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58話 馬車の中、私とみんなと

私がせっかく聞き出そうとした機会をぶち壊したジークは、思ったよりやられてた。

黒い燕尾服は片手に持ち、白いシャツと黒のパンツで何事もないようにしているけど明らかに異常。


「ジークさんっ!?どうしたんですかその姿!」

「特に何もありませんが?」

「ボロボロじゃないですか!それに目が真っ赤で、腕も血が出てます…」

「メリー、こんなことで泣かないでください。何もなかったので」

「何もなくないでしょうジーク。アテナ、手当してやりなさい」

「なんであたしが」

「あなたがコマチの次に手当てがうまいからよ」

「自分でやらせろよな…」


苦虫を100匹は噛み潰したようなアテナは、嘘くさいニコニコ笑顔を浮かべるジークの右腕を持ち上げて手当し始めた。

申し訳ないけど、子供たちがそのままだと怖がるから放ってはおけない。ジークはあのままだと間違いなく怪我したのを隠さずに話続けてたと思う。

この子たちはすごい重要な情報源なんだから喋って貰わないと困る。


(この子たちが会ったのはきっとシー先生だ)


シー先生。

私をディアーナとして王宮に送り込むことを考えたスラムの賢人。

あの少女の言った特徴も、黄色の布も彼を象徴するもの。

誰かが成りすましてるのかとも考えたけど、特別なぜか守られているスラムに住むとはいえ、貧民の彼に成りすますメリットなんか『今は』ない。


私宛に送った紫晶草の花束、王宮近くの子供に教えた裏カジノ、ディアーナ王女(私)なら何とかしてくれるの言葉。

それに「その人の住んでるとこも裏カジノのせいで危なくなってる」の意味。

原作では然るべき時、国の崩壊のタイミングで初めてスラムに大きくフォーカスしていた。

だから、今のスラムの状況なんて原作者の私にもわからない。

裏カジノがスラムに何をしたのかもよくわからない。


(どうする?原作に書かれていないけど、これは世界の規定通りなのか。あるいは私が成り代わったことによる影響なのか判断できない)


そればかり、ずっと頭の中を回っている。

こうしているうち、ジークの手当ては終わっていた。

私がしっかりしてなくてもアテナはちゃんと手当てを進めるし、メリーは子供たちから大人に入るなと言われた場所を聞き出しているみたいだ。


「おらよ、これでいいか。目は知らねぇからな」

「目までやろうとしたらその指折るところでした。これくらいでしたら問題ないですから」

「うん、うん…そっか、その場所行ってみるね。お話してくれてありがとう!」


まったく、いろんな偶然と思惑で選んだ専属使用人だったけどみんな本当に使えるな。

この二年でめちゃくちゃ連携取れてる。でも、コマチがいない分ズレも目立つ。

コマチがいたら手当は彼女にさせたかも。あるいは、今がら空きになっている私の近くを守っていたかもしれない。

どこか噛み合わないものは、きっとこの三人も感じてるはず。


さて、情報を引き出し終わった子供たちを解放して4人で顔を合わせる。

ここは乗ってきた馬車の中。

四人全員がちゃんと対面している空間は、この町のどこよりも安全で情報が漏れない。


「ここに全員いる必要あるか?」

「だってジークさんがこの町危ないっていうから」

「はい。うっかり裏カジノの連中刺激しちゃいましたので」

「トモエをどうしたのジーク。あなたが任せろと言ったのに一人で戻ってくるなんて」

「それが裏カジノの連中だったんですよね。うっかり痛めつけてこの様です、慰めてくださってもいいですよ?」

「その言葉聞く前は労わろうと思ったわよ…ほら、何があったか報告なさい」


馬車の中は別に広くない。王家のものだから4人は何とか乗れるけれど、人口密度が高いから早く話を済ませたい。

報告を促せば、ジークは仕方なしに本題に入る。いつものことだ。


「端的に言えば、トモエは王宮内に入り込んだ裏カジノ側の人間でした。しかも性別は男で、実に戦闘慣れしている危険人物です」

「なかなかあなたに似ているわね」

「え~?どこがですか?たまたま戦闘スキルが高かったごく一般人の庭師の俺を専属にスカウトしてくださったのはディアーナ様じゃないですか~」

「あれ?ヴァルカンティアの宰相様方とのあれこれはなんだったんですか?」

「メリーもう二年経つだろ騙されんな。あいつ向こうのスパイで戦闘狂だから」

「失礼ですね。もう俺はディアーナ様のものだというのに」

「あなたの経歴はわたくし達だけの秘密なのだから、言いふらすんじゃないわよ」

「もちろんですよ。そしてですね、俺30年近く生きていますが初めて遭遇したんですよ」

「何がだよ」


思わずツッコんだアテナに、真剣な顔を向けたジークがゆっくりと語りだす。

その語り口は、転生前によく見ていた怪談師にそっくりだった。


「魔法です」

「目イカレて真っ赤になったんだな」

「ジークさん、嫌なことあったなら相談に乗りますよ?」

「休みがなかったのが悪かったのね、この件が終わったら休みをあげるわ」

「どうしてこんな扱い受けているんでしょうか。本当なんですがね」

「普段の行いよ。疲れていたのね」

「本当なんですって」


ジークの話はまさに本当に不思議だった。

いきなり現れた男と少女、突然の煙攻撃に、あるはずのない壁の中の道へ逃げていき、即座になくなった。

まさに魔法。

そうとしか思えない。

でも、どうしたらいいんだろう


(そんなこと原作に登場させたっけ???)


原作での世界は異世界と言えど、魔法がまかり通っていたとは書いていない。

ストーリーを考えているときに、この世界の魔法は考えていた。

もちろん、私自身にたくさんの魔法を描く技術がなかったからネタ帳どまりになっていたし、話を書き進めていけばいくほど魔法がなくても成立するようになってしまったから存在すら忘れていた。

人間の情報は覚えているのに、世界を構築する情報を忘れてるのってありえないよ自分。


(でもそのネタ出したのは10年以上前だよ!細部まで覚えてないって!)


ふか~くため息をついた私は、馬車の壁を見上げた。

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