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5話 私は断罪したい

昼下がりの部屋の中。私は部屋で一人、お茶を飲みながら本を読んでいた。

ディアーナに成り代わって三日。不慣れなところはあったし、ライラとして得たスラムの常識が出そうにもなったけど、なんとかうまく王女様をやれていると思う。

ただ悲しいのは……


(ディアーナが私になったことに誰も気が付かなかったんだよなぁ)


最初は信頼するメイドがいたりしたらすぐバレると思っていたのに、三日間で同じ使用人に会うことはほとんどなかった。自分専属の使用人はディアーナにはいなかったらしい。

それに、一番の難関だと思われる母親のアンナ王妃にはまだちゃんと会えていない。

体調が悪いはずなのに、公務で遠征だとか。初日に見かけた庭師の人が私にそう言ってきた。

さすがに実の子が成り代わっていることに違和感を感じるだろう。いや、そうであってほしい。


(それにしても、お茶もスコーンもおいしい。スラムのみんなにも食べさせたいな)


おいしい紅茶とスコーンのイギリス式お茶セット。

紅茶は日本のアールグレイみたいな香りがするし、スコーンはほろっとサクサクで紅茶によく合う。ついているジャムはベリーっぽい感じで、実に好み。

さすが創作の世界、ちゃんと現代と同じくらいご飯がおいしい。

私が設定したんだから当たり前だけど、公衆衛生も倫理観もその辺は現代準拠なので生活の快適さは段違いだ。

ちなみにスラムで食事は食べられたらラッキー判定なので、おいしさはそこまで求めちゃいけない。

そんな優雅なティータイムは、三回のノックの音で中断された。


「ディアーナ様、清掃に入りますので、一時退室をお願いします」


黒髪メイドの声に口元がニヤケてしまう。

ついにこの時がやってきた。他の仕事があるのかなんなのか、この三人が清掃に来たのは私が初めて王宮に来た日だけ。

私がこの三日間インドアで部屋から全然出ないもんだから、そろそろ来ると思ったよ。

一つ咳払いをして、極めて優雅に、自分を王族だと思い込む。

私は、いや。

わたくしはわがままで高飛車なディアーナ。

これから始まるのは、悪さをしたメイドへの断罪イベントなのだから。


「どうして?今お茶しているのが見えないのかしら」

「こちとら仕事なんだよ、ちょっと出てくれるだけでいいからさ」

「アテナ、そんな言い方したらまずいよ。イライラしないで」


私の言葉に噛みついた赤毛を窘める巻き毛。

やっぱり思った通り、赤毛は直情型でまだまだ本音と建前が使えない幼さがある。

仕掛けるとしたら、ここだ。


「うるさいわね!メイドとしてまだまだなんじゃなくって?名誉ある宮殿仕えなのだから、言葉遣いと敬意を身に着けなさいな」


赤毛の額に青筋が走るのが見える気がした。目を見開いて、音が聞こえるくらい歯を食いしばっている。


「チッ!好きでここにいるわけないだろうがよ」

「アテナ!」

「メリー、コイツはガキだ。しかも何の脅威でもない、なんでこっちがペコペコしなきゃいけねーんだよ」

「だめだよ、追い出されたら生きていけないんだよっ……!」


どうやら赤毛はアテナ、巻き毛はメリーというらしい。使用人キャラは物語にそこまで介入させていなかったから、メイド長と王直属の執事以外は詳細な設定を練っていなかった。

この三人は全く設定の範疇外。わからないことは多いけど、持ち前の作者知識とキャラクター理解力があればこの局面、切り抜けられる!

なぜなら私がこの世界を作ったのだから。人の悪面、欲望、感情、嫌なとこ全部詰め込んでリアルに作った創造主だから!


「そう、だったら生活苦で王宮勤めが一番給与が良かったか、売り飛ばされたの?使用人って、そうやって補充するのよねお父様。だから、かしら」


一番反応を示す奴の琴線に触れるようにしゃべり、効果的に言葉を聞かせろ。

そして、相手に届かせるのだ。自分の言葉を。


「わたくしの部屋から、物がたくさんなくなっているのは。よっぽどお金に困っているのね!」

「っテメエ!」

「アテナ!おやめなさい!」


メリーの拘束を抜け出したのを見て黒髪が初めて焦ったような声を出した。

だけど遅い。アテナの手は私の胸倉をつかんだ。

瞳孔は開いてるし、掴まれてる胸元の生地がギリギリ音を立てている、息が荒い。

相当怒らせることに成功したみたい。でもこんなに迫力あるとは想定外!この子見た感じ十代前半じゃん、王宮に来られるならスラムよりいい暮らししてたんじゃないの?なんでスラムみたいな治安悪い脅かしに慣れてる訳!?

精神成人女性でスラム生まれのライラちゃんじゃなかったら泣いてるぞ!


「撤回しろ!このクソガキ!!」

「やだ!ごめんなさいごめんなさい!ディアーナ様、どうか許してくださいっ!コマチちゃんも止めてよ!ねえ!」

「手を離しなさいアテナ。こんなお人でも、手をあげれば重罪は免れません。落ち着きなさい」


メリーがアテナを引きはがしながら私に謝罪するのも、冷たく正論をぶちまける黒髪のコマチと呼ばれるメイドも、アテナのためにこの場を収めようとしてる。

きっと仲は悪くないんだ。そりゃあ、王女の部屋から窃盗する共犯なんだから仲はいいと思っていたけど。

ようやくアテナの手から離されたので、ドレスを少し整える。だって汚したらまずそうじゃん、こんな上等そうなやつ。

さて、メイドたち三人と私だけの今が好機。私はこの時を待っていた。


「メイドがそんな態度取るなんて、なんかあったんでしょ?例えば『盗んで貯めていた金目の物を入れた布袋がなくなっていた』とかね」

「ど、どうしてそれを……」

「だって、わたくしが持っているもの」


私は薄汚い布袋を彼女たちの前で掲げた。

幼い私が片手で持つには少し重たく、中からは金属がこすれる音が聞こえる。


「これ、探してたんでしょ。わたくしぜーんぶ知ってるの!死にたくないなら話をおとなしく聞くことね」


そう、ドロドロ小説あるある『断罪イベント』の始まりだ!

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