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65話 私、裏カジノ参戦

真っ暗な闇の中の階段を降りていくと、すぐに浮遊感に全身包まれた。

思わず振り返ってみれば後続のメリー、アテナ、ジークも同じみたいで、反応は様々だけど困惑してるみたい。

前を歩くカナリア子爵は慣れているみたいで、スイスイ進んでいく。

裏カジノに行くための魔法の中を進んでいくということで、これはついて回る感覚なのかもしれない。


(なんだか、不思議の国のアリスが落ちた穴みたいだ。アリスもこんな感じだったのかな)


だけどそれもつかの間、カナリア子爵が立ち止まった。

彼が立つ地面のあたりに足を触れれば、すぐに浮遊感はなくなって地に足のついた感覚。

魔法が解けたみたいに、足が現実を踏む感じ。

次々に降り立つその地面は、裏カジノの領域に入ったんだろうなと思う。

そして、目の前には重厚そうな金属製の扉。

大きなそれの前には、現代でいう黒スーツを着た黒髪短髪の男が立っていた。

SPみたいな彼はカナリア子爵を見て、私達を見て、怪訝な顔をする。

裏カジノの管理者的立ち位置のカナリア子爵が連れてきた人間ってことで顔パス…にはならないか!?


「カナリア子爵、その方々は」

「連れだ。別の国に住んでいる私の親戚でな」

「似ていませんね。本当にご親戚で?」

「わ、私の言うことが信じられないと!?」

「そうではありませんが」


いや、ドヘタかカナリア子爵。

嘘でしょ貴族って腹の探り合いと誤魔化し合いの戦じゃないの?なんで裏カジノの護衛一人そこそこにごまかせないかな。

自分の思い通りにならなかったら声荒らげるのどうかと思うよ。

仕方ないので、助け舟を出すことにする。専属のみんな?コマチ以外は交渉とか人と話す系での演技は絶対に頼まない。

メリーは明らか不自然になるし、アテナは嘘つくの苦手だし、ジークは意図的にいらないアドリブ入れてくるからね。

私はカナリア子爵の礼服の裾を小さく掴み、できるだけ幼い感じを前面に出した顔をする。

首を傾げて、きゅるんとした上目遣いを心掛け、若干ウソ泣きし護衛を見て口を開く。


「ぐすっ…おじさま?ここに入ってはいけないの?どうして?おじさまがお仕事している場所に連れてきてくれるっておっしゃったのよ」

「え、あの」

「私達はおじさまの奥様の親戚なの。似ていないのは当たり前なのに、入れてくれないの…?お姉さまもお兄様も楽しみにしていたのよ。約束したのに…ね?おじさま」


化粧で元の顔の印象を変えているとはいえ、幼女の涙は異常者じゃなければ心に刺さるものがあるはず。

例え裏社会の人間であっても!…いや、やっぱり無理。ちゃんと血は繋がってないけど親戚アピール入れなきゃ無理!


「おじさま?頼んでくださいまし、おじさまは、この裏カジノに貢献しているのでしょう…?」

「ひっ…!ご、ゴホン…そういうことだ。私達を通してもらおう」

「…承知致しました。どうぞ中へ」


ちょっと、なんで悲鳴上げそうな顔でこっち見るのよ。

幼女相手に怖がってどうする、ちょっと脅迫しすぎたかな。

でも、何とか中に入れるようなら良しとしよう。護衛の男もまあいいかみたいな顔してたし、コマチの奪還までにここを出られればそれでいい。


護衛が重い扉を開く。

扉を開けた瞬間から聞こえるのは、楽しそうな大人たちのはしゃぎ声、怒鳴り声、淡々とした大人の声…およそ、日常生活でここまでの声色が詰まることはないような音。

そして、眩しい光。

真っ暗な中からいきなり光を見て一瞬目を閉じてしまう。


そして、次に目を開いたとき、そこにあったのはまさに「カジノ」だった。

ディーラーが立ついくつもの遊戯盤、それに興じている人間たち、煌びやかなシャンデリアが照らす空間はなんだか煙たくて、声が変に昂っている人が多くて…


(いやこれ本当に現実?THEカジノすぎる。まるで現代のラスベガス…私(原作者)のイメージで作られてるから?裏カジノって中華マフィアのイメージで作ってたのに、ちぐはぐって言うか…)


考え込んでいつまでも動かない私の肩を叩いたのはメリーだった。

心配そうに私を見下ろす彼女にハッとして振り向けば、もうジークとアテナはいない。

行動が速すぎるでしょ。私そんなに長く目閉じてなかったよ?

ほら、いきなり消えるからカナリア子爵もまた悲鳴上げそうになってる。


「あの、これでよかったのでしょうか…あああこれが知れたら殺され」

「それはあとで何とかしてあげるわ。さあ、カジノを案内してくださいな『おじさま』?」

「ででで、でも、何をすれば」

「ここはカジノなのだから、賭けを教えてちょうだい。『その時』が来るまで、ただ立っているわけにはいかないのよ」

「ディアーナ様、いいんですか…?私達、このまま待つだけで」

「メリー、あなたもちゃんと見ていてちょうだい。この国の裏の世界なのだから、専属メイドとしてわたくしの隣で余すことなく観察するのよ」

「わ、わかりました!」


そう、アテナとジークがコマチを奪還するか、それが無理なら何かを『起こして』それを止めるために私が交渉の席に着くまで。

こちらからできることはない。

なら、私がすべきことは一つ。


(原作では描かれなかったこの場所をよく見て、今後にどう使えるのかを見極めること)


メリーはほわほわ天然不思議ちゃんだけど、独特の感性を持ってる。

私の気が付かないことでも、何かを感じてくれればそれは今後に役立つかもしれない。


「さて!じゃあまずはあの盤からお願いしようかしら!カードかしら、とても興味があるわ!」

「いやいや、王女様にそんなことは」

「忘れたの?ここではあなたの親戚の子供よ子爵!さあおじさま、行きましょう!」

「た、楽しんでませんかディアーナ様!?」

「こんなの初めての経験だもの!遊びながらも学ぶのよ。ここは、コマチの育った国と言っておいいのだから」

「そ、そんなぁ」


転生前も興味があったけど未経験だったカジノ、そして今、コマチ奪還のために発展するかもしれない交渉。

裏カジノのことを何も知らない状態で挑むなんてのは、不誠実だと思うから。


(確かに楽しんでるのは当たってるけどね!)


私も裏カジノの熱気に浮かされているのかもしれない。

でも、原作者としては見知らぬ世界観の場所に心躍らずにいられない!

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