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ハイスペで美しすぎるヒロインのわたし。逆ハーを満喫しちゃだめですか?

「わたし、かわいすぎる…………完璧な美しさ……これぞまさに絶世の美女じゃない!」


 鏡を見つめながら自分の姿に惚れ惚れしているのはアンジェリーヌ伯爵令嬢ではなく、彼女に転生した小林百合香だった。きっと今、魔法の鏡に世界で一番美しいのは誰か聞いたら、絶対にわたしって言われる!


 輝くようなハニーブロンドの髪、大粒のサファイアを思わせる青い瞳。白い肌にふっくらとした艶のいい唇。どこからどうみてもザ・お姫様といった風貌だ。やばい、これ、ずっと鏡をみていたい……。


 何がどうなってこのような美しい姿になってしまったのだろうか、そしてこの鏡に映っている美女は本当に自分なのかと思い返してみる。


 夜、いつものように残業を終えて帰宅し、お風呂が沸くまでの間、缶チューハイを飲んだ。その後入浴して就寝した……いや、入浴した記憶はあるがベッドで寝ていない! もしかして、わたしお風呂で溺死したの……。そしてこの世界に転生した!?


 そして、この美人は誰だろうか? 何となく見覚えはあるが、何かに描かれるお姫様なんてみんなこんな感じの絶世の美女だからなぁ。百合香はこの美女が最初誰なのかわからなかった。


 しばらくするとメイドたちがこの美人の朝のしたくのために入ってきた。


「大変申し訳ないのですが、わたし記憶がないようでして、わたしは誰なのでしょうか?」


 隠してもしかたがないので素直に現状を明かしてみる。驚いたメイドの一人があわててこの美女の両親を呼びに行った。その間、もう一人のメイドが簡単な説明をしてくれる。


 なるほど、わたしの名前はアンジェリーヌで伯爵令嬢で、伯爵家の養女なのね。ん? アンジェリーヌ伯爵令嬢ってどこかで聞いたことが……もしかしてここって『白百合の聖女と六人の騎士たち』の世界では!?


 このゲーム、わたしもやったことがある。タイトルにわたしの名前と同じ”百合”が入っているので興味を持ったのだ。


 この話、いわゆる『竹取物語』をモチーフにしたような話なのだ。


 なぜならば最初から攻略対象者たちはヒロインに夢中で、ヒロインが彼らを試してお気に入りの一人を選ぶというストーリーだったのだから。最初からイケメンたちにちやほやされて気持ちいいのだが、群がるイケメンを蹴落としていくのもねぇ……。


 もう一点このゲームが酷評されていた点が、ヒロインが容姿、能力ともにハイスペックすぎるということだった。


 これ、何が問題かというと、まずヒロインに感情移入しにくい。そして、ライバルが不在なので面白みに欠ける。


 さらに、これが一番の問題だと思うのだが……”六人の騎士たち”がものすごくしょぼく感じてしまうのだ。みんな顔はいいけれどもヒロインがいないと生きていけないようなダメ男に見えてしまう。こんなイイ女に生まれたからには、ダメ男を育てるのではなく、ハイスペックな男に溺愛されたいではないか!


 そんなことを考えていたらメイドに呼ばれた伯爵夫妻がやってきた。祖父母と孫といっていいほど年の離れた養親はすごく心配していた。


 子宝に恵まれなかった伯爵夫妻は女神レティシアの神殿を参拝した際に、光り輝く百合の花畑の中から赤ん坊だった彼女を見つけ出し、保護した。以来その時の子を我が子として育ててきたのだ。ちなみに、ゲームの中のアンジェリーヌもいわば異世界人――だから能力がチート級とうわけだ。


「今、お医者様を呼ぶから、今日は学園もお休みなさいな」


 伯爵夫人に言われる。


「お母さま、ご心配をおかけしました。少し記憶に混乱があるのですが、学園に行って学友にあったほうが記憶も戻る気がするのです。ですので、学園には行きますわ」

「そう? あなたがそういうのであれば……。なにかあったならばすぐここに戻って来なさいね」

「はい、ありがとうございます。お母さま、お父さま、では支度をして学園に行ってまいります」


 このゲームの主な舞台は王立魔術学園だ。攻略対象のイケメンたち五人もここの生徒なのだ。そして六人目はすでに学園を卒業しているこの国の王太子である。竹取物語の帝の立場の人にあたる存在で、イケメン学生たち五人を振ると隠しキャラのように登場するのだ。


 攻略キャラは、青髪眼鏡で知的な雰囲気の一人称が「私」のヒューゴ第二王子、黒髪で土魔法と守備を得意とする一人称が「俺」のコンスタン公爵令息、明るい茶髪で人懐っこい一人称「ボク」のマクシム侯爵令息、剣術が得意な赤毛のツンデレで一人称「オレ」のアラン伯爵令息、緑色の長髪をしていてエルフの末裔とされる一人称「僕」の優男サミュエル伯爵令息の五人だ。


 僕とボクの違いは何だという気もするが、誰が話しているのかわかりやすくするためにゲームの中ではそうなっていた。


 そして、王太子ヴィクトルはお約束と言った感じの金髪、碧眼の紳士だ。


 当然、ヴィクトル王子が圧倒的な人気なのだが、この五人の中ではアランを推している女子が多かった模様。ちなみに、百合香もアランとヴィクトルとはハッピーエンドになったことがあるが、ほかの四人とはない。三周目、サミュエルルートの途中であきてしまったのだ。ごめんよ、サミュエル。そして、選ばれもしなかったヒューゴたち。


 ちなみに、この物語の結末は、ヒロインと選ばれた騎士が女神レティシアの神殿で愛を誓いあうことでヒロインが聖女に覚醒し、パートナーとともに異界からの侵入者を打ち倒すというものだ。大人しく月に帰ったかぐや姫と異なり、このお話のヒロインは男を選び、月から迎えに来た使者を撃退するようなものだ。


 あれ? ということは、もしかして、誰も選ばないと元居た世界に帰れる? といっても、ブラック企業と結婚したような人生を送っていた百合香にすると、帰りたいかというとそうでもないのだが……。とにかく、ここで適当に逆ハーレム生活を楽しみながら、情報収集するしかない。


 記憶喪失事件でバタバタしたため少し遅れてしまったが、馬車が学園の校舎前につくと、お約束のように五人が待っている。あなたたち、自分の授業はないの!?


「アンジェリーヌ、記憶がなくなってしまったと聞いたのだが、私たちが誰かわかるだろうか?」


 ヒューゴ第二皇子が話しかけてくる。


「え、ええ、こちらにいる皆さんのことはうっすらとですが覚えています」

「うっすら! ボクと昨日食べたケーキの味、忘れちゃった?」


 ああ、そういう細かい記憶は当然忘れている、というかゲームに登場していないので知りませんね。


「……ごめんなさい」

「ううん、いいんだ! 今日も君と一緒においしいケーキを食べればいいだけのことだ。記憶がないならば新しくつくればいいよ! ね!」


 さすが愛されキャラのマクシム。現代の日本男子は言ってくれないような言葉をいとも簡単に口にしてくれるではないか。


「頭でもぶつけたのか? ったく、オレをあんまり心配させるなよ。お前は少しそそっかしいからな。気、付けろよな」


 アラン様、ちゃんとこの世界でもツンデレなのね。


「はい、気を付けますね。てへっ」


「貴女の頭を傷つけた壁が憎い!! 俺がその場にいたら盾となって貴女を守ったものを」


 ヒロインの盾になりたくて仕方がないコンスタン小公爵も相変わらずと。


「記憶がないと不安でしょ? 僕はクラスも一緒だから、わからないことがあったら遠慮せずに聞いて」


 四人がズルいと言わんばかりの視線をサミュエルに向ける。こうして実物をみると、サミュエルの容姿が一番好みかもしれない。でも、でも! 実際問題、わたしが一番美しい! これは真実。


 教室に入ると「私のことは覚えている?」と同級生たちが心配そうに駆け寄ってきて、あっという間に囲まれる。ごめん、モブの諸君、あなたたちにはゲームの中で名前がないからそもそも知らないのよ。これから覚えるから。


「ごめんなさい、みんなのこともう一度覚えたいから、自己紹介してほしいな」


 そう言ってこの美女アンジェリーヌが微笑むと男女問わず同級生たちは顔を赤くした。わかるー、その気持ち。わたしも自分じゃなければ見たいもん、この美女の微笑み。


 同級生たちは一人ずつ自己紹介をしていった。普通、一度に20人近い人の名前なんて覚えられないが、このヒロインはチート能力保持者だからか一度聞いてしまえばすっと名前や情報を覚えていける。やばい、なにこの頭のすっきり感! すでにもうこの世界の住人であり続けたいんだけど……。


 当然、授業を聞いてもすんなり覚えられる。実技の授業をすれば圧倒的な強者感を味わえる。まさにヒロイン無双状態だ。


 お昼とティータイムは、生徒会メンバーでもある例の五人と過ごすのがアンジェリーヌの日課だ。この五人との会話の中から、とりあえず今がゲームのどの時点なのかを探らないと。


「ところで、アンジェリーヌ、記憶が曖昧な状態で明後日からのダンジョンでの実習に臨むのは危険だと思うのだが」


 ヒューゴ王子のこの一言で、アンジェリーヌの目的はあっさり達成する。


 ダンジョンでの実習が実技の最終試験となっているのだ。そして、このダンジョンの中に三人一組となって進まないといけないエリアがあり、ここで選ばれなかった三人の攻略対象者がまず切り捨てられることになる。選ばれなかった三人は、このダンジョンで大怪我をしたり、挫折を味わうことで精神的に落ち込んだりと悲惨な目にあい、身を引くのだ。


 そして、最初に選ばれた二人も、最終的にこのダンジョンで一人に絞られるのだ。ボス攻略の際に中ボスモンスターの足止め役が必要になり、どちらか一人がこの役を買って出ることになるからだ。


 ちなみに、ダンジョン攻略そのものに失敗すると、王太子ヴィクトルが助けに現れるという設定だ。


 そして、このダンジョン攻略の際に、ダンジョンの奥にある異界への扉を見つけてしまい、それが開かれることで異界から強力な侵入者が入って来てしまうのだ。


 このダンジョン攻略戦が明後日からだと! まだ知り合ったばかりのこの五人プラス知り合っていない一人の中から、明後日には運命の相手を選ばないといけないの!?


 ところで、ヒューゴ王子、なんて言っていた? 現状で挑むのは危険だと言ったよね? ということは、この挑戦を延期することも可能なのかしら?


「確かに、わたしも記憶が完全ではない状態ですので、不安が残るのです。どうしたらよいのでしょうか?」


「俺もアンジェリーヌ嬢の身の安全が一番だと思う。もちろん、必要があれば俺は命がけで貴女の盾になるが」


「僕たちで先生方に試験の延期を願い出てみるのはどうでしょうか? せめてアンジェリーヌ嬢が不安を感じない程度に学園生活を取り戻すまで」


「ボクも同意だな。こういうことは、アンジェが納得できる状態になってからのほうがいいよね」


「チッ、オレは今すぐにでも挑戦したいが、仕方がねえな。お前も早くオレらのこと全部思い出せよな」


「皆さん、ありがとうございます!」


 こうして王子たちの嘆願もあって、ダンジョン攻略は延期されることになった。


 この間にわたしがすることは、誰を選ぶのかじっくり考えること。


 なのだが、選べない! そりゃ、ゲームをやっていたときはちょっとした好みで一人を選んだけど。今、目の前にいるのはゲームの登場人物ではなく、生身の人間なのだから。結末をある程度知っているものとしては、全員を救いたいし、全員に幸せになってもらいたい。簡単に一人を選ぶことなんてできないよ。


 どうしたらいい? この先の展開をもう一度頭の中で再生してみる。


「あった、これだ!」


 アンジェリーヌが思いついた方法、それはダンジョン攻略の前に、それぞれの攻略対象者との間に発生するエピソードを強制的に終わらせて、彼らを強化することだった。


 まず、アンジェリーヌは同じクラスでゲームをプレイ中に途中放置してしまったサミュエルから攻略してみることにした。


 サミュエルはエルフの末裔でありながら、魔法が少々苦手なことにコンプレックスを抱いていたのだ。彼の優しさは自信のなさの裏返しでもあったのだが、ゲームの中ではダンジョン攻略中にアンジェリーヌに助けられながらも敵を撃破していくことで自信を付けていく。そして、おそらくは、アンジェリーヌと協力してダンジョンボスを倒すことで完全に自らの力に目覚めるのだ。


 だったら、今この場で魔法の腕をあげればよくない?


 ということで、放課後、アンジェリーヌはサミュエルと魔法の特訓を行うことにした。


「僕なんかと特訓をしてもアンジェリーヌ嬢には大したメリットはないんじゃないかな」


 などと後ろ向きな発言をしていたサミュエルだったが、


「僕なんかなんて言わないで! あなたはエルフの末裔、だから才能はあるはず。自分を信じて。それにわたしがついているわ」


 ダンジョン内で魔法を失敗してくよくよしているサミュエルに伝える台詞をここで言ってみる。


「アンジェリーヌ嬢、僕が間違っていたよ。そうだね、僕だって君を守りたいんだ! 一緒に戦ってくれるかい?」

「もちろんよ!」


 うまくいったっぽい。あとは訓練でどこまで彼の力を伸ばせるかだ。


 当然、こんなやり取りを見せられたほかの四人は黙っていない。なんとこちらが励ます前に、「私も」「俺も」と訓練に加わってくれた。


 ほかの攻略対象者たちのコンプレックスは何だろうか。


 アランはゲームをクリアしたことがあるので知っている。彼は幼いころ、友達数名とともに勇み足で禁止された森に入り、迷子になったところ、強力な大型魔物と出くわし怪我をしてしまう。この時から、明らかに自分よりも強いものと対峙する際にしり込みをしてしまうのが欠点なのだ。


 後の三人は正直なところまじでわからん。ヒューゴは知将であり、パーティ全体の作戦などを担当する役割を担っていた。コンスタンは盾を自称しており、パーティにおける防御の要である。マクシムは器用で何でもこなす。罠の発見や補助魔法に長けていて、弓やブーメランなどの長距離攻撃を得意とする。


 まさか、「あなたのコンプレックスは何ですか? わたしが励ますので、教えてください。一緒に克服しましょう!」などと言えるはずがない。しかも、身分上は相手の方が格上なわけで。今更ながら全員攻略しておけばよかったと思う。


 一般論になってしまうが、「では皆さん、ダンジョン攻略に向けて、自らの長所を伸ばし、短所を克服できるように特訓していきましょう」と伝えておいた。


 全員で訓練しながらも、一日ごとに重点的に付き添う人物を一人選んでは苦手克服に取り組むようにした。


 一人ひとりと向き合っているとヒューゴとマクシムのコンプレックスも分かったような気がする。


 おそらくヒューゴは自分が仲間の命という重責を担っていることを知っていて、そこからくるプレッシャーに弱いのだろう。プレッシャーが増すと冷静な判断が下せなくなる。とりあえず、


「あなたは一人じゃないわ! もっとみんなをわたしを信じて頼って!」


 と声をかけておいた。


 逆にマクシムは思った以上に自分を評価していない。まあ、主役になることのない、補助系、遠距離攻撃系男子にはありがちなコンプレックスな気がしないでもない。


「あなたは多彩な才能を持っていて、いつもみんなを支えてくれている。ありがとう、とても頼りにしているわ」


 こんな一言でどうだろうか?


 それにしてもよくわからないのがコンスタンだ。これだけ盾にこだわっているのは、昔守れなかったものでもあるのだろうか? それとも、最初に攻撃を受け止める役になるこの立ち位置が実は怖くて、自らを奮い立たせるために盾・盾と言っているとか? 実は華麗な攻撃職に憧れているというのもありそう。わからないけど、何か言うならばこれかな?


「あなたがいつも全力で守ってくれているから、わたしはいつも安心できるの」


 コンスタンはこちらを真剣なまなざしで見つめると力強く頷いた。まぁ、少しは効果があったかな。


 アンジェリーヌの効果的な声かけと特訓メニューのおかげで五人の騎士(ナイト)たちはみるみるうちに強くなっていった。愛の力は偉大なのだ。


 そんなこんなで一月が経った。いよいよこの五人とともにダンジョンに挑むことになる。準備はそれなりにできたと思う。この一か月、彼らはすごく良く頑張ってくれた。このゲーム自体にはレベルという概念はないが、RPGでいうとレベル10ぐらいは上がったと思う。


 RPGをプレイしたことがある人ならばわかると思うが、レベル10違うとダンジョン攻略は相当楽になる。遭遇するモンスターが弱いので、それだけでもサクサク進める。しかも、このダンジョンの構造はアンジェリーヌは把握済みなのだ。それをもとに予め、ヒューゴとマクシムに攻略計画を練ってもらっているのだからなおさらである。


 しばらくすると物語上の最初の分岐点にやってきた。ゲームではここでパーティを二分割することになる。なぜならば次に進むための扉を開く鍵が三人の人間だからだ。三人が同時に別々の場所にある印の上に立つことで扉が開くが、誰か一人でも降りると扉は即閉まるのだ。


 もちろん、アンジェリーヌはこのイベントを知っていた。だから当然対策済みである。効くかどうかはやってみないとわからないが、来る途中、魔物を三体捕えてあるのだ。この魔物を人の代わりに印の上に立たせてみる。


 ガガガガガッ……。なんと扉が開いた! これでここで三人を見捨てることなく先に進める! 案外なんてことない仕掛けだったのね……。ゲームでは有無を言わさずに「誰に残ってもらいますか? 三人選んでください」で、三人を選ばされたけれども。


 当然この先も楽勝だった。なんせ三人で攻略しないといけないところを六人で来ているのだから。あっという間にボスの間の前に着く。


 ボスの間の前には一体の不死の魔物が待っているのだ。この魔物、攻撃力はそれほどでもないが、とにかく生命力が尋常じゃないのだ。だから、最初は三人で挑むのだが、30%ぐらいHPを削ると、「この魔物は倒せそうにもない。どちらかを選んでボスの間に進んでください」と強制的にどちらかを選ばされる。


 しかし、今アンジェリーヌのパーティの攻撃力は通常のゲーム攻略時の三倍ぐらいはある気がする。いけるのではないか? とにかく、倒せなかったとしても一人だけを見捨てるようなことはしたくない。


 と思っていたら、あっさりと倒してしまった。えっ? というぐらい弱かった。


 そして、ボス。


 こちらも、ええっ? というぐらいあっけなく倒してしまった。あれ、ヴィクトル王子はこの物語には登場せず終わる感じ?


 ボスモンスターの部屋には異界へとつながる扉が! しかも、その封印が解けかけているのを発見。これはゲームと一緒。「あ、これ、やばそうだね、学園に戻って王宮と学園長に報告しないと」という流れはゲームのときのままだった。


 で、報告を済ませると、学園長の台詞。


「ふーむ、これは大変な自体となった。攻略者となった君たちは女神レティシア様の神殿へと赴き、その愛を女神の元で誓うのだ! さすれば聖女と騎士の眠れる力が開花し、悪を砕く力となろう」


 この台詞もまんまだ。まんまなだけにどうすればという気もする。なぜならば、攻略者は二人でなく六名だからだ。今更一人を選ぶというのもおかしな話だし、六人で愛を誓えばいいのだろうか?


 ということで、六人で神殿に行って、六人で愛を誓い合った。


「私はアンジェリーヌを愛し続けることを誓う!」

「俺は一生アンジェリーヌを守り続けることを誓う!」


 そして、アンジェリーヌはというと、


「わたしは皆さんからの愛を受け取りました。わたしも皆さんのことを愛していますわ」


 とゲームの台詞を言う。といっても、ゲームでは”皆さん”ではなく、個人名が入るのだが。ゲームではこの後女神レティシアの「あなたたちの愛を見届けました。その愛の力でこの世界を守りなさい!」という声が響き渡り、アンジェリーヌとそのパートナーが光に包まれるのだが……。


 何も起きない、やっぱり六人は欲張りすぎ? 計画失敗!? と思ったら、


「私もあなたに愛を捧げる仲間に入れてはくれないだろうか?」


 まさかのヴィクトル王太子のご登場! 今回初登場だけど、やっぱりイケメンなご尊顔は健在だ。尊い~!


「お初にお目にかかる、アンジェリーヌ嬢。あなたと五人の騎士たちの絆はよく知っているつもりだ。だが、それでも私もその仲間に入れてほしいのだ」


「ヴィクトル殿下、それはもちろんでございます。ただ、女神レティシア様が六人の騎士を選ぶことをお許しにならないのではないかと、今懸念しているところでして……」


(いいわよ)


 どこからともなく知らないけれどもよく知っている気がするような女性の声がする。


(完全に逆ハーレムじゃないの、もう、やるわねっ)


 えっ、えっ? 周りを見回すと、女神レティシアの像がこちらにウインクをしたような気がする。そして、ゲームの演出通りの台詞が響き、その場にいた全員が光に包まれて、アンジェリーヌは聖女に、六人の騎士たちは聖騎士へと覚醒したのだった。


 アンジェリーヌたちが学園へと戻ると、ダンジョンの上には暗雲が立ち込めていて稲光がゴロゴロ鳴っている。


 ついに異界の扉が開いたのだ。


 学園長と国王が戻ったアンジェリーヌたちに告げる。


「聖女アンジェリーヌと聖騎士、ヒューゴ、コンスタン、マクシム、アラン、サミュエル、そしてヴィクトルよ。長き眠りより目覚めし女神レティシアの愛の力をもってして、この国の、いやこの世界の危機を救うのだ! この世界に再び美しい陽の光を取り戻してくれ!」


 というか、聖騎士が六人もいることに何にも突っ込まないんだ、この人たち。


 七人がダンジョンの近くまでくると、そこには異界から出現したと思われる身の毛がよだつような異形の城がそびえ立っている。この奥にいる冥界の邪王を倒せばこの物語はハッピーエンドとなり、アンジェリーヌは邪王を倒した聖騎士と幸せに暮らすのだ。


 七人は七人もいるので城の中に入っても連戦連勝の快進撃を続け、あっという間に玉座の間にやってきた。


 玉座には全身黒尽くめの大男が頬杖をついて、けだるげに腰を掛けていた。


「ほう、よくぞここまでたどり着いたな。聖女と聖騎士よ。しかし、貴様らのそのくだらない(まこと)の愛の力とやらもここでおしまいだ。愛は不完全で、(もろ)く、うつろいやすいもの。愛なんぞ、所詮はまやかしにすぎぬのだ。我にはそのような弱き力は通用せぬ。我がその二人の愛を打ち砕いてやろうぞ!」


 という台詞をゲームに登場する冥界の邪王は言うのだが、このいかにも邪王という風貌の男もその台詞を口にし始めた。


 が、途中で邪王は違和感に気が付いてしまう。だんだん、自分が言おうと思っていた台詞に自信が持てなくなってくる。


 だって、聖女が男を六人も連れてくるなんて聞いていない! 「愛はうつろいやすい」なんて台詞を言わないといけないのだが、すでに六人も男を連れている女に”うつろいやすい”なんて表現生ぬるくないか? 


「あ、愛は、不、完全で……もろく……うつ、うつ…………いや、うつろいすぎだろう! この淫乱聖女があああっ!! 俺様のカッコいい台詞が台無しじゃないか! どうしてくれるんだ!」


 怒りに任せて邪王は頭にかぶっていたフルフェイスの黒い兜を脱いで床に叩きつけた。


 兜の中から現れたのは、大人の色気たっぷりの国宝級イケメンだった。


 やばい、この人が圧倒的に一番好みなんだけど……! えー、こんなイケメン倒したくなんてない! 異界に戻ってもらいたくもない! ほしいわ、この男がほしい!!


「冥界の邪王、あなたの言うとおりです。愛は不完全で脆く、うつろいやすい。だから、わたしも今誰か一人を選ぶことなんてできない。そもそもあなたが打ち砕きたいと思っている完璧で強固で永遠の愛なんてわたしはこれっぽっちも主張していない! ないものは打ち砕くこともできないでしょ! それでもわたしとここにいる六人の聖騎士と戦うというの!?」


 自信たっぷりに真実の愛なんて主張しないと言われると、もう冥界の邪王は何も言い返すことができなかった。


「クッ……我の負けだ……。聖女、貴様の軍門に下ろうぞ」


 そう告げると、冥界の邪王はその場に倒れこんだ。


 えっ、まさか一戦交えることもなく、邪王が負けを認めた。というか、なんで倒れているわけ? 死んじゃったわけじゃないわよね?


 アンジェリーヌは邪王のもとに駆けよるとその胸に手を当ててみる。心臓の鼓動が手のひらに伝わってきた。死んだわけではなさそうだった。


「い、いきなり未婚の男の体に触るとはお前は何て破廉恥なことをするのだ!?」


 倒れていた邪王は起き上がると恥ずかしそうに胸のあたりを手で押さえる。実は邪王は超がつくほど純情な男だった。


 昔、好きだった女性に浮気でもされてフラれたのかなぁ、この人……。それで愛を異様に憎むようになったとか?


 その辺の事情はよくわからなかったが、とにかくこの世界の危機は去った! そして、アンジェリーヌの元には彼女に愛を捧げることになるイケメンが一人増えたのだった。


  ◇  ◇  ◇


「やっぱりわたし、かわいすぎる……まさに絶世の美女! しかも超ハイスペックで……これこそが才色兼備というやつね!」


 今日も鏡を見つめながら満足げにしているアンジェリーヌの横には、そんな彼女を愛おし気に見つめるこちらもまた美しい男たちの姿があった。

読んでいただきありがとうございます!


まだ数は少ないですが、他にも短編と長編を書いています。

興味をもっていただけましたら、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします!


【短編】

異世界転移したらイケメン王子だったのは有難いのだが、ヒロインが俺の婚約者にいじめられていると訴えてきた。


【長編】

最強の悪女の仕立て方。~婚約破棄や政略結婚で不幸になりたくないので、そもそも婚約すらしたくなくなる悪役令嬢になってみせますわ!


漆黒の魔王は紅き花姫を愛でる~敵国皇帝の后になりたくない鬼姫は、魔王に溺愛される



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