3-2
人の気配。
覗き見ると、倒木に腰掛けた女が一人。
膝に黒パンを置いて、しかし食べる気がないのか呆けたようにあらぬ方を見ている。
手頃な石を拾い、そっと木陰に紛れて後ろに周りこもうとするが。
『……』
子供の声?
狙いの女とは明らかに異なる声。
他にも誰か?
息を殺し、耳目を研ぎ澄ませる。
『いつまで捨てずにいるつもり? あれはお前を殺す子だよ?』
「……は?」
思ったまんま声出てた。
しょうがないじゃない何日も飲まず食わずで私悪くないしょうがない。
なんて頭ん中言い訳だらけになってた最中。目の前に何か飛び出してきた。
「……虫?」
『虫と一緒にするなんてひどいや、帰る!』
人みたいな虫みたいな羽生えたその変なのは、むくれた顔をするやどこかへ飛び去ってしまった。
「えー……?」
と。
はた、と目が合った。
黒パン違うさっきの女。
ぐるるるるるぅ……
凶悪な獣の唸り声。のような。凶悪な腹の虫の唸り声が辺りに響き渡る。
「………………えっと、食べる?」
一も二もあるはずもない。
考えるより先に両手が黒パンを掴み、一瞬も違わず口がそれに齧り付いていた。
「げぇほげっほ、かはっ……」
からからに乾いた喉が、同じく乾いた黒パンを飲み込ませまいと抵抗する。
「飲む?」
ごく!ごく!ごく!
ぷはっ!
拳二つ分ほどの黒パンと水袋いっぱいの葡萄酒が瞬く間に胃に収まる。
「落ち着いた?」
「うん、ありがと。いや違くて!」
「うん?」
「何さっきの!人間?虫?」
「あー、えっと、見えちゃった?」
「見えたし聞こえた!」
「えっと……妖精?」
「ようせい?」
「そうそう」
「………………」
「………………?」
「なんかヤバいこと言ってなかった? お前を殺す子とかなんとか」
「ああ。うん、言ってたねー」
「言ってたねー、じゃなくて。なんでそんな落ち着いて、っていうか笑ってんの? 私おかしい?」
「おかしいかって? うん、とっても。だって、妖精の言うことなんて真に受けてるんだもの」くすくす。
「は? なにそれ」
「妖精なんていたずら好きの子供と一緒よ? ほんとのことなんて言うと思う?」
「えー。あー、まー、えー……そっかぁ」
「うん、そうそう」
その後何か話した気もするんだけど。
覚えてない。寝ちゃって。




