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63話 私達の身支度と、突入

子爵から、娘の着なくなったドレス3着と子爵のサイズアウトした簡易的な礼服を一着借りる。

そして、自分のものよりも数段成金趣味っぽいドレッサーに座り、私達四人は身支度を整えていた。


「子爵、今日のカジノが開くのは何時からかしら」

「ひゃっ、えと、あと二時間後、です」

「時間ないですね…私、ディアーナ様のお手伝いから入ります。変装ってどうすればいいですか?」

「まず髪色ですね。メリーは黒、アテナとディアーナ様は茶に染めましょう。あなた方の髪色は特徴的ですから、入念しましょう。俺も手伝います」

「アテナ、化粧の準備はどうかしら」

「これからだ。メリーの髪染めたら手ぇ付ける」


大きな鏡台の前に私、メリー、アテナ、ジークの順でトーテムポールみたいに並んでいるのが鏡で見える。

ジークは元が茶髪だから目立たないのでそのまま。でも金髪のメリーと赤銅の髪の私とアテナは十分に目立つ。

私を除いた三人はそれぞれ前の人の髪を入念に染粉でコーティングしていた。

この感じ知ってるぞ、女子校の休み時間とか、修学旅行での朝の身支度とか、プリクラを撮る前にみんなで鏡の周りでワチャワチャしてるやつだ。


ちなみに私はされるがまま。

だって体の大きさ的にも、手の不器用さ的にもなにもできないから。

王族として身支度されるのは当然って考えがあるんだから、王宮に来てから自分で髪もドレスも来たことがない。

だから、今の私にできるのは口を開くことくらいだ。


「おっさん、化粧道具貸してくれ。もう使わないのでいいからよ」

「貴様、メイド風情が誰に向かって…!」

「子爵?…協力、してくださるのよね?わたくし期待しているのよ」

「っ…!もちろんですディアーナ王女」

「ありがとう。これが終わったら、あなたの娘の名誉回復の場を作りましょうか。わたくしたちが無事に王宮に戻ったら、令嬢と共にお茶をしましょう。お父様に声をかけてもいいわ」

「本当ですか!すぐに道具を持ってこさせます!」


そのまま部屋を弾かれるように出ていった子爵。

ちょうどよかった、いつまでも出ていかないからタイミングがわからなかったのよね。

くるっと3人の方を振り向く。

突入するのに厳重な身支度中で申し訳ないけど、今しか作戦会議はできない。

髪をいじられてるトーテムポール状態で随分間抜けだけどね。


「今のうちに作戦会議しましょう。まず、裏カジノに入ったらすることは?」

「はい!とりあえず探検します!」

「怪しいところに突っ込んでコマチのやつを探す」

「手当たり次第ボコボコにしたいですねぇ」


素直に発言するメリー、ぶっきらぼうに答えるアテナ、嫌な方向で目がキラキラしてるジーク。

まったく、ツッコミに疲れてきたぞ?

なんでだ?ああ、いつも半分くらいコマチがツッコんでくれてたからかな?


「あなた達ってどうしてここまで意見が合わないのかしらっ!」

「無理でしょう。こんな個性の塊たちですよ?」

「一番ヤバいやつがまともヅラすんなよ」

「二人とも血の気が多いですよぉ…」


メリーは正しい、まず状況判断はやらなきゃ危ない。アテナも入ってすぐにやる事じゃないけど、コマチ奪取は最優先事項だから良し。

ジーク、お前は本当に戦闘狂すぎるんだよ!トモエの件で裏カジノに顔が割れてても、あんたの変装技術なら戦い回避だってできるのに。

本当に三者三様、バラッバラで主の私は胃が痛くなりそう。

でも、でも。

3人分なら安いものよ。

だって4人目が戻ってからが本領発揮だもの。


(だから、コマチ。待ってなさい)


「はいはい。もうそれでいいわ」

「え?いいんですか?暴れてもいいんですか?俺本気でやってもいいですか」

「本気はだめ。コマチの古巣なのを忘れないで…アテナ、あなたは行けるの?」

「やる。どこまで成功するかはわかんねぇけど」

「ならいいわ。ジークとアテナは二人で遊撃しながらコマチの場所を探って救出、メリーはわたくしと裏カジノに交渉に行くわよ」

「ええっ!?わ、私戦えないんですよ」

「わかってるわよ。でも、これが一番うまくいくわ。アテナのジークに最速で裏カジノを引っ掻き回してもらって、わたくしたちで交渉の席を用意するの」

「な、なんでそんな危ないことを」


なんで?そんなこと決まってる。

コマチを取り戻すため。…だけじゃない。

悪いけど、これはチャンスだ。

ここから先、原作が大きく動く。その時に、秘かに国に根を張る裏カジノを味方につけられたら。


(原作を破壊して、私の生存率はグッと上がるかもしれない)


そんなこと、純粋にコマチを心配するみんなに言えるわけもない。


「わたくしのものを取り戻すのに理由なんていらないわ」


ディアーナ王女としてはこれで十分。

話し終えたちょうどその時、カナリア子爵が化粧道具を抱えて戻ってきた。

さっきまでの会話がなかったように身支度に戻る私達。

見慣れた髪色は色を沈め、持ってきてもらった道具たちで人相の印象を変える。

目の形、書き足すそばかす、輪郭の形をごまかす書き足し。

最後に服を変えれば、もう面影もないほどに私達は変身していた。


地味な髪色、貴族の服に身を包んだ4人組、印象の残りにくいように化粧を施した顔。

これならただのカモ…裏カジノに遊びに来た貴族に見えるはず。

案の定、私達の完成形を見た子爵は腰を抜かしてたけどね。


「ほ、本当にディアーナ王女ですか?全く別人です」

「見事でしょう?これなら裏カジノの方々を威圧することもないわ…さぁ子爵。連れていってくださるわね?」

「っ…!は、はい。覚悟を、決めましたので」


こちらへいらしてくださいと先を進む子爵についていく。

彼が進んでいくのは屋敷の内部。奥へ奥へと進む彼が止まったのは、光が差さない扉の前。

子爵がその部屋を開けると、何もない部屋が広がっていた。


「すぐ、道を開きますから…お待ちください」


そう言って子爵は床に手をつく。

そして次の瞬間、板張りだった床には闇が広がる。

黒く暗いその空間のなかに、微かに階段らしきものが見えた。


「この先が裏カジノです…本当に行くんですか?」

「ええ。わたくしに二言はなくってよ」


振り向いて3人と目を合わせる。

もちろん、誰一人ここで「やめます」なんて言わない。私の目を見て、頷き返してくれた。

みんな、情に厚い人で頼もしい限りだ。


意を決して階段へ足をかける。

フワッと妙な浮遊感の後に階段を踏みしめる感触が来て、深い闇の中に体が沈んでいった。

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