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83話 自分とミクサ、照準越し

合計6回、内弾は一発、1/6の確率。

一発ずつ交互に相手の頭に向かって引き金を引き、自分の番が終わったら離れた相手に投げ渡す。

その繰り返し。

それが自分の知る「ロシアンルーレット」。

相手が順番を守って一発ずつ投げ渡すという信頼の元でしか成立しない、大人たちの度胸試しと殺傷を兼ね備えた頭のイカレた賭け。

裏カジノの伝統。


(幹部決めやボスの代替わりはこれで決める、なんて噂もありますが実際はどうなんだか)


噂が本当だったらミクサは幹部に就任する際にこれをやったことがあるのでしょうか。

その際に、誰かの命を奪ったでしょうか。


自分から離れて立つ彼の顔は、そんな修羅場を超えてきたような気配はないのですが。

こちらを見つめ、右手で左腕を掴み、唇を噛んでいる。

さっきまで自信満々だったくせに、自分が相手となったら尻込みするのはやめてほしい。


「ルールは一発ずつ、イカサマはしません。連射はご法度、自分が勝てば『裏カジノの貴族の地位取得』ミクサが勝てば『従来通りの体制維持とコマチの遺体の取得』。では始めます」

「コマちゃん、危ないからこんなのやめよ」


カシャン


耳に届くのは空の音。

躊躇いはありません。

片腕で銃を持ち、すぐにミクサの顔に向けて引き金を引きますがセーフ。

それを確認してすぐにミクサへ銃を投げ渡す。

ずっと見ていたくせに、驚いた様子の彼は取り落としかけますがしっかり両手で受け止めた。


「あなたの番です、早々にどうぞ」

「そんな、本気なの?ワシはコマちゃんとこんなことしたくないよ」

「吹っ掛けたのはあなたです。こうなると想像できなかったのですか」

「でも、コマちゃんとこうなりたくないからワシ、ワシ裏カジノ変えようって頑張って、邪魔する奴らみんな潰したんだよ。なんで今こんなことしなくちゃいけないの」

「あなたと自分は元々競う相手でしょう。裏カジノを出ていっていなかったら、幹部の座を争ってこうなっていたはず」

「もうそんなのないよ。ワシならそんなことしなくてもコマちゃんを幹部に」

「いずれにせよ事態は変わりませんし、引く気もないです。お早く」


情けないですね、今の仲間を守るために引き金一つ引けないのでしょうか。

ミクサはそれからよろよろと両手で銃を構えて、目をつむり引き金を引く。

カシャン

という音がしたあと、銃はこちらに投げ渡された。


助かりました。

このまま銃を渡さなかったら力ずくしかない、そうなれば間違いなく力負け。

初めにドアを蹴破って破壊したのは正解だった。

おかげで裏カジノの多くの目が覗いている。

幹部として、自分が吹っ掛けた賭けのルールを破ることは許されない。


カシャン


自分の2発目もセーフ。

小さいはずの円筒が回る音が聞こえるほどに静寂なのに今更気がつく。

やはり、この光景を見ている全員が緊張しているんだ。


(きっと自分だけだろう。無感動に、緊張しないでここに立っているのは)


ミクサにまた銃を投げ渡す。

今回は危なげなく片手で受け取った彼は、わずかに下を向いていた。


「本当に、これしか方法はない?ワシ、コマちゃんを失うくらいなら」

「無駄口は不要。早く引き金を引きましょう、間違っても自分以外に向けないでください」


ハッとしたミクサが顔を上げた。

まるで泣きそうなその目尻の垂れた目。

噛みしめた唇、無意識に右手で左腕を掴む仕草。

大人たちの思惑知って絶望してしまうより前の、子供だった彼が嫌いな出来事に直面したら行うそのままの仕草。


「バレちゃってたんだ」

「はい。己のこめかみに銃口を向ける、ディアーナ様に標準を合わせて連射して発砲、自分に向けて残っている3回分すべて打ち尽くす…そのどれもをやる可能性は考えています」

「……はは、前2つはともかく、コマちゃんにそんなこと死んでもしない」

「それは何より。早く引いてください、観衆もよく見ていますよ」

「せっかくコマちゃんとの時間なのに」

「幹部として、恥じぬギャンブルをお願いします」


「幹部として」という言葉は彼にとって重いはず。

過去に類を見ないだろう最年少幹部。少なくとも、自分が裏カジノを出る前に覚えている限りでは存在しない。

それを成し遂げるには何を犠牲にしたんだろう。

実績を上げ、ボスに気に入られ、何人の屍と不幸を重ねただろう。


(でもそれを知る気はない。もう自分には関係がないから)


ミクサはまた両手で銃を構えて放つ。

カシャン

と空の音がした。


(ああ、ここまですべてセーフだったのか)


4/6を消化して、感想はそれしかない。

ここまでミクサに銃口を向けられても怖くはない。

当たらないだろうという慢心は一つもない。


ここまで心が凪いだ状態で淡々と引き金が引ける。

それが一番の恐怖であり、平常心になっていた。


銃がこちらに向けて投げられた。

手の中に吸い込まれるようにやってきた黒い銃には、もう1/2になった死の運命が入っている。


(狙うのは必ず相手の頭。これで確実に自分かミクサが死ぬ)


いきなり重くなったような銃。

いいや、怖くはない。

ただ、初めて誰かを殺すのかという覚悟の重みを再確認しただけ。


(ディアーナ様の覇道のために、自分は過去を殺せる)


その思いに偽りなどない。

片手で狙いを定める。

裏カジノで撃ち方だけは習った銃。

この片手がすべてを決める。


これで5/6。

引き金を、引く。

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