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「ごめんな、2人とも。ちゃんと袋の中を確認しておけば良かった」


速鳥の背に乗りながら後悔する。


「そんなことないよ!」


「そうよ。そもそも見つけにくいよう入れてあったし。…でもどうしてそんなことしたのかしら?」


「もらった領土ってのがフリクトって場所なんだ」


「フリクトって、あの⁈」


ドン引きした顔でウルが言う。


フリクトは有名な紛争地域。


正式にはこの国が所有している土地だけど、お構いなしに色んな種族が土地をめぐって争っている。

下手に争いに手を出せば、国全体を敵とみなして攻撃してくるかもしれないから、誰も治めたがらない。


だから俺に押し付けたんだろう。


直接命じたら断ると思って勅書を紙袋の中に隠し、俺はまんまと受け取ってしまった。

流石にもう断れない。


「すごいすごい!有名なところに住むんだね!」


俺たちの心配をよそに、大はしゃぎのフェイリー。


「到着しました」


速鳥がゆっくりと着陸する。


降りた場所は森の近くだった。

ここはまだフリクトではないはず。


「フリクトに直接降りるのは危険ですので、私はここで失礼します。森をしばらく行くと城がありますので、そちらに住むよう仰せつかっております」


ドライバーはそれだけ言って、さっさと飛び立ってしまった。


護衛も無しに取り残される俺たち。


俺は一応剣を持っているが、貴族の身だしなみとして持っているだけで、何かを切ったこともないし切れるものでもない。


でもフェイリーたちは礼装剣すらなく丸腰。


何かあれば俺が囮になって、2人には逃げてもらおう。


剣に手をかけて、いつでも抜けるようにしながら森へと進んだ。

まだ夕暮れ時だというのに、森の奥に行くにつれて夜のように暗くなっていく。


明かりがないと、そのうち進めなくなるな。


困っていると、フェイリーが落ちていた枝を拾って、前に突き出した。

枝の先端が淡い光に包まれ、辺りを照らす。


「じゃーん!えへへ、すごいでしょ」


「ああ、助かった。妖精はこういうこともできるんだ」


「うん!」


「誰か来る」


ウルが静かに言った。

耳を立てて暗闇を睨んでいる。


光のせいで、誰かに見つかってしまったようだ。

とはいえ光が無ければ進めないので仕方ない。


「俺が戦うから、その間に2人は逃げろ」


剣を抜いて2人の前に立つ。


すると2人が前に出た。


「フェイリーね!いっぱい戦えるよ!」


「私も、嫌いじゃないわ」


「危ないからダメだ」


「家族じゃないの?」


フェイリーが上目遣いで、悲しそうに言う。


「家族だよ、家族だから傷ついて欲しくないんだ」


「その通り」


ウルがにっこり笑う。

わかってくれたかと俺も笑い返すと


「だから任せて」


「そうじゃない!」


俺の叫びと同時に、10体以上のスケルトンが飛び出した。

人骨が動き回る姿は不気味だ。


でも、それも一瞬。


ウルが全てのスケルトンを蹴散らしてバラバラにする。

フェイリーはまるでゴミのように、バラバラになったスケルトンたちを輝く鎖で縛りあげた。


得意げな顔してこっちを見る2人。


「え…あ…2人ともすごいね」


「やったー!褒められた!」


「簡単すぎるわ」


嬉しそうな2人の足元で、縛られたスケルトンが音を立てて蒸発していた。

…2人には色々聞きたいことがある。


「そもそも鎖なんて持ってたっけ?」


「持ってない。作ったんだよ。見る?」


気のせいか、いつもの元気がないフェイリー。

鎖を解いて持って来たので、慌てて止めた。


「待て!それを取ったら…」


自由になった骨は元の姿に戻ろうとした。

が、すぐに崩れて塵になる。

残ったのは弱弱しく光るものだけ。


「あれは魂か?初めて見た」


「逃げるわよ!」


人狼の習性がそうさせるのか、ウルが魂を追いかけるので、俺たちも後を追った。


たどり着いたのは古い城。

ドライバーの言っていた城はこれだろう。


月明かりに照らされながら、魂たちは城の壁に吸い込まれていった。


それを見ていると、急にフェイリーがもたれかかってきたので抱きとめる。


「どうした?」


返事はなく、目を閉じて苦しそうにしている。

いつのまにか光る枝もなくなっていた。


「妖精ってエネルギーの塊だから他者のエネルギーを奪って存在する死者、例えば魂や、さっきのスケルトンなんかと相性最悪なのよ」


ウルは、よく戦えたわね、とフェイリーの頭を撫でながら続けた。


「あの城の中には見たことないくらい多くの魂がいる。かなりの量のエネルギーが取られていくんだわ」


そう言うウルも尻尾を体に巻き付け、体を震わせていた。


「俺が追い払ってくるよ」


「ダメよ!危ないわ」


「あの城に住めって言われてるんだ。フェイリーと一緒にここで待ってて」


「でも…」


「ウルにしか任せられないんだ。頼む」


ウルはまだ何か言おうとしたが、諦めたように目を伏せた。

そしてフェイリーを抱き寄せて座り、俺を見上げる。


「何かあったらすぐに行くから」


ウルの言葉に頷いて、俺は城に向かった。

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