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黒の風  作者: 七瀬終夜
1/1

Prologue~1~

3/20--『高層マンションで爆発事故』都内にある高層マンションの17階で爆発事故が起き、一時周辺では道路が封鎖されるなど騒然とした状態となった。近くには主要国の大使館などが存在するためこの爆発はテロによるものではないかという疑いもあったが、捜査により原因はエアーダクトの老朽化によりガスが充満したところに何らかの火気が伝わったことであるとわかった。この事故により男女二人が全身に火傷を負い重体。また、事故発生時剣山市警の護送車が対向車線を走行していた乗用車と衝突事故を起こした件に関しては、爆発の閃光によるショックで運転を誤ったものとされている。乗員にケガはなかったが、護送車を運転していた氷室巡査は一時的なショックによるためか、意識が戻っていない。_____________


 しかし、この事故はここに来て新たな転回を見せている。現在製作中の映画、「鏡面世界」の撮影で、この爆発事故を彷彿とさせるような、高層ビルの爆発シーンが今日ほぼ同時刻に撮影されていたのだ。また、事故の起きたマンションの17階は、同映画の主演女優である岩城こずえの自宅である。偶然とは思えないこれらの事実に、なんらかの関係があるのではないかとの声も上がっている。なお、岩城こずえは撮影後自宅に戻っておらず、未だに連絡が取れていないという。


少年は新聞の一面のその記事を読み終わると、広げることもせずほぼ買ったときと同じ状態のままベンチの脇にあったゴミ箱へと放り込んだ。


『また来てるな、あの子・・・』


少年の視線の先には、砂場で遊ぶ男の子の姿があった。もうずいぶんと日は暮れている。他に遊んでいる子どもの姿はなく、その男の子自身も、遊んでいるというよりかは何かつまらない作業を黙々とこなしているように見える。(実際男の子は一時間近く、砂場に穴を掘り適当な深さになってはまた埋めて、という作業を繰り返している。)


少年はベンチを立つと、男の子に声を掛けた。


「何か悩み事?」


「えっ?」


作業に没頭していた男の子はふいに声を掛けられて一瞬と惑ったようだったが、少年の目を見て安心したのか、ゆっくりと話し始めた。


「うちのお父さんとお母さんは共働きなんだ。地方新聞の印刷所なんだって。

それでね、家に帰ってもお姉ちゃんしかいないんだ。」


話を聞きながら少年は思った。この種の怯えかたには覚えがある。そうだ、日常的に暴力にさらされているか、もしくは目撃しているかのどちらかだ。


「でも、お姉ちゃんはほとんど喋らないし。前まではよく遊んでくれてたのにな・・

朝はお母さんもお父さんも不機嫌で、仕事の話しかしないんだ。お父さんはお姉ちゃんのことをときどきぶつんだ。ほっぺたが赤くなるまで・・」


やっぱりな。


「そっか、でも、家ではお姉さんが待ってるんだろ?心配してるんじゃないかな。」


「そうだね・・そろそろ帰らなくちゃね。」


男の子はようやく砂場から立ち上がり、ズボンについた砂を両手で払った。


「オレは一馬っていうんだっていうんだ。君は?」


「ゆうと。柏木ゆうと」


「もう遅いし家まで送るよ。」


二人が公園を後にし、水銀灯に灯りがともったころ、一匹の野良犬が砂場の辺りにやってきて、匂いをくんくんとかぎまわった。色は蒼みがかった銀色で、かなり大きい。しばらくして何かをかぎつけたのか、そのまま薄暗い町の中へと消えていった。


少年は思った。このまま家の前でゆうとと別れて、もし運悪く(という言い方はおかしいかもしれないけれど)ゆうとが親と鉢合わせしてしまったら咎め立てを受けるかもしれない。おそらく父親の手が飛ぶことだろう。


「なぁゆうと、お姉さんに心配かけてるだろうし、一緒に謝ってやるよ。」


そういってドアの横にあるチャイムを鳴らした。返事は無い。しばらく間隔を空けてもう一度。だがやはり返事はなかった。


隣にいるゆうとは不思議そうな顔をしている。


ドアノブを回してみる。どうやら鍵は開いているようだ。


「ごめんくださーい。」


ドアを少し開いて中の様子を伺う。しかし、廊下の電気は消えていて、人の気配は無い。少しためらったがそのまま中へ入ることにする。


暗闇のためか、つないだゆうとの手に力がこもる。玄関脇にあるスイッチを押すと明かりがついた。電球が切れ掛かっているのか、ときどき一瞬暗くなってはまた戻る。


『おいおい、勘弁してくれよ、暴力親父が潜んでるかもしれねぇ家で真っ暗なんてごめんだぜ。』


廊下を過ぎ、リビングのドアを開ける。


と同時に反射的にゆうとの目を右手で強く塞いだ。


『・・なんだ、こりゃ!?』


リビングにあるもの全て、ソファから電気のかさにいたるまでに真っ赤な血が飛び散っている。それも並の量ではない。思わず部屋を見渡してその主を探してしまう。


「ねぇ、どうしたの?一馬おにいちゃん?」


「・・あ、あぁ、なんでもない。まだ誰も帰ってないみたいだし、ゆうとの部屋に行かないか?」


後ろ手にリビングのドアを閉めてから塞いでいた手を離す。


「うん、いいよ!こっちだよ。」


古い家なのか、階段を上がるとギシギシと軋む。


『雰囲気たっぷり、ってか・・』

ドアを開けて明かりがついたところでようやく息を整えることができた。

姉と共同部屋なのだろう、机が二つ背を向けて置かれている。


ふと本棚に置いてあった写真たてに目がいった。


「これゆうとのお姉さん?」


と、写真立てを手にとりながら聞くと、ゆうとが手にしていた恐竜の模型を床に落とした。


「見ちゃだめ!!み、み・・」


しかし、ゆうとの声が一馬の耳に届いたときには、写真は既に視界の中だった。


『ひでぇよ・・』


写真の中の少女の、顔とスカートの部分にタバコの焼け焦げが付いていた。

写真だけでなく現実の彼女の体にも・・そう思うと一馬の胸には熱いものがこみ上げてきた。


『そうだ、警察呼ばないと。』


携帯を取り出して開いたが、画面には圏外の文字が表示されていた。


一階に行けば固定電話があるのだろうが、その為にはもう一度あのリビングに行かなければならないことになる。


子供にあの光景を見せるわけには行かないが、もしかしたら犯人がまだいるかもしれない家の中でゆうとを一人にするのも危険な選択だ。


そんなことを考えていると、ふいにドアが開いた。


一瞬びくりと身がすくんだが、すぐに安堵のため息が漏れた。


「・・あの、どちら様ですか?」


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