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6話 私は手足を得た


「まず、あなた達は私の部屋から金目の物を何度も盗んだ。直近だと三日前にね?わたくしこの目で見たもの」


ちらっとメイドのほうを向けば、これまた三者三様の反応。

メリーはぎくっと効果音が出そうなほどすっごく焦ってるし、アテナはまだ怒りが治まってない。コマチはもうわからない、ずーっとすまし顔。

でもメリーの反応でわかるのは、やっぱり三日前が初犯じゃないってことだ。

もし「いやあの時が初めてだけど」なんて言われたらテンパってた。


「なんでお前がそれ持ってる。ちゃんと隠したのに」

「あなたが侮るほど何も影響がないクソガキじゃないの!ちゃんと探せばあったわよ。ここは王族が住む城なんだから『どうして部屋に入った』なんて言わないでね?盗まれたものを取り返して悪いことなんてないでしょ!」


本当は後々原作で出てくるメイドたちがモノを隠す場所を探したら見つけたので、がっつり原作作者知識です!

まだ何かアテナが言おうとしていたけど、コマチに口を塞がれていた。結構勢いよく口を覆ってたから、見た目に反してコマチは案外荒っぽいこともできるらしい。

この辺りじゃ珍しい黒髪ストレートクールビューティーな人だから、そういうことはしないと勝手に思い込んでた。


「王族への無礼は重罪。それがこの国の掟、わたくしはこのまま罪人としてあなた達を突き出したっていいの」

「それだけは!それだけはやめてください。全部お返しします、だから見逃してくださいっ!」


真っ先に私に頭を下げたのはメリーだった。

顔を真っ青にして震えている彼女は、この状況の絶望感に打ちひしがれているらしい。

この子は、一貫して素直なのかもしれない。そんでお人好し。

この場でアテナを差し出して私の味方っていうスタンスを見せれば回避できたかもしれないのに、必死にアテナを守ろうとしてる。

その姿は心がちょっと痛むけど、私はそれを見て加減するわけにはいかない。


「それはあなたたち次第。ほら、これ」


私は窃盗品が入った袋から美しいカメオを三つ取り出して差し出す。

ディアーナと名前が刻印されているカメオブローチ。しっかり王家の紋が入っていて、王族か、それに近しい者でないと所持できない逸品だ。


「わたくしの専属メイドになりなさい!私に従い、仕え、私のために動くの。もし嫌なら別にいいわ、告発してあなた達を平等に罰してもらうだけだもの。言っとくけど、王……じゃなくて、お父様は国の利益にならないただの使用人を容赦なく罰するわ。わかっているでしょうけど!」


アテナとコマチの顔色が変わった。

さすがにどちらを選んでも最悪な二択突きつけられたら、戸惑いもする。

メリーはもう気絶しそうなくらい顔色が真っ白だけども。

三人からすれば「わがまま放題王女のサンドバッグ(になるかも)」VS「最悪処刑で情状酌量も聞いてもらえない」だもんなぁ。

だけどそれは作者の私がディアーナに成り代わってなかったらの話だ。


「でも、できれば罰したくない。だって、お父様の悪政の影響が出てるって知ったもの。みんな貧しくて、生活に困り始めてる。この間スラムに行って見てきたわ」


メイド達が信じられないものを見たように顔を見合わせている。

わかる、わかるよ。みんなが知るディアーナはまだ六歳で、わがまま娘だったんだもんね!

そんな子が頭いいこと言ったら驚くよね!私も別人バレしないかドッキドキです!

だけどここはある程度ライラで行かないといけない。

これから私がディアーナとして生きていくためには、ただのわがまま王女じゃ困るんだよ。


「だから、三人を許したい。これを受け取ってくれたら、私の手足になる代わりに、ちゃんと満足する給金をあげるって約束する。受け取らなくても告発はしない、でももう次は許してあげられないし、今の給料を上げることもできない」


これは誘導だ。私の手足になる選択肢以外メリットはない。

私が今彼女たちに渡そうとしているカメオは、もし売ろうとしてもきっと門前払いされるものだ。王家の紋章が入ったものだから、値段もつけられないし取り扱ってくれる人はいないだろう。

お金に変えられない、高価なのはわかるのに手放すのは難しい。

要は決定的な首輪のようなものだ。王族以外が王家の紋を刻まれたものを持つとはそういうこと。


「強制はしない。だから、好きなようにして」

「ください!わ、私、ディアーナ様の専属メイドになります!」

「ちょっとメリー!?あんたなにしてんの!」


私が言い終わる前に手を挙げたのはメリーだった。

いい子そうでおとなしくて優しそうと思った彼女は、人が変わったみたいに言葉を発していて、眼鏡の奥の瞳が真剣そのもの。


「わかってんのかよ!こんなの罠に決まってる」

「いや!絶対に私専属になる。なるの!」


アテナが諫めても、メリーは言葉を撤回しない。

それどころか、アテナとコマチを強く見つめ、震えながら反論した。


「私、私の家は貧乏で、ママは病気で薬も買えない、だから売られるみたいにここに来たのっ!アテナもコマチも、盗みをしなきゃ満足にお金がはいらない今のままでいいの!?」


私は嫌!!とメリーの強い思いは、アテナとコマチにも伝わったんだろう。

アテナとコマチも渋々、私の専属メイドになることを選んだ。

アテナはどこか悔しそうで、コマチはこれまたすまし顔だったけど。


本当に仲がいいことだよ。

私は別に「みんな一緒じゃなきゃダメ」なんて一言も言ってないのにね?

三人の私のメイドたちに、つい笑いそうになった。


その日の夜、部屋で一人、布袋を漁っていた。

お目当ての私の腕輪は無事だった。ディアーナの装飾品に比べると汚いし地味だから、捨てられてるかと思った。

木でできたそれは、ママが私を思って作ったもの。

側面にはもう消えてしまった私への愛の言葉が書いてあった、

もう文字はないとしても、間違いなく産みの母からの愛を感じる。

続いて、袋の中にあった輝くアクセサリーを検分する。

王家の紋が刻まれているそれは、すべてにディアーナの名前と王家の紋が刻まれていて、きっと人は「王が愛娘に送った愛の証」というのかもしれない。

でも、この先の展開や未来を知っている原作者の私はそう思えなかった。


「ほんと、ハードモードな世界書いちゃってごめんなさいって感じ」


すっかりお気に入りになったベッドの上で次の行動を思う。


何としてもハッピー国家にするために達成したいこと。

それは、王妃の暗殺阻止だ。

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