00:prologue
「っだぁ!めんどくせぇ!後何匹残ってんだ!?」
「玲愛さん頑張って下さい!今見えてるので最後です!」
「見えてるのって・・・・・何百匹いんだよこれぇ!そろそろ心折れるぞ!!」
「うるさいぞ玲愛!弱音吐いてる暇があったら目の前の魔物ぶった切ってろ!!」
「だぁぁぁああああ!わぁったよ、儺依!!由良!頼む!!」
「はい!【その脚は風よりも早くその眼は千里を見通すその腕は力強くその身体は鋼鉄のように硬い】!!」
「よっしゃ!ありがとよ、由良!ちょっくら行ってくらぁ!!」
「気を付けて!」
目の前に広がる魔物達の群れは大きく、まるで一つの生き物のように蠢いている。
ハッキリ言って気持ち悪い。
この集団に突っ込んでいった玲愛に関心しながら、目の前に飛び出て来た魔物を狩る。そろそろ魔物の血や体液で使い物にならなくなってきた刀を強く握ると一歩前に踏み込み、薙ぎ払う。
その剣圧によって魔物が一度に5,6匹吹き飛んだ。
「儺依さん!」
「ん?どうした?由良」
「あ、あの、玲愛さんにはああ言いましたけど・・・本当に大丈夫なんでしょうか?」
「お前がそれを言っちゃぁ、おしまいだろ」
「!そう、ですね・・・【絶対大丈夫】ですよね!!」
「ああ。ぜっっっっっったい大丈夫だ!俺達に任せとけ」
「はいっ」
由良は言霊を操る一族の生まれで、肩の少し下まで伸びた青い髪と、優しげな青い瞳がその証だった。
そして今、その少女から【絶対大丈夫】という言霊が発せられた。
だったら・・・・・・・・・俺達は絶対大丈夫だ。
「儺依さん【絶対に大丈夫 絶対に皆無事でこの騒動は解決します】!」
青い瞳に強い決意の輝きを見て、俺はにっと笑った。
「よく言った!」
由良の言霊によって身体が軽くなったことを感じながら、玲愛の後に続くように魔物の群れに飛び込んでいった。
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「ははは・・お互いぼろぼろだなぁ、儺依君」
「ああ。・・・それにしても、一国の王が酷い有様だな」
儺依と話しているのは、この討伐部隊の支援者であり、実際に戦場に出て魔法を振るうというお転婆(?)振りを発揮する、人間族の代表であり陽耀国の王である陽佳だ。
いつも身に着けている煌びやかな服を脱ぎ去り、そろらの傭兵が着ているようなボロを身に纏っている。といっても、その服の頑丈さは非常に高く、三下が振るうような剣では傷一つ付けることはできないだろう。
「いーの、いーの。たまには発散しないと」
「発散ってレベルじゃないけどな」
全身に傷を負いながら、それでも2人の表情は明るい。
「それにしても、儺依君さぁ」
「あ?」
「その髪、邪魔じゃない?」
「ん~あ~まぁ、こういう時はちょっと邪魔だとは思うけど」
「伸ばしてる事に何か意味でもあるのかい?」
儺依の髪は長い。いつも首元で一つに結んでいるが、その長さは腰にまで及んでいる。儺依が首を傾げるのに合わせて、黒い髪が揺れた。
「いや、あるっちゃあるが、ないっちゃない・・・・・・・・・・・これが終わったら思い切って切ってみるか」
「おーおー、そうしろ、そうしろ!切ったら一度顔見せに来なよ」
「気が向いたらな」
「くくく・・俺の頼みをこんなにあっさり流すのは、君くらいだよ」
「そりゃどーも」
こんな呑気な会話をしているが、未だに魔物の勢いは衰えておらず、他の仲間たちは応戦中である。
では、何故この2人が戦場から少し離れた場所でのんびりしているかというと、
1.儺依の刀が使い物にならなくなってしまったため
2.後ろから全体の様子を確認するため
4.皆が区切りをつけて戻ってくるのを待つため
3.魔物達に、とっておきの魔法をぶつけてやるため
ぞくぞくと戻ってくる仲間たちを迎えながら、儺依と陽佳は魔力を溜めていく。
最後の最後に玲愛が戻ると、2人は5歩ほど前に進み出る。
「さぁ、これで終わりだ」
「風呂入りたい」
「唐突だなぁ。これが終わったらいくらでも入れるだろう?なんなら俺のを貸してあげようか?」
「よし!言ったな。約束守れよ。お前のトコの王宮だけあって広いもんなぁ」
「良いよ。その代わり儺依君も俺の言う事1つ聞いてくれよ」
「1つだけな」
「交渉成立だ。・・・・・・・・・・さぁ、儺依君をお風呂に入れてやる為にも早くやってしまおう」
「おう。俺を早く風呂に連れてってくれ」
「「赤き灼熱の使徒よ 集え集え 闇を貫く槍となれ
世界を巡る者よ 廻れ廻れ 赤に添いてその導き手となれ
母なる息吹よ 逆れ逆れ 生命の争奪者となれ
満ちたる者よ 包め包め 全てを覆い1つとなせ!」」
魔物の群れ、儺依、陽佳、他の討伐部隊達そして山や空が白く白く染まり―――――――――
この日、陽耀国から山が1つ消えた。