丈夫だと思う。別れを悲しむことはあるかもしれないけど、それは彼女の成長にも必要な経験かと」
「そういうもんか」
俺が疑問を投げると、レベッカはやれやれという風に首を振って、
「いつか別れるんだし、まったく後腐れのないようにとか思ってたんだろ?」
「そりゃ、その方がこいつに対する責任を果たせるからな」
レベッカはフウッとため息をつくと、呆れ顔をして、
「永遠の愛を誓った恋人同士だって長く離れていれば冷めるし、赤の他人だって一緒に暮らせばそれなりに親しくなる。君のように最初から構えているならともかく、彼女が君に近付こうとするのは仕方ないことだ。これは前にも言ったが」
「ああ。それはよくわかったよ」
「なら、いい」
偉そうだったが、確かに彼女の言葉は正しかったのだ。
結果がそれを示している。
「……ふむ」
そして、レベッカは少し考えた後、ふと思いついたように、
「じゃあ少しばかり成長し、これから彼女に歩み寄ろうとする君に、私から新たな称号を贈ろうじゃないか」
「称号?」
俺が怪訝な顔を向けると、ヤツはゆっくりと人差し指を向けてきて、言った。
「バルバ=フラックマン」
「……やめんか!」
それはファルと出会うきっかけになった仕事の依頼人の名前で、俺たちの間では幼女趣味の代名詞となっている。
しんみりとした場の雰囲気は、見事に台無しとなった。
「気に入らないか」
「当たりまえだ!」
「バルバ。大声を出すとお姫様が起きるぞ」
「呼ぶなッ!」
まさかあの変態成金男も、こんなところでネタにされているとは夢にも思うまい。
当然俺としても、そんな不名誉な称号を授けられることに、強く反論せずにはいられなかった。
「ぅ……ん……」
「ほら、起きた」
「ぐ……」
振り返ると、ファルが目をこすりながらゆっくりと体を起こすところだった。
「……ぁ……カーライル、さん……?」
上半身を起こしたファルは幸いまだ寝ぼけているらしく、俺たちの会話も耳に入っていなかったようだ。
まあ、聞いていたところで意味を理解することはできなかっただろうと思うが。
「あ、あれ……私……」
目をこすって、見えないくせにキョロキョロと周りを見回しながら、
「確か誘拐されて、奴隷商人さんに売り飛ばされてー……」
ねぼけている。
「お前、夢と現実がごっちゃになってると思うぞ」
「……はっ!」
どうやら意識がはっきりしたらしい。
直後、ものすごい勢いで布団をはね除けると、
「も……申し訳ないです!」
ベッドの上でいきなり土下座を始めた。
「わ、私、カーライルさんにとんでもないご迷惑をかけて、その上ずうずうしくベッドまで占領してしまって――!」
「そっちは壁だ」
「……はっ!?」
アホだ。
目が見えなくても声の方向でわかるだろう、普通。
「あ、えーと……」
さすがに恥ずかしかったのか、しぼんだ風船のように勢いを失ってしまった。
ゆっくりとこちらに向きなおって、
「その……申し訳ありませんでした」
「いやいやいや、まったく気にする必要はない」
「で、でも……」
「君のような可愛い子にかけられる迷惑なら、いくらでも大歓迎さ。ははは」
「え……ええッ!?」
かなり驚いた顔で真っ赤になるファル。
……そりゃ俺だってびっくりだ。
「レベッカ、それは俺の物まねのつもりか……?」
ピクピクとこめかみが震えているのが自分でもわかった。
「なかなか特徴をとらえていると思うが」
と、地声に戻すレベッカ。
「声は似せても発言内容が違いすぎるわッ!」
「え?」
一瞬、わからない顔のファル。
「今の、レベッカさんだったんですか?」
「いや」
レベッカは再び俺の声色で、
「俺が君のことを愛しているのは本当さ」
「やめんか!」
「あ、えーと……今のはレベッカさんですね」
2度目はさすがのファルもだまされなかったようだ。
というか、これでわからなかったらさすがにヘコむ。
ファルはおかしそうに笑いながら、
「よく聞くとやっぱり微妙に違いますね」
「微妙、か」
確かにレベッカは女にしちゃ地声が低いし、もともとの声質も俺と似ている。
ただ、こいつが俺の真似をするときはさっきのように極端に異なった人格を演じるので、すぐに気付けなかったのはファルが初めてだ。
(ま、次からはきっとわかってくれるだろ……そう思いたい)
結構切実な願いだ。
「それはそれとして」
笑っていたファルがいきなり真顔になる。
こいつの行動もなかなかに唐突だ。
そして今度はしっかりと俺の方に深々と頭を下げて、
「私は、その、カーライルさんに多大なご迷惑をお掛けしてしまいました。これ以上、ここでお世話になるのはとても心苦しいところで――」
「……あのな」
ヘンに馬鹿丁寧な言葉に、俺は頭を掻きながら、
「言っただろ。このぐらいのことでお前を追い出したりはしない」
「貯金が底を尽きかけたけど?」
「黙れ」
レベッカの横やりを一蹴して、言葉を続ける。
「そりゃ何度もやられたらさすがに困るが、今回はひとまず警告までってことにしとく。それにお前、ここを出たらどうなるかぐらい今日のことでわかっただろ」
「お、お言葉ではございますが!」
何か知らんがいつも以上に敬語度が高かった。
「私、ご迷惑をかけるばかりで、少しはカーライルさんのお役に立てることがないかと色々頑張ってきましたけど、いつもご機嫌を損ねてばかりで!」
「それについてはフォローの余地はない」
「うっ……」
ぐさっ、という音が胸の辺りから聞こえたような気がする。
が、すぐに立ち直って、
「そ、それで、私……もうこれ以上――」
一瞬、言葉が止まった。
そのすぐ後、
「これ以上は……カーライルさんに嫌われたくなくて……」
出てきたのは、涙声だった。
「……」
こう見えて我慢強い奴だ。
ずっと耐えていたのだろう。
「それで、出ていくってのか?」
俺が冷静な声を返すと、
「ぐすっ……」
ついには鼻声になる。
「カ、カーライルさんは……私が生きてきた中で、お父さんとお母さん以外で初めて優しくしてくれた方なんです……だから……だから、どうしても嫌われたくないんですー……」
「……」
やっぱり勘違いされていた。
俺がこいつに声をかけたのは優しさからじゃない。
ただ、商売を上手く進めるため。
ただ、それだけだったのだ。
(……やはり、か)
確信する。
懐かれないように、懐かれないように、なんてことをずっと考えてきたが、それはまったく無駄なことだったのだ。
最初から、懐かれていた。
こいつと出会ったあの村で、すでに。
(それだけ他人の優しさに飢えていた、か……)
誤算。
それも、今まで気付くことすらできなかったとは。
(……やれやれ)
とんでもないミスをしでかしたものだ。
ホント、今月の神様は俺をとことん沈めなければ気が済まないらしい。
いや、もしかしたら今月だけじゃ済まないか。
「それで――」
少しだけ落ち着いた様子で、ファルが再び口を開いた。
「今ならまだ……カーライルさんとのことはいい思い出にできる気がするんです。そうしたら……きっとこの先、何があっても後悔はしませんから……」
「ちょっと待て」
考え事をしているうちに勝手に完結しようとしていたので、俺はそこでようやく口を挟んだ。
「?」
不思議そうにファルが顔を上げる。
せっかくの整った顔立ちが一杯の涙と鼻水で台無しになっていた。
が、まあそれはどうでもいい。
「まず、勘違いしてるようだから言っとくが」
俺はふうっとため息をついて、その眼前に指を突きつけてやる。
「これ以上もなにも、お前はすでに底辺だ。だからこれ以上嫌えっつっても、それは無理な相談だ」
「うっ……」
顔に縦線が入ったように見えた。
「ひ、ひどいです、私の唯一の希望をー……」
「勝手に希望とか思い出とかにされちゃ困る」
「そ、そんなご無体なぁ……」
「……」
チラッと横を見ると、レベッカはいつの間にか姿を消していた。
……気を利かせたらしい。
少し安心して、コホン、と咳払いをする。
「何度目になるかわからんが、もう一度言っとくぞ」
「?」
ファルが首をかしげた。
「つまりだ。あー……」
慣れないことを言おうとしている自覚はある。
だから、なかなか言葉が口をついてこなかった。
それでも何度か咳払いをした後、ようやく、
「……お前がひとりで外出することは禁じる、と、そういうことだ」
「?」
意味がわからなかったらしい。
(くそっ……)
それで察して欲しかったが、仕方あるまい。
こうなったらやけくそだ。
「要するに! お前をここから追い出すことは、俺自身が作ったルールに違反する! だから却下だ! 以上!」
早口で一気にまくし立てた。
「……はあ」
再びほうけたような声のファル。
が、徐々に意味を理解したようで、
「あ、で、でも……その、先ほども申し上げましたとおり、私は――」
「口答えも却下!」
「は、はいぃっ!」
条件反射か何か知らんが、ファルは正座したまま背筋をピンと伸ばす。
そんな反応も、今はなぜか少しだけほほえましく思えた。
「あーっと」
俺は自然に浮かんでくる笑みを殺しながら、補足する。
「お前がここを出ていくのは、俺が見つけた保護者に連れられて、だ。それまでは、俺が面倒を見てやる。そういう約束だろう?」
だが、ファルは少々戸惑った様子で、
「で、ですが……私、何をすればカーライルさんに嫌われずにいられるのか、全然わからなくて……」
「それについては」
コホン、と咳払いして、
「今まで通りでいい」
「……は」
きょとんとした顔。
「そ、それは一体どーいう――」
「言っただろ」
まるで理解できてない様子のファルに説明してやる。
「俺はお前と仲良くなりたくなかった。だから、俺と仲良くなろうとするお前の行動自体が気にいらなかった。ただそれだけのことだ」
「……?」
ファルは少し考えるような顔をして、
「それってつまり、私が何をしてもダメだったってことですか?」
「ま、そういうことになるな」
「そ、そんなぁ……」
また泣きそうになった。
「じゃ、じゃあ、私、ずっとカーライルさんに嫌われたままですかぁ……」
「……察しの悪い奴だな」
いい加減、わざとやってるんじゃないかと思えてくる。
「気が変わったんだよ。少しぐらいなら、歩み寄ってやることにした」
「……はあ」
「だから、今まで通りでいい。そういうことだ」
「は……」
ファルはもう何度目になるかわからないトボけた返事をしかけて、ようやくハッとした。
「そ、それってつまり! 私と仲良くしてくれるってことですかっ!?」
相変わらずの過剰反応だ。
(……大袈裟な奴)
そんなにも嬉しいのか。
前だったらそんなこいつの反応にもいちいちイラついていたものだが、今はそんなこともなくなっていた。
人間の気持ちってのもなかなかに不思議なものだ。
「お前が思ってるほどじゃないかもしれんが……それに」
言って、コホンと本日10回目の咳払いをする。
「どのぐらい仲良くなれるかはお前次第だ。そうだろ、ファル」
「!?」
ファルはただでさえ大きな目をさらに大きく見開いた。
「カ、カーライルさん! い、いま……いま、なんて言ったんですかっ!?」
「はあ?」
今度は俺が怪訝な顔をする番だった。
大したことを言ったつもりなど、もちろんない。
「だから、お前次第だって――」
「そ、その後です! その後!」
「……その後?」
少し考えてみたが、思いつく言葉はひとつしかなかった。
「ファル?」
「それです!」
ファルはベッドの上でまるで飛び跳ねるように身を乗り出して、
「カーライルさん、はじめて私の名前を呼んでくれましたッ!!」
「……そうだったか? いや、そんなはずないだろ」
眉をひそめる。
1ヶ月近く一緒にいて、名前を呼んだこともないなんて、あるはずがない――と思うのだが、
「そんなはずあるんです! いっつも『おい』とか『お前』とか『あいつ』とか……毎回ちゃんと確認して、密かにヘコんでましたから間違いないですッ!」
「そ、そうか……」
本当に自覚がない。
「それは大変だったな……」
「はー……」
ファルはとてつもなく満足そうだった。
「何だか色々幸せすぎて頭の中がパンクしちゃいそうです」
「んなおおげさな……」
「でも……どうして突然?」
ふと、不思議そうな顔をして、
「私、カーライルさんに迷惑かけっぱなしでしたのに、何だか急に優しくて……あ、いえ! ものすごく嬉しいんですけど!」
「あー……」
まさか子供のころの話をこいつにするわけにもいかないだろう。いくらなんでもそれは恥ずかしすぎる。
なので、適当にごまかすことにした。
「それを聞くことが、お前にとってプラスになると思うのか?」
「うわ! ま、またですか!?」
どうやらこいつもいつかのやり取りを覚えていたらしい。
再び顔に縦線が入る。
……が、直後。
やはり頬を赤くして、
「あ、で、でも、今ならそれもちょっとイイ……かも……」
ゴンッ!
「いたっ!」
「アホか」
言うまでもなくアホだ。
しかし、それでも。
(結局、俺が押し負けた……か)
偶然とか、俺の過去のこととか。
確かにすべてがこいつ自身の力ではないだろうが、少なくとも今のこの状況は、こいつがここまでの行動を取らなければ起こらなかった結果だ。
(子供の行動力には勝てんな……)
「?」
俺が笑っているのに気づいたのか、ファルは少し不思議そうな顔をしたが、それはすぐに笑顔に戻る。
本当にうれしくて、笑顔以外の表情になれない、といった様子だった。
「……」
それを見ていて、ふと不安になる。
(……本当に大丈夫なのか)
レベッカは別れも経験になると言った。
それは確かにそうなのだろうと思う。別れを経験しない人間などどこにもいやしないのだから。
だが、それをわかっていても、なお不安なのだ。
こいつのこれは、大丈夫なのだろうか。
いつか訪れる別れは、本当にこいつの糧になるのだろうか、と。
残念ながら、俺にはわからない。
俺がたった一度だけ経験したつらい別れは、物心がついて間もないときのことで、別れが訪れることも知らなかったし、黙ってそれを受け入れることしかできない年齢だったから。
(お前は本当にわかっているのか? ファル……)
だが、どっちにしてもそれはもう、俺がどうこうできることではなかった。
こいつが理解していることを願うのみ。
……ただ、それだけのことでしかない。