未来を描く者たち
この作品は『転生したら最底辺のゴブリンだったけど、禁断の筆で世界を塗り替える! ~虐げられた少女と描く希望の物語~』の
その後の世界なので、そちらをお読みになってから
読んでください。
新世界が訪れてから数年。
かつて貧民街だった場所には、今では子どもたちの笑い声が響いていた。小さな校舎。木の机と椅子。窓から差し込む陽光に、黒板の文字がきらめく。そこは、イチとミリアが築いた「学び舎」だった。
だが、世界は一夜で完全に変わるものではない。
旧貴族の中には、平等を受け入れられず、不満を抱く者もいる。ある日、校舎の窓に石が投げ込まれた。割れた硝子の破片に、子どもたちが悲鳴を上げる。
「ゴブリン上がりに、未来を任せられるか!」
外から怒声が響く。イチは静かに立ち上がり、子どもたちの前に出る。だが、彼の手にはあの『創造の筆』はない。かつて命を削って世界を塗り替えた筆は、今ではただの木の枝に過ぎなかった。
イチは振り返り、子どもたちに微笑む。
「もう俺ひとりで未来を描く時代は終わった。これからは――みんなの手で描くんだ。」
ミリアが頷き、子どもたちに紙と小さな筆を配る。
「魔法の筆じゃなくてもいい。絵や文字は心を映す力になるの。大切なのは、描きたい気持ちよ。」
子どもたちはそれぞれに夢を描き始める。
「広い畑」「笑顔の家族」「虹の橋」――。
その絵が淡く光を帯び、教室を優しく照らす。まるで、新しい世界が子どもたち自身の手で少しずつ形作られているかのようだった。
外にいた旧貴族の青年が、その光景を目にして息を呑む。
「俺たちの……居場所は、もうないのか……?」
彼の手にはまだ石が握られていた。だが、力なく地に落とす。
ミリアは歩み寄り、彼の手を取る。
「あるわ。あなたが未来を描きたいなら、ここに一緒に。」
震える指で、青年は紙に「友達」と書いた。淡い光が生まれ、彼の頬に涙が伝う。
「……まだ、やり直せるのか。」
イチは空を見上げる。新しい青空のその向こうに、かつての地球を思い出しながら。
「俺が描いたのは始まりにすぎない。これからは、みんなの筆で続きが描かれていくんだ。」
子どもたちの笑い声が再び教室に広がる。
それは、新世界の未来を告げる鐘の音のように、
温かく響き渡っていた。