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50話 何も知らない私、みんなが知ってること

コマチちゃんが出て行って、ディアーナ様はちょっとしょんぼりしてるみたいだった。

私は、ジークさんとアテナが何をしてたのかよくわからない。

コマチちゃんが裏カジノと何があったのかもわからない。


でもディアーナ様が私達のことを本当に思ってくれてるのはわかるよ。

今だって、さっきだって、私たちのことを心配していろいろ知ろうとしてくれてるもん。


「ディアーナ様、もうおやすみになってはいかがですか…?夜も遅いし、社交界で疲れたんじゃ」

「いえ、いいわ。ジークとアテナの報告を聞いてからで」

「別に明日だっていいだろ。コマチもいないし」

「いないからこそよ。……ジーク、あなたはどうしてコマチが関係者だってわかったの」

「ディアーナ様、おねむでしたら寝たほうがいいと思いますが。俺は別に逃げませんし」

「ダメ」


少し目をこすりながら、それでもディアーナ様はジークさんに続きをねだってる。

いつもならもう寝てる時間。寝ることより、コマチちゃんに関することを優先してくれるんだ。


「コマチも、あなたたちも家族みたいなものなの。だから、知らないことがあるのが嫌」

「傲慢ですねぇ。そんなの全部知るのなんかほぼ無理ですよ?知られたくないことだってあるから出て行ったんでしょう」

「それでも、知らなくていい理由にはならないわ。だってあなたたちはわたくしのものだもの」


ディアーナ様はいつも聞き分けがいいし、決められたとおりにお勉強も、訓練もちゃんとする。

昔みたいなわがままはもうほとんど言わない。

だけど時々、ガンコで絶対に譲らないときがある。


(そうなったら、私たちは何があってもついていくしかないんだよね)


アンナ王妃の茶葉を燃したときも、お葬式で演出をしたのも。

全部、ディアーナ様がガンコするときは「未来の誰かのため」だから。


「はぁ…じゃあアテナ、任せました。俺だと無駄にお話を長くしてしまうので」

「はぁ!?」

「アテナ、お願い。悪いけど眠いのよ」


私は話についていけないけど、こうして難しそうなお話をみんなでしていくのは好き。

紅茶を一口飲んで、私の焼いたクッキーをかじって、息をつく。

出て行っちゃったコマチちゃんもきっと好きなんだよ。だって二年私たちはこうやって過ごしてきたんだもん。


アテナはすごく嫌そうにしながら、眉間に皺寄せてぼそっと小さく言う。


「見た目」

「アテナ、それってどういうこと?」

「メリー、わかってんだろ。あたしたちの中で一番、コマチだけいろいろ違う」


よくわかっていないのは私だけみたいで、ディアーナ様は頭を押さえて何か悩みながら寝かけてるし、ジークさんは興味なさそうに紅茶を一気飲みする。

説明してくれないかなってジークさんを見つめると、視線に気づいていつもみたいに先生の顔になった。


「メリーは金髪で、顔立ちにささやかですが華がある。生粋のディオメシア国民で、以前『町にいる家族に仕送りをするために王宮に来た』と言っていましたね」

「はい、お父さんもお母さんもディオメシアの人です」

「俺はまた特殊なんで除くとして…ディアーナ様とアテナは雰囲気似てませんか?色は若干違いますが赤銅色の髪が特徴でしょう。あれはヴァルカンティア人特有のものです」

「そうだったんですね。でもそれに何の関係が?」

「コマチを思い出してください。彼女のつややかな黒髪、ディアーナ様よりも切れ長の瞳。顔だけで俺達とルーツが違うのがわかるでしょう」


確かにコマチちゃんは他の人と比べると大人びて見える。

普段、誰かを出身とかで見たことがなかったから気が付かなかった。

コマチちゃんは確かに、私たちの誰ともどこも似てない。


「彼女のルーツは、裏カジノと深く関わるものだと今回でわかったんですよ。俺も長年調べましたが、まさか今わかるとはね」

「あの、そんなにダメなんですか。コマチちゃん、あんなにいい人なのに」

「この国で彼女の民族は裏カジノ関連に縛られます。建国以来、そこから出て生きてはいけないと暗黙の了解があったからです。……それを変えた人が現れるまで」

「それって」


まだまだジークさんの話が聞きたい。

この国には、私が知らないことがたくさんある。

私が知ることで何ができるわけでもないけど、大切な友達のことを深く知りたい。


でもカシャン!と勢いよく音がして話は止まった。


「あーあー。寝ちまった」

「おや、やはりディアーナ様は限界だった様子。我々も解散にしますか」

「え、はい。そう、ですね…」


椅子に座ってカップを倒して、すやすや寝息を立てているかわいいディアーナ様。

私の弟と同い年なのにいつもとってもしっかりしてるから、こんな姿を見ると微笑ましい。


結局お茶会はおしまい。

まだまだ話を聞きたかったけど、ちゃんとベッドまでお運びしてゆっくり眠ってもらわないと。


ジークさんが寝台までディアーナ様を運んで、アテナがお茶会セットを片付けて、私はディアーナ様が寝やすいように寝間着を整える。


「おやすみなさい。ディアーナ様」


真っ暗にしたお部屋にひとことご挨拶をして私も王宮内の自室に戻った。


(なんだか、家族が恋しくなっちゃったな)


来週、ディアーナ様に町へちょっと帰ってきますと言おう。

それで、私の家族に会って、いっぱい抱きしめよう。


(王宮にも、町にも大切な人がいるってとても贅沢だなぁ)


明日コマチちゃんに会ったらぎゅっと抱きしめようかな。

彼女に何があるのか、私はわからないけど「大好きだよ」って伝えたい。

嫌がったら悲しいけど、それが私にできることだもん。


あくびをして、ベッドに入る。

ふかふかのベッドに包まれて、私は目を閉じた。

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