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1.頭のおかしい異世界

常光つねみつ 源寺げんじ

男は、近所の人間が知ってる程度の小さな会社に勤務し続けて定年退職し、その8年後に脳を患って入院した。

そして、若干の回復を見せるも生涯童貞だったその男に身寄りは無く、少しずつ弱って74年のつまらん人生を終えた。


……筈だった。


「……何なんだここは」


先の見えない深いジャングルの中で男は目を覚ました。

奇妙な事に男は若返っており、そのくせ服は患者衣のままであった。


(どうなっている……訳が分からんぞ。

俺は確かに……あれ、おかしい。

記憶が曖昧だ)


脳の病を患ったせいなのか、男は数年間の記憶をはっきりと思い出すことが出来なかった。

男の中でただ地獄のような日々だった事だけが現実感の無い遠いものとして残されている。


呆然としていても仕方がないので、男はできる限り情報を集める事にした。

夢かと疑って頬を引っ張ったが痛みで頬が悲鳴をあげたので手を離した。

呼吸はちゃんとしているようで足にも地を踏む感覚がしっかりとある。


(夢って訳じゃ無さそうか?)


男に異世界転生や転移の知識は無かった。

つまり、この状況を即座に理解して順応する術を持っていなかったのだ。


(参ったな……道具すら特に無いし、こんな所にいれば間違いなく遭難したまま餓死だ)


嫌な想像を頭が巡り、背を冷たい汗が伝う。

ややパニックになりかけていた頭を起こし直すように両頬を平手で打ち、男は必死に考えた。

右も左もわからない場所にいる。

助けが来るとはとてもじゃないが思えない。

何より、植生がおかしい。

辺り一面樹木だが、竹でもないのに幹まで緑色で20mはあろうかと言う巨木が生え並んでいる。


「日本……とは思えんな」


未知な植物が存在するなら、未知な動物がいてもおかしくない。

男は愚策とは知りつつもその場から立ち去るしか無いと考えるようになり始めた。



しばらく方向も定めずに歩いていると、何処からか物音が聞こえた。

激しく何かが動き回るような感じの音だ。

男は、慎重に身を隠しながら音の方へと近付いていった。


(何だ……? あの生き物は)


80mほど進んだ所にあったのは、巨大な猪だった。

それも赤い猪だ。

小さく見積もっても5mはありそうなそれは、何と既に息絶えていたのだ。


よく見ると猪の上に何かがいた。

目を凝らして見てみると、それが人間である事に気付いた。


(女の子だ……かなり小さいな。 7歳……8歳くらいか?)


褐色の肌に白くて長い髪、青い瞳、

そして大事なところだけを隠したかのような露出度の高いビキニアーマーのような格好。

それは……この場所が日本はおろか、男が知り得ない場所である事の証拠であった。


(美しい……)


しかし、男にとってそんな事はどうでも良かった。

男は……ロリコンだった。


(モチモチしてそうなほっぺた、微かに垂れた大きな目、

身に余る大きさの槍を軽々振り回す姿、何よりも健康的な褐色肌が映える鍛えられた腹と腿……かなり好きだ)


男は目の前に現れた少女に見惚れるあまりその場から一歩近付いてしまった。


「誰だ!!!」


(……日本語?)


少女は獣じみた反応速度で男を視認すると瞬く間に猪から飛び上がり、槍を振り下ろしながら男めがけて落ちた。


「うわぁああ!!!」


男は突然の出来事に悲鳴をあげながらも間一髪で後ろに跳んだ事で槍から逃れた。

流石にまずいと考えた男はなりふり構わず逃げようとしたが、

少女が信じられない脚力と槍を駆使して木を飛び渡り、一瞬で追いつかれてしまった。


「何だよそりゃ?!」


刹那、男の左頬を回避の余地がない攻撃が襲う。

少女の裸足が暴力となって男に降りかかったのだ。


「ぐぁ?!!」


少女から放たれた蹴りは今までに受けたどんな衝撃をも超えており、男は一瞬で意識を刈り取られてしまった。



今までの出来事が様子のおかしい夢だった……と言うのならどれだけ良かっただろうか。

俺は再び見知らぬ場所にいた。


「……だから何処なんだここは」


半分憤りすら感じていたが、流石に状況を察する事は出来る。

俺は何処かの洞穴に連れて来られたらしい。

目が覚めた途端、俺は尖ったデカい結晶に植物か何かで作られた縄で縛られて動けなくされていた。


目の前には簡素な焚き火があり、視界はそれのおかげで辛うじて確保できている。

焚き火の両脇に手頃な太い枝が突き立てられており、それを支えにして枝を通した巨大な肉がぶら下がっている。

そして、その様子に目も暮れず俺の事を警戒したままじっと見ている少女がいた。


「質問に答えろ。

お前は何者だ」


「俺は…….源寺 と言う。

日本人だ」


「ニホンジン? 何だそれは?」


「……何だそれはって事はないだろ?

お前が話してるのは日本語じゃないのか?」


「ニホ……ンゴ?」


おかしな感じだ。

まるで少女は日本というものを知らないかのように頭の上に疑問符を浮かべている。


「怪しい奴だな。

ゲンジとか言ったか?

お前、私から獲物を横取りしようとしていただろ」


「獲物って……あのデカい猪の事か?

勘違いしないでくれ、俺はそんなものに興味はない。

あんなデカいのどうやったって俺が持ち運べる訳無いだろ」


「…………確かに、お前かなり弱かったな。

なら何であんな所にいた?」


失礼なお嬢ちゃんだな……初対面の相手を弱いと吐き捨てたぞ。


「それは俺が知りたいくらいだ……いや、待て。

信じられないかもしれないが聞いてくれ

俺は気付いたらここにいたんだ。

少し前まではこことは違う別の場所……日本という国にいた筈なんだが、いつの間にかこのジャングルで迷っていた。

お前に近付いたのは音が聞こえたからだ」


少女は眉を顰めだが、少し黙り込んだ後に近付いてきた。


「本当に、嘘ついてないんだろうな?」


「本当だ」


「……お前が嘘をついてないのなら、お前はクムネリという事になるな」


「クムネリ?」


少女はまだ少し俺の事を警戒しつつも縄を解き始めた。


「“現れし者” と言う意味だ。

私たちの世界には、たまにお前のような

別の世界…… “クィーナシュ” から落ちてきた迷い人が現れる事がある。

彼らは総じて我々ロリに特別な力を与え、導くと言われている」


……ん? 今なんか変な事言わなかったか?


「今ロリって言った???」


「……?

あぁ、そうか。 お前が本物のクムネリなら知らないのだったか。

この世界には性別が3つある」


「は? 性別が3つ???」


「そうだ。

男、女、そしてロリだ」


「…………何を言ってるんだお前は?」


「ロリは女に近い姿形をしているが、これ以上成長しないんだ。

子も成せない。

その代わりとして非常に優れた身体能力を生まれ持っている」


少女は曇りない眼で真剣にそう言い放った。

俺はあまりにも意味が分からない事を言い放たれて言葉を失った。

少女は縄を解くと肉の方へ移動し、焼き加減をチェックし始める。


「えっと……つまり、お前はロリという性別に区分される人間なのか?」


「そうだ」


「何なんだこの世界は」


俺は頭を抱えた。


「……下らない質問なんだが、子供の女とロリを見分ける方法はあるのか?」


「無いが、力がお前より強ければロリだ」


少女は誇らしげに力こぶを作って見せてきたが、その腕はあの巨大な猪をどうにか出来たとは到底思えない程にぷにぷにしていた。


「外見上の変化は無い……か。

ロリなんて性別があるんなら子供の姿が変わっていてもおかしくは無いと思ったんだがな。

精神的な差異は?」


「ロリによるとしか言いようがないが、肉体年齢の停止と同時期に精神の成熟も止まると考えられてる」


「……お前その割には随分と落ち着いてて説明が上手くないか?」


「…………私は、こうならなくては生きられなかったんだ」


何か含みのある発言が聞こえた気はするが、

それはそれとして俺は少しだけ安心した。

性癖の都合上、これから生き抜かなくてはならない世界で子供の姿が俺の知るものとは違ってしまうのはかなり萎えてしまう。


……とは言え、ロリとか言うご都合性別が存在している事実を受け入れる事が出来ると

もしかするとこの世界は楽園なのでは無いかとすら思うようになり始めていた。


俺はロリコンと言ってもロリババアや見た目が幼いだけの女性…… “もどき” も平等に愛でる事が出来るクチだ。

しかし、この世界におけるロリというものは単純に “もどき” の3文字で片付けられるような存在ではなかった。


要は寿命になるまで歳を取らないロリだ。

ただ、精神の成熟速度自体は個体差があると見て良さそう……か?

何にしても、あまりにも俺にとって都合が良すぎる生き物だ。

新手のデカい詐欺すら疑った方が良いかも知れん。


「しかしお前、本当に何も知らないんだな」


「仕方がないだろ……こっちはこんな世界見たことも聞いたこともない。

俺たちの世界じゃ、ロリってのは小さい女の子とかを表す言葉なんだよ」


少女は火の通り加減を見て結晶と同じ材質に見える皿と小刀を持つと、綺麗に肉を切り分けて

何処から取り出したのか掌から妙な粉を散らした。


「随分とぶっ飛んだ話だな……意味が分からない」


「その感想は丸々俺が抱いてるものだ。

返せ」


「返せって……何をアホなことを」


少女はため息を吐くともう一度確認するように尋ねてきた。


「しかし噂では聞いていたが、本当にお前の世界にはロリが性別になってないのか?」


「当たり前だ。

俺たちの国……いや、世界には肉体的な性別は基本2つしか無かった」


「……そうか」


少女は僅かに影のある表情を浮かべたかと思えば、すぐに今まで通りの無感情に近いものへ戻り

こちらへ肉を差し出してきた。


「食え」


「……何かさっき変なものふりかけて無かったか?」


幾ら相手が可愛いロリとは言え、まだ心を許すには値しない。

……と言うかつい先程まで俺を力づくで捕らえていた張本人なんだから、当然の警戒だろう。


「安心しろ。 あれは塩だ」


「……塩?」


「あぁ、塩は貴重品なんだが

私にとってはありふれたものだからな」


嘘をついているようには見えない。

しかし、確認しなくてはならない事があった。


「さっき、その塩はどっから取り出したんだ?

その皿と小刀……あとこのナイフとフォークも、だ」


少女は一瞬はっとしたように目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「見られていたか……なるべく見えにくいように位置取りしていたと思ったんだがな」


「話し相手がお前しかいないんだから目で追うのは当たり前だろ」


「はぁ……まぁ、良いか。

お前がクムネリだと言うのなら、教えてやっても良い」


そう言うと少女は肉を再度差し出してきた。


「その代わり、これを食べてもらう。

食べながらなら話してやる」


「……お前な」


「お前が私を警戒しているのは分かる。

そして、それと同じくらい私もまだお前を警戒している。

お互い、まだ何も信用していないんだ」


「……」


この先は言われずとも分かった。

信用を示せ、とでも言いたいんだろう。


「私が混ぜたものは決して毒の類ではないし、お前に害のあるものではない。

だから、まずは私を信用してくれ。

それがお前にとって私に信用を示す事にも繋がる。

この肉を食べる事で、まずはお互い最低限の信用をする事にしようじゃないか」


「……なるほどな」


少女はそう言って自分の分として取り分けた肉にも塩と思われる謎の粉をかけて

目の前で食べてみせた。

この子、ふざけた格好こそしているが

思っていたより話が通じるタイプらしい。


少女が食べる様子を見ながら俺も恐る恐る目の前の肉にかぶりついた。


「美味っ………?!」


初めて食べた猪肉は衝撃的な美味さだった。

いや、違う……この味、風味……立役者はあの塩だ。

僅かな量をふりかけただけで獣臭さをほぼ消してしまい、肉汁と完全に溶け合って調和している。

そのせいなのか肉自体も非常に柔らかく、滑らかな口当たりをしている。


(馬鹿な……こんな塩、いや……調味料は知らん)


塩辛さはなく、肉の味を一切妨害する様子がない。

まるで最初からこの味であったかのようにごく自然な旨味を極限まで引き出している。

日本人はかなり舌が肥えている部類だと思っていたんだが、こんなものを食べてしまえばもう引き返す事は出来ない。

かつて食べてきた肉の味ももう吹き飛んでしまった。


「そんなに美味いか?」


「美味い……今まで食った肉が可哀想になるくらい美味い。

……なぁ、この塩は何なんだ?

何処で採れるんだ?」


ここまでの塩だ……何処かで手に入るなら是非欲しい。

俺は食にそこまで興味は無かった筈なんだが……舌が、喉が、絶品を欲している。


「この塩は、ただの塩じゃないんだ」


「百も承知だ……が…………?」


ふと、少女がこちらへ見せるように左手を開いている事に気付いた。

視線をそちらの方へと向けてやると、どういう現象なのか

掌の中からキラキラとした砂みたいなものが湧き出して地面へと溢れている。


「おい……それ、どうやってるんだ?」


聞かずとも分かる……塩だ。

少女は何処から取り出すでも無く、掌から塩を出していた。


「その様子だと、私の人種については知らないんだ」


「……人種?」


何故突然人種の話になるのだろうか……?

そんな疑問はすぐに晴らされる事になった。


「……その様子、とりあえず嘘じゃないって事にしておいてやる」


少女は安堵しつつ、手を引っ込めて一回咳払いした。


「私の名は、ソルト。

世界七大秘宝の1つ数えられる “塩の民” だ」


「そ、ソルト……? 塩の……民??」


随分安直な名前だな……と思ったが、口にはすまいとした。


「安直な名前だなって思ったか?」


「…………」


突然図星を言い当てられてしまい、俺は反論できなかった。


「ソルトって名前、クィーナシュでは “塩” って意味だよな?

塩の民はただでさえ数がものすごく少ないのに、ロリの出生率が10%くらいしか無いんだ。

……その上、塩の民の風習で産まれたロリには必ず

ソルトって名前を付ける事になってる」


ソルトと名乗った少女は少し暗い表情で語ってくれた。

しかし、ソルトの口は止まらない。


「……塩の民は、 “神塩” と呼ばれている特殊な塩を体内で生成、取り出す事が出来る。

神塩は世界中の人間が血眼になって手に入れようとするくらい高価なものだから、まずこの世界の人間が塩の民を知らないなんて事はない」


ソルトはそう言うと、下げていた視線を戻して俺の方を見た。


「ま、もしお前が嘘をついていて私を騙そうとしてても

力で私に勝てないんだから、私を力づくで何処かに連れて行って売り払おうなんて考えない事だ」


「はぁ……そんな事する訳無いだろ」


俺はそれだけ言うとまた肉にかぶりついた。

ソルトは無理に笑っているような顔をしていたが、少しだけ顔が綻んだ気がした。


「なぁ、お前自分の名前とか欲しくならないのか?」


「……いや、私の名前はソルトで」


「そうじゃなくて……いや、説明が難しいんだけどさ

お前の名前って要は風習でそう呼ぶことを決められただけのものだろ。

お前自身を、お前だけを差す名前が欲しいとか思ったりしないのか?」


「……考えた事はある。

けど、まぁ別に良いかなって」


この言葉には嘘偽りが無い気がする。


「悪い、変な事聞いた」


その後、俺は肉を2皿おかわりした。

美味しかったしあっさりしていたのでいつの間にか完食していた……確かに、この塩には人を狂わせる魔力がありそうだ。



「さて、と……食べたな? 食べたよな?」


「ん? あぁ、美味しかったぞ。

ご馳走様」


お皿と小刀、ナイフ、フォークがいつの間にか何処かへ消えていた。

……どうやらあれらも神塩とやらで出来ていたものだったようだが、もしかしてこの子が扱えるこの特殊能力のようなものはかなり汎用性が高いのでは?


「はぁ……あのな、もしかして私がタダで肉と塩を提供したとか思ってないよな?」


「え?」


「そんな訳がないだろ?

あの猪だけでも一軒家くらいのお値段するのに、そこに神塩をふりかけたんだぞ?

わ、た、し、の! 神塩を」


「………………お前、騙したな?」


「騙してない。

私とお前が互いに信用した事とこれはまた別の話。

当然、正統な対価が発生する」


情に流されかけた上に侮っていた……この子は狡猾で全く油断ならない!!


「はぁ…………はいはい、それで? 何が目的だよ。

俺は別の世界から来た男だぞ? 対価として支払えるようなものなんて」


「私の旅に同行して」


「……は?」


「だから、私の旅に、同行! して!」


「何で俺が?」


「さっき話したでしょ。

クムネリは総じて我々ロリに特別な力を与え、導くと言われているって」


「つまり……俺がクムネリだから、その特別な力とやらを貸して欲しいと?」


「そう」


「……そうは言っても、俺はただの人間だぞ?

お前みたいに特殊な人種で変な力がある訳じゃないし」


「いや、特殊な人種だろ。 クムネリなんだから」


「………………それはそうか」


異世界人にしてみれば地球人は確かに特殊な人種って事になる。

完全に盲点だった。


「いやでも、その特殊な力ってなんだよ」


「それが分からないから同行しろって言ってるんだ。

ちなみに、拒否権は無いからな。 決定事項だこれは。

……それに、どの道行くアテも無いんだろ?」


「それは……まぁ……」


「安心しろ。

お前の事は私が守ってやるし、飯もたくさん出してやる。

だから、期待しているからな」


「はは……は…………」


漠然とした理由が絡まって縄のようになり、俺を縛り上げた。

どうやら、俺はこんな適当な理由で旅に付き合わされる事になるらしい。



俺たちは5日間このジャングルに滞在した。

当面の食料や水を確保するのと、簡易的な船を作る為だ。

ソルトは背丈の半分くらいある巨大なバッグに干して塩漬けにした猪肉を丁寧に植物の葉で包んだものを

これまた丁寧に並べて入れていった。

水は拠点としていた洞穴の近くに綺麗な川があったので

塩の鍋で煮沸して、空洞で頑丈な植物を加工した水筒に詰め入れたものを何本か用意した。


どうやらソルトが出せる神塩は用途に応じて性質を少しだけ変化させ、塊にして自在に形を整える事も出来るらしい。

火に強く、溶けにくく、それでいて熱を通しやすい性質を持った塩の鍋は

地球で使っていた鍋と遜色ない程の性能だった。


遂には船すらも塩で作り上げてしまった。

しかもちゃんと水に浮くし、動力は自動で補完している。

簡易的な乗り物すらも自力で何とか出来てしまうとは……異世界とは恐ろしい所だ。


「で、そろそろ教えて欲しいんだが

何で旅なんかしてるんだ?」


一通り準備を終えて、後は船の動力が溜まるのを待つだけになった頃

俺は今更とも思える質問をした。

とは言え、ここしかタイミングが無かったのだから仕方がない。

他の作業をしている間にもずっと船を作っていたし、終わったかと思えば疲れたのかすぐに寝てしまっていた。

寝息を立てるソルトを焚き火越しに見ていたが、こんなにも可愛いロリが何を求めてここにいるのか……日増しにその疑問は膨らんだ。


「どうしても欲しいものがある」


「欲しいもの?」


「この世界には、世界七大秘宝と呼ばれるものがある。

……私がそのひとつ、塩の民だと言う話はしたな」


「あぁ」


世界七大秘宝、それは手にすれば莫大な富を得られるとされる七種の宝だ。

塩の民は神塩と呼ばれるとんでもなく高価な塩を身体から生み出す事が出来る。

上流階級の者ですら神塩を一生で一度も口に出来ないものが殆どであり、その価値は拳大の塩塊を箱一杯に敷き詰められたダイヤモンドで取引した公的記録が残っている程だ。


「私が欲してるのは……七大秘宝のひとつだ」


「何故だ? 塩さえ売れば金に困る事は無いんだろ?」


「私が欲しいのは金じゃない……秘宝そのものだ」


「……何か特殊な物質なのか?」


「木の実なんだ。

ロリがその実を口にすれば、最強の力を得ると言われている。

ただ……その実をならせる木はある島にしか生える事が出来ないものでな。

当然、市場にも出てこないから自ら取りに行くしか無い」


ソルトは船の上に座ると真剣な様子で続けた。


「その実の名は……………………メスガ」


沈黙が数刻流れた。


「なんて?」


俺は聞き間違いを疑った。


「メスガだ」


俺は目頭を抑えたまま空を仰ぐ。

え? 聞き間違いじゃないの??


「えっと……なぁ、木の名前教えてもらって良いか?」


「メスガ木だ」


「あー…………マジか」


秘宝だと言うからどんな凄いものが出てくるのかと思っていたが

俺は完全に忘れていた。

ここは、ロリなんて性別が存在しているトンチキ世界だ。


しかも、正気の沙汰とは思えないような木の名前を口にしているが

当の本人は真剣そのものだ。

俺はどんな感情を抱いて良いのかすら分からず、ただこの先何があっても

『属性爆盛りロリ(性別)とメスガ木を目指す』

とか言うふざけた目標だけは変わらない酷過ぎる現実を前に項垂れるしかない。


俺はここから一つの教訓を得た……物や人の名前ってふざけちゃ駄目なんだわ。



時は過ぎ、出航の時が来た。

俺たちは2人が横になってもスペースにかなりの余裕がある塩の船に荷を乗せて、固定していた杭と縄を外した。


次に向かう先はすでに決まっている。

商い島だ。

この世界には大陸は存在するものの、それぞれの距離がかなり離れているらしく

殆どの国家は島国として周辺国と連携している。


商い島はそんな中でエリア内の商業を担っており

この先、旅に必要なものは大体手に入る。


「これは、ビジネスコンパスと言うものでな。

1番近くにある商い島の方向を正確に指し示す道具だ」


ソルトの掌には正四角錐状の半透明な物体が乗せられていて

その内側を砂鉄のようなものが液体の中を流動している。

現在その砂鉄の大半は錐の一辺に固まっているように見える。

恐らく、これが商い島とやらを指し示す方向だ。


「確認なんだが、本当に舵取りする必要無いんだな?」


「必要無い。

この辺りの海は殆ど波も立たず大きく荒れた事もない。

静かな海とまで言われているくらいだ。

たまにオールを使って帳尻を合わせてやるだけで良い」


ソルトは胸に手を当てて自慢げにそう言うと、船尾の辺りに取り付けられている箱に火を投げ入れた。

……どう言うメカニズムかは分からないがこれだけでこの船は商い島まで行けるだけの動力を獲得出来るらしい。


「さ、出発だ!」


船がゆっくりと動き始める。

俺としてはこれが人生初の船旅になる。

最終的な目標は一旦考えないものとしつつ、少しだけワクワクしている自分がいた。



緩やかな船旅の中で俺たちは魚を取ったり、軽い談笑をしたりして時間を潰して行った。

そんな中でも慣れない文化の違いや身体の違いから出る生活習慣の差に驚かされる事も多々あった。


「それ、海水だよな……?」


「ん? そうだが」


まず、ソルトは海上では水に一切口を付けなかった。

その代わりとして飲んでいたのがまさかの海水だ。

彼女は塩のコップを生成するとその場で海水を汲んで

水でも飲むかのようにゴクゴク飲み干してしまうのだ。


この世界の海水も恐らく地球のものと大差ない筈なので俺の認識はズレていないと思うんだが、

海水はそのまま飲み水にはできないとされている。

普通なら海水なんて飲み続けてしまったら塩分濃度が高過ぎて様々な身体異常を引き起こし、最悪死亡するケースもある。


そうでなくとも海水には細菌や寄生虫などが大量に存在していて衛生面で見ても最悪の部類だ。


「おい、海水なんか飲んで大丈夫なのか?」


心配になった俺は何度目かの給水時に堪らず質問した。

しかし、当の本人はケロッとした表情のまましばらく何を言ってるのか分からないと言った様子になり、

考え抜いてようやく言葉の意味を理解した様子を見せた。


「そう言えば一般的に海水は毒とされているんだったか……」


「一般的にはって……」


「あー……これは説明していなかった私が悪いな。

塩の民はこうして、たくさん塩を摂取しないといけないんだ」


「……もしかして、体内で神塩を作る為にか?」


「そう言う事だ。

言わば我々にとって海水は恵みなんだ。

……それに、塩の民には毒や菌の類は効かない。

寄生虫も体内環境が一般的な人間のものと異なるから生存出来ないんだ」


「なるほどな」


納得出来るだけの理由が返ってきたが、何処か地球由来の知識を感じられて違和感の残るものだった。

……そう言えばソルトの名も由来は英語だったな。


この世界、ひょっとしなくても俺が考えている以上に地球からの文化流入が多いんじゃないのか?


俺は微妙に見え隠れしてくる地球文化にも戸惑いつつ、食える葉と干し肉を口に詰め込んだ。

……ふと、突然俺は今まで考えていなかった発想に辿りつく。


干し肉を食べる中、潮風に髪を靡かせる彼女が目に留まった。


(あれ……?)


この塩、今まで考えて来なかったが彼女の身体から生成されたものだよな……?

つまり……俺は今合法的に、許しを得て、何のお咎めもなく、

生産者の顔を知りながらロリの分泌物を口にしている事にならないか???



ロ  リ  塩  !  !  !  !  !



「美味いだろ?

干し肉だからって侮っちゃいけない……神塩はあらゆる料理に使える万能調味料だからな」


ソルトは誇らしげに干し肉の味を……いや、神塩の万能さを自慢した。


「一生付いていきます!!!!」


「うわぁっ……! な、何だそんないきなり食い気味に?!」


「……すまん、つい声がデカくなった」


俺は鼻歌を歌いながら肉を味わい、若干引き気味にこちらを見てくる彼女を見ては

もう一度肉を口に運んだ。

これは…………楽しい旅になりそうだ。


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