非日常
私に闇が触れるか触れないかくらいのタイミングで、突如光が路地裏を照らした。
あまりの明るさに咄嗟に目を瞑った私の耳に声が聞こえた。
「キミさ、お金持ってる?」
「…え?」
なんだこの落差。
聞き間違いか?お金?金ってカネ?マネー?
とうとう私もくるところまできたらしい。
この土壇場でとんでもない聞き間違いをしたようだ。
何が何だかよくわからないが、私に言ってるのか?
この状況で?
ようやく明かりに慣れてきたので、薄目を開けると目の前には何やら苦しんでいるような様子の"異形"と、よくある幼女向けアニメに出てくるようなぬいぐるみ的な生き物から後光が差している。
うん、わからん。
人間が視覚から得られる情報量は全体の約8割らしいので、見てわからない今の状況は考えてもあまり意味がなさそうだ。
「ボクが聞いてるんだけど。持ってるの?持ってないの?」
「しゃべった!??」
我が家にも在庫処分で電気屋に売れ残っていた話すうさぎのぬいぐるみはいるが、あの子は私が話した言葉を真似することしかできない。
ちなみに最近よく話す言葉は「仕事行きたくない。」だ。
「その説明今必要かな?助けてほしいんじゃないの?見捨ててもいいならこのまま行くけど。」
そういえば、絶体絶命の危機なのを忘れていた。
ここで見捨てるという選択肢があるのか。
この状況でか。
助けてもらえるならぬいぐるみ?の手も借りたい。
「助けてほしいです。ほんとに。」
「だから聞いてるでしょ。お金は持ってるかって。」
今日は幸いにも給料日。
財布には仕事帰りに引き出した生活費が入っている。
お金を寄越せば助けてやるってこと?
見た目によらず、がめついぬいぐるみだな。
だが、背に腹はかえられない。
どうせ死んだら使えなくなるお金だし、一縷の望みにかけてもアリかもしれない。
「お金ならあります。」
「じゃあ、さっさとこれに入れてくれるかな。」
妙にキラキラカラフルなATM型貯金箱のようなものをどこからか取り出した。
お札オンリーなんだ。小銭は受け付けてないんだ。
いやいいけど、流石の私も小銭で助けてもらおうなんて思ってないけど。
"異形"は相変わらず苦しんでいるようだが、先程よりも動きが大きくなっている。
慌ててバッグから財布を取り出し、国で一番高額な紙幣を一枚引き抜いた。
それをお金を吸い込む口に差し込むと、ジーッとATM型貯金箱に吸い込まれていった。
「入れました、これで助けてもらえるんですよね。」
その眩い光でアレをなんとかしてくれ。今すぐに。
「助けるなんて言ってないけど。」
「…はぁ!?」
いや言われてはないけど。
助けて欲しいんじゃないの?とは言ってたよね?
このタイミングでお金要求されたら対価に助けてもらえると思うでしょ普通。
「あんたね、いくらそんな格好してるとはいえ、やっていいことと駄目なことがあるでしょうが!」
「ちょっと待って、先走らないでくれる?助けることはできないけど、その価値に見合った対価はあげるよ。」
そうぬいぐるみ?が言うと、ATM型貯金箱の形が変形しだし、ピュアピュアなステッキに変わった。
「どーぞー。」
手渡されて咄嗟に受け取るが、私にどうしろと言うのか。
「え、いや、え!?」
「もー、お姉さん物分かりが悪いなぁ。これ使ったらアレ倒せるかもよ。やってみたら?」
まじか、まじでか。
流石のピンチとはいえ私にそれはキツくないか。絵面が。
まじまじとステッキを見て自分が振っている様子を想像していると、完全に"異形"が復活したようでこちらに向かってきた。
「あーもー、わかった!どうにでもなれや!」
恐らくこのボタンを押すのだろう。ステッキに付いているボタンに指をかけ、思い切り押した。
その瞬間ステッキからはあのぬいぐるみ?から発されていたものと同じような光が輝いて、私を包んだ。




