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傭兵先生  作者: 五月
3/7

02:傭兵先生と特別教室

9/23 文を追加しました






「これで校舎の施設説明は以上です。何か質問はありますか?」

「肝心の特別教室はどこにあるんだ?」


一週間前、無事(?)に採用試験に合格した俺は、ようがくに来ていた。


どうやら、この一週間は俺が教師として働く準備の為の期間だったらしい。そうとも知らない俺は特に何をするでもなく日々を過ごし、今日、いつものように動きやすい傭兵服を着て学園を訪れたら滅茶苦茶めちゃくちゃ怒鳴どなられた。

ここの教師は基本、礼服を着て授業を行っているようで、一歩間違えればただのゴロツキのような傭兵服など以ての外だそうだ。


「今更そんなことを言われたって貴族じゃないんだから礼服なんぞ持ってない」


そう言ったら、学園長が礼服を貸してやると言う。

女性である朝日あさひ学園長のものは俺がいかに男としては細身だといっても無理があったので、

教頭のものを借りた。物凄く嫌そうな顔をされた。心外だ。


この教頭は元精霊騎士団副団長で、名を炎藍えんらんという。60を超えた今でも背筋は真っ直ぐに伸び、キビキビとした動きをする精霊族の爺さんだ。火属性のようで、赤い髪に金の眼をしている。金の眼といっても、随分眼が細いので微かにそうと分かる程度だ。



とまぁ、そんな訳で教頭の礼服を着た俺は朝日あさひ学園長に校内を案内してもらっている。


「特別教室は別棟にあります」

「別棟?ほかにも校舎があるのか?」


どでかい校舎を3つも回った後だったので、まさかまだ校舎が残っているとは思わなかった。


「では、案内します。ついてきて下さい」

「・・・・・」











******************************











特別教室は3つ並んだ校舎の1番後ろにひっそりとたたずんでいた。

他の校舎は首が痛くなるほど見上げなければならなかったのに対して、この校舎は首を曲げなくても全体を眺められるくらいだ。つまり・・・・・・・・・小さい。物凄く。



「ちっちぇー」

「ここが特別教室です」

「随分こじんまりしてるなぁ」

「1クラスだけですからね」

「あぁ、そういやそうか。・・・・ある意味豪華なのか?まるまる校舎1つが教室だってのは」

「中に入りましょう」

「おぅ」


無表情に近い顔をしながら先を進む学園長の後を追いながら、これからどうなることかと、1つ大きな溜息をいた











******************************











学園長の後ろを歩きながら廊下を進む。薄暗く感じるのは先入観による思い込みだろうか?

キョロキョロと初めて都会に出た田舎者のように周囲を眺めていると、妙に校舎が綺麗な事に気が付いた。


「なぁ」

「なんですか?」


まったく温かみの感じない学園長の返事を気にすることなく、疑問に思ったことを尋ねる。


「この校舎、いつ頃に建てたんだ?」


学園長は記憶を辿るように眼を泳がせると、口を開いた。


「・・・3年ほど前ですね」

「・・・・・特別学級始めたのも、それぐらいか?」

「そうですね」

「ふーん」


結構最近からなんだなぁ・・・。

陽佳はるかの奴、なんでこんなクラス作ったんだ?


儺依ない先生」


ようがくが開校してから約300年。どうして今更そんな・・・?


儺依ない先生!!」

「ぇ?あ、はいはい」


学園長が眉を吊り上げている。全然気付かなかった・・・。

まだ先生と呼ばれることに慣れていないせいか、《儺依ない先生≠俺》の公式が頭の中で出来上がっているみたいだ。


「もうすこし教師としての自覚を持って下さい」

「あ~」

「“あ~”じゃありません!まずは言葉づかいです。そんなことじゃ陽耀学園の教師としてはやっていけませんよ」

「まぁ、だろうな」

「“でしょうね”!・・・・・まったく。あなたが軽く見られるということは、国王陛下の威厳に傷つけるようなものなんですよ」

陽佳はるかの威厳ねぇ・・・」


其処らへんの事はまったく心配してないんだけどなぁ。

あいつが俺に猫かぶれって言わなかったってことは、自由にやってくれて構わないって事だろうし。

まぁ、それをこの学園長に言っても怒られるだけだろうけど。


「国王陛下を呼び捨てる事もやめてください。子ども達が真似したらどうするんですか」

「あぁ、はいはい。気をつけますよ」

「とても疑わしいですけど・・・まぁ、良しとしましょう」


その後、説教の様な事を言いながらも、妙に世話を焼いてくる学園長を受け流しながら廊下を進んだ。



(ていうか、特別教室遠くないか?ここそんなに広くないよな?)











******************************











「ここです」

「やっとか」


目の前の教室のプレートには『特別教室』の文字。

嫌な事をしている時は時間が経つのが遅く感じるとはいうけど、うん。すごい精神的に疲れたな。


「ん?」


教室の扉が少し開いている。よくよく眼を凝らしてみると、とても細い糸が見えた。


「初歩的な悪戯だよなぁ・・・」

「何か言いましたか?」

「いや。・・・・俺が先に入ってもいいか?」

「別に構いませんけど・・・?」


不思議そうな顔をしている学園長を避けて、ドアの前に立つ。


「ちょっと離れてろよ」

「え?」


ドアのくぼみに手をかけ、一気に横に引く。



バッッシャァァアアアンン!!!



「キャ!」


意外と可愛らしい学園長の悲鳴を聞きながら、最後に落ちてきたバケツを受け止める。


「へぇ。このバケツによくこれだけの水を詰め込んだな」


片手の手のひらに載りきるくらいの小さなバケツを覗きこむ。

底にみっしりと質量魔術が組み込まれていた。


「なんだ。おちこぼれクラスっつってたけど、なかなかレベル高いじゃないか」


この『特別教室』にはレアな中級魔術を使う生徒がいるようだ。

どうしようもない生徒を集めたという『特別教室』にだ!


―――――――――面白い


自分の口角が持ち上がるのが分かる。これからのことが楽しみになってきた。

未知のモノに対して好奇心が湧き上がるのは傭兵のさがだ。


「な、ななな儺依ない先生!」

「ん?」

「び、びしょ濡れじゃありませんか!!」

「あぁ、うん」


確かに、バケツの水を浴びた俺は濡れ鼠のようになっている。あまり気にしていなかったのだが・・・。

あ。そういればこれ教頭のだ。


「教頭に怒られちまう」


怒られるのはあまり好きではない。


「そ、そんなことより!誰ですか!?こんな悪戯をしたのは!!」


今更ながら自分の状態を確認しだした俺を追い越して、学園長が教室を覗きこむ。


「ははは!そいつホントに傭兵なのかよ?これくらい避けてみろよな!」

炯汰けいた君!」


声の方に目を向けると、茶色い髪を一つに結んだ少年がみどりの眼を輝かせながらニヤリと笑っていた。


(なるほど。仕掛けたのはこのガキか。なら、この魔術も?)


しげしげとその少年を眺めていると、学園長がこちらを振り向いた。


儺依ない先生!」

「はいはい」


長い前髪の水を絞りながら適当に答える。水が生ぬるくなって気持ち悪くなってきた。

そろそろ払うか。


儺依ない先生は先程わたくしに離れていろと言いましたよね!」

「そんな大きな声を出さなくても聞こえるって」

「言いましたよね!」

「言ったよ」


黒い髪を少し乱し、黒いつぶらな瞳を吊り上げる学園長。さっきまでの無機質な態度とは大違いだ。

何をそんなに熱くなっているのか分からないが、声を荒げている学園長を見るのは結構楽しい。


「この悪戯に分かってて引っかかったんですよね!?」

「悪戯ってのは引っかかってなんぼだよな」


答えになっていない返事を返しながら左腕を手のひらを上にして横に伸ばす。


「ハッキリ答えて下さい!」

「言い訳するなんて、かっこ悪りぃの!傭兵ってそんなもんなのかよ」


2人がごちゃごちゃ言ってるのを無視して口を開く。

もうこの湿気には耐えられない。


「「つどえ」」


一言呟くと身体を濡らしていた水が左手の上に集まっていくのが感じられた。髪が、服が、肌が、乾いていく。

それに比例して大きくなる水の塊。最終的に人の頭3つ分くらいの大きさになった。


「こんなに詰め込んでたのか・・・」


多いとは思っていたけど、これ程とはね。

この魔術を施した相手にさらに興味が沸いた。このガキに聞けばわかるだろうか?


「「散れ」」


左手の上に浮かんでいた水がザァっと空気に溶け込んでいく。


「おい。そこの炯汰けいたとかいったか?」

「!」


化け物を見たような顔をしているガキに向けて言葉をかける。

いつのまにか学園長は黙って俺の顔を見つめていた。


「このバケツの魔方陣描いたのは・・・・誰だ?」


俺の顔を見たとたん、炯汰けいたはビクッと一歩下がった。

今の俺はそれなりに悪い顔をしているようだ。











おまけ



儺依「うわっ、これめっちゃ首元暑い!」

教頭「これが礼服という物だ。我慢しろ。まったく。これくらいの暑さに耐えられないとは・・・やはり傭兵という者はうんたらかんたら」

儺依「うーん・・・・・・えり立てるか。お?ちょっとマシになったかも」

学園長「・・・・・もう、好きにしてください。・・・・・・・・・・・・・さぁ、行きますよ!」






礼服=スーツもどき



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