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68話 私とメリー無双!だったのに!!

「オールイン、全部賭けますっ」

「おおっ!!お姉ちゃんやるねぇ」

「これで三回目のオールインだぞ!」

「カナリア子爵の連れてきた子だろう?大ギャンブラーだな」

「これまで全勝ちらしいぞ」


裏カジノのポーカーの盤の前、顔色最悪のカナリア子爵は今にも泡を吹きそうになりながら私達を見つめていた。

盤の前、ディーラーと何人かの客に混じってポーカー対決をしているのは黒髪に染めたメリーだ。私はその隣でちょこんと座っているだけ~

メリーはかれこれ5戦も勝ち抜き、今回三度目のオールインをかけたところだ。

もちろん彼女からオールインなんて言うわけがない、賭け金は全部私が小声で指示してる。

はじめは手が震えてド緊張だったメリーも、3度目のオールインともなればちょっとは落ち着いて……ないな。涙目だこの子


手札を握りしめているメリーの耳元で大丈夫?と囁けば、唇をなんとか持ち上げながら笑おうとする彼女。でも目が泣きそうだから何もごまかせてない。


「これ、これまたすごい額です怖いですやめたいでひゅ」

「落ち着きなさい。あとこれを倍にするまでよ」

「でももう結構な額で…これ、お給料何か月分ですかぁ~」

「大金を動かせば裏カジノの上役がきっと来るわ。それまで頑張りなさい、泣き顔は見せないほうがいいわよ」

「でも申し訳ないです。また勝ったら注目されますし」

「なぁに?もう勝つ気なのかしら」

「それは、はい。たぶん私が勝ちます」


ちらっと見えたメリーの手札は、すべて同じスートの連続したストレートフラッシュ。

これに勝てるのはロイヤルストレートフラッシュだけ。

裏カジノに侵入して一時間、このポーカーをメリーがカナリア子爵から教わったのは30分前、この台について5戦目。

この短時間だというのに、彼女は凄まじい才能を開花させていた。

私が指示しているのは賭けの額だけ、それ以外のすべては彼女自身にやらせてこれだ。

カード交換も勝負をかけるのも、彼女の判断。


「まったく…とんだ才能ね」

「なにもしてないですよ、ただ『これはいいな』とか『なんだか嫌だな』って思った通りになってるだけで」

「あなたって感覚で生きているんじゃなくって?」

「えへへ、それはそうかも…」


そんな彼女をよそに、手札が開示されていく。

果たして。

いや、やはりというか。

彼女の手札が最も強かった。


それを見て湧いたのは、いつの間にか集まっていた野次馬だった。

自分の賭けそっちのけでメリーのポーカーを見に来ている。客がギャンブルじゃなくてこちらに集中する様子を見て、黒服の役割をしていた裏カジノの人々は何やら相談しているようだ。

私としてはいい傾向。戦闘力で不安がある私とメリーが少しでも安全に裏カジノにいるためには注目を浴びることが大切だから。


(この中には貴族も多い。荒事なんでもござれの裏カジノだって、こんなに注目されてる相手をいきなり暴力に訴えるなんてできないでしょ)


そんなことしたらカモが一斉に寄り付かなくなるに違いないしね。

まあ、そんなに注目を集めているからカナリア子爵が倒れそうになってるんだけれど。

ちょっと悪いなと思いつつ、彼の方を向けばすぐに顔を逸らされる。


(本来招かざる客の私たちを招き入れるなんて裏カジノには知られたくないのに、こんなに目立ったらいつバレるかとひやひや…ってところか)


だがまあ、放っておいていいだろう。

ギャンブルの元手となるいくらかは彼から『こころよく』貰ったものだけど、ちゃんとメリーが何倍にもして返す。

私は私で裏カジノの構造だとか、貴族の誰が来ているのかとかを勝手に観察する。

彼は私達が帰る時の案内をするだけでいい。


(問題はアテナとジークがいつまでに戻ってくるか…)


懐中時計をちらっと見る。

ジークは『二時間以内に何かしらのアクションを起こします。最善はコマチを連れてそちらへ向かう、最悪は大立ち回りですね』なんて事を言っていた。

もちろん、それを聞いたアテナはげっそりしていた。

きっとこんなジークの性格に一番振り回されてきたのはアテナだから、うんざりだったんだろう……


(二人のアクションが早いか、私達が自分で裏カジノの上役引っ張り出して交渉するのが早いか…できるだけ平和的に解決したいんだけど)


メリーが勝ったので、台の上にはこれでもかとチップが積みあがっている。

これを倍にすれば、裏カジノ的に無視できない額になるに違いない。ジーク直伝のイカサマを使わずにここまで稼げたのは予想外だったけど、これなら穏便に…


そう思ったのに。

メリーが次の手札を交換し、私の指示でオールインを告げようとしたその時。


カジノ会場が、揺れた。

ドオオオン…ズン…

と地響きのような音がして、客にも黒服にも、ディーラーにも動揺が走る。

しかし次の瞬間


「うわあぁあああ」

「逃げろ逃げろ!」

「火事!!なんだアイツら!?」

「誰かアイツら止めろー!!」


カジノのバックヤードから転げるようにして男たちが飛び込んできた。

その中には、昼間私達を追いかけてきたスキンヘッドもいる。

そして彼らが口々に好き勝手喋っていると、ドカン!と音がしてバックヤードの扉から炎が上がった。


それを見て客は一斉にカジノの出入り口に殺到する。

あまり多くの人数を一度に出すことができないのか、誰が先に逃げるのかで醜く争う者たち。

だって爆発だもん、こんなの危なくてしょうがない。

でも、私とメリーは逃げなかった。

だって、予感があったから。


(これ、ジークとアテナのアクション…だよねえ!?)


爆発オチなんてサイテー!じゃないけど、慎重にしたい相手の本拠地で大立ち回り(大爆破)なんてサイテー!

もっと穏便にと思っていた私の考えが白紙になったと一瞬気が遠くなる。

どうしてこんなに派手を選んだんだ、コマチは見つけたのか、完全に大事になってるじゃないか。

いろいろ言いたいことはあるけど、私の脳裏には現代のとあるミームが浮かび上がっていた。


(この状態から入れる保険ってありますか……)


そんな私の手を、メリーはしっかり握って守ってくれていた。

今はあなただけが心の清涼剤だよメリー!


バタバタとカジノ部分にやってくる裏カジノの民。

明らかにカタギじゃないような厳つい者もいれば、女子供もいる。

そして混乱の中、一人の男が出てきた。

畏怖と畏敬の視線を集めながらやってきたのは、背中に龍の刺繍がでかでかと入ったチャイナジャケットを来た、若い長髪で長身の男。


彼を見た瞬間、メリーが抱き着いてきた。

私を隠すように、守るように。


「ディアーナ様、逃げましょう。だめです、あの人はいけない気がしますっ」


勘と運に愛されている彼女の感覚は、不思議とよく当たる。

あの男は、私(原作者)が作ったキャラじゃない。

未知数の塊だ。私は、メリーに従い逃げようと足を動かす。

でも、逃げることは叶わなかった。

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