邂逅
いつも通り定時に仕事を終わった私は、給料日ということもあり、家にある食材にプラスで刺身でも買うかと意気揚々と歩いて近所のスーパーに向かっていた。
「あー、信号変わった。」
丁度目の前で信号が変わったのと、早く買うものを買って家に帰りたかった私は、急がば回れと普段は昼間くらいしか通らない裏路地へ足を向けた。
この時の私に言いたい。
急いでんならそのままその信号を待てと。
いくら定時とはいえこの時期は日が落ちるのも早く、路地裏はやっと歩けるくらいの光しか無い。
少しこの道から向かうことを後悔しながらも歩いていると、視界の端に影が映り込んだ。
後ろから誰か来た?この普段誰も通らないようなこの路地裏に私と同じタイミングで?
自意識過剰なのはわかるが、何かあってからでは遅いとの母からの日々の教えにより歩くスピードを早めた。
だが、影が遠ざからない。
ついでに言うと、足音がしないのだ。
流石に気味が悪くなり、相手にバレないように髪を直すフリをしながらちらりと後ろを覗った私は、見えてしまったものになんとか抑え込んだ小さな悲鳴を上げた。
"異形"
そうとしか言いようがないナニか。
人のようだが人ではない。
暗闇と人を混ぜ込んだらああなるのだろうといった形のものが後ろに迫っていた。
いっそのこと気絶してしまいたかったが、もうこれ追いつかれたら詰むやつ。というのは人間の本能で理解ったので、普段の私からは考えられないくらいのスピードで走り出した。
こういうのはGと同じで見失った方が怖いので、たまに後ろを確認するが、付かず離れずといった具合で距離は近づきも離れもしない。
「なんで走ってんのに距離変わらないわけ!?」
でももうすぐ裏路地も抜けて大通りに出られる。少し気が緩み、再度後ろを確認した。
いなかった。いなくなっていた。
「待って、今居なくなるのは逆に怖いって。」
足を止めて振り返り、走ってきた暗闇に目を凝らすがやはり何もいない。諦めてくれたのか。
そう思い大通りの方にまた足を向けよう…と…した。
私にかかるこの影はなんだ。
人間の本能というのは、良い方にも悪い方にも働いてしまう。
咄嗟にその影の持ち主の方を向いてしまった。
後ろには先程いなくなった筈の"異形"が、いたのだ。
あぁ、ここで終わるんだ。
毎日働いて、なんの変わり映えもしない、小説なら冒頭の数行で終わるようなただの日常を過ごして。
最後の最後に非日常に巻き込まれて終わるんだ。
そんな走馬灯のようなものを見ながら、闇が迫っているのを私は呆然と他人事のように眺めていた。
…だがある人は言う。
「小説であれば、日常から非日常へと転じた後は非日常の日々が続くものである。」と。




