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84話 ワシの最後の一発、ロシアンルーレット

コマちゃんが引いた5発目。

すぐにカシャンって空の音がしたのにワシは絶望した。


ここまでの4回分、ワシがどれだけ嫌でも躊躇しても止めても、コマちゃんに向けて引き金を引くこと以外許してもらえない。

コマちゃんが何にも思ってないみたいに、正確にワシの頭を狙って撃ってきてることが苦しくて。

どれだけ時間稼ぎしてもコマちゃんにはお見通しで、みんなが見てる前で勝負を投げるなんてできるわけがないから、二回とも「どうか死なないで」って思いながら両手で銃を構えてた。


このくらいの銃、片手で撃つなんて造作もない。

なのに、片手じゃ持ちきれないくらいワシには重くて耐えられなかった。


コマちゃんは、ずっと変わらない。

淡々と、ワシに向かって銃を放り投げてきた。

受け取りたくない、取り落としたい、なんなら見当違いのほうに撃って『ワシが外れ引いた』って終わりにしたい。


(でも、そんなことできない。ワシが放り投げたら、部下は、裏カジノのみんなはどうなる?)


コマちゃんを裏カジノにまた呼び戻すために、死に物狂いだった。

親を殺して、反抗する奴潰して、地位を得て、部下を動かして、裏カジノの民を味方につけて、住みやすいように、もっと裏カジノをデカくして。


「早くしてください。最後でしょう、これで勝負は決まります」


ワシの考えを断ち切るように、コマちゃんの声が呼び戻す。

こちらを見て、目を逸らさないで立つその姿がかっこよくて、きれいで、この世の何より気高いって迷いなく言える。


(なのに、どうしてワシは全部放り出してコマちゃんと生きる道を選べないんだ)


昔から追いかけて、そばにいて、ずっと隣にいるって信じて失った彼女は数年会わないうちにもっと綺麗になってた。

裏カジノのことなんかなかったことみたいに、王宮で忙しく楽し気に暮らす報告をトモエから受ける度、胸が痛かった。


「コマちゃん、これは間違いなく弾入ってる。死ぬんだよ」

「そうでしょうね。ですが自分が決めたこと、ディアーナ様の御身が害されなくて何よりです」

「この賭けを止めてもくれない主人に、そこまでする義理ないよね?大切なら、要求全部投げ捨ててコマちゃんを助けるべきだ」

「自分はディアーナ様に信じられている。それに、これからあの方が成す功績の一つになれるのであれば、この命惜しくはない」

「そんなにあのクソ王妃が大事?」

「この感情はアンナ王妃から頂いたものですが、自分が忠義を示すのはディアーナ様だけです」


忠義、そんなの幻想だ。

利用して利用されて、ヘマすれば処分。

ワシの部下も、そしてワシも、ボスに忠誠を誓うとはいっても情なんかない。

忠義なんて、お綺麗な言葉に置き換えたギブアンドテイクのはずなのに。


それを、コマちゃんは本当の意味で命を懸けてもいいっていうんだ。


(なら、もうコマちゃんはワシの知る人間じゃない。撃っていい、外の人間だ)


何とか銃を持ち上げる。

震える銃口は、揺れて頭を狙ってくれない。

撃て、狙え、殺せ。

もうお前の大切なコマちゃんはそこにいないのに。

理由なんてわかり切ってた。

ガキの頃からずっと自覚してた。


(割とバカの頃のワシがわかってたのに、頭いいコマちゃんは最後まで気づいてくれなかったな)


銃一発ぶっ放すのに、こんなに時間かけたことない。

ホントなら何時間、何日だって欲しい。

でもそんなこと許されないから。

せめて、伝えたいことだけは言ってもいいよね?


引き金に指を置く。

指の揺れは収まっていた。


「コマちゃん、ワシ、コマちゃんのこと嫌いじゃなかったよ」


その言葉に、コマちゃんはすこし、ほんのちょっとだけ口元が笑った。


「自分もミクサのこと、嫌いではありませんでした」


思ってもなかった言葉に、少し指がぶれた。

それでも引き金は、問題なく引かれる。


バァン!!


実弾が放たれる。命に届く音。

直後、コマちゃんの体が胸から折れるみたいに曲がって倒れる。


(頭、狙えなかったんだ。ワシ)


長い手足と、長い髪がゆっくり空中で舞って、床に潰れるその一瞬。

それが、これまで見たどんな殺しより、商品より、金より、女より、目が離せなかった。


「コマチっ!」

「コマチちゃん!」


ソファーの影から王女サマと女が出てきてすぐにコマちゃんへ縋り寄る。

お前がこの賭けから降りなかったせいで、コマちゃんに代理をさせることをやめさせなかったせいで、お前が裏カジノまでコマちゃんを連れ戻しに来なかったら。


ワシは、守りたい人を殺さずに済んだのに。


「コマちゃん!!!」


気づけば走り出していた。

王女サマへの恨みとか憎しみとか、幹部としての矜持なんてやっと放り出せた。


ただひたすら、彼女のそばに行きたかった。

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