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44話 私とエラのワルツ

「エラといったかしら、あなたいったいどちらのご出身?」

「そうそう、噂になってましたのよ。こう、そう。素朴なお育ちの者を使用人ではないのに住まわせるんですもの陛下は」

「陛下はなかなかにお難しい人ですからなぁ!政治は少々難解で民衆からの不満は溜まっているようですが、戦いはお好きな方だ。何かお考えがあるんでしょう?」


やっぱりというか、挨拶が終われば待っていたのは貴族からの質問攻めだった。

しかも、私じゃなくてエラへ。


ディルクレウスは別の貴族に呼ばれて行ってしまったから、9歳の私と美しき異端のエラだけのところを狙ってきたんだろう。

確かにエラが社交界で散々な目に遭ったとき、ディルクレウスは手を差し伸べなかった。

きっとここから原作の「散々なパーティー」だ。


(良かった。今はここに私がいる)


真っ先にエラに近寄ってきたのは噂好きでゴシップに目がない三人の貴族。

確か、ダンスを教えに来ていたあの貴族女性も彼らとつるんでたはず。

今日はエラにドレスの嫌がらせをしたし、さすがに聞きに来るほど精神太くはなかったみたい。

でも、どうせこの三人から後で聞くに決まってる。


(この三人に何を言ったかで噂の内容が変わる。それくらい声だけはデカいんだからこいつら)


私はエラの手を握って引き寄せた。

そして、仲が良く見えるように寄り添う。

見せつけるようにわずかに私が前に出て、エラへの質問を受ける構え。

そして、私も一瞬仮面を外す。

エラも仮面を外したままなので、私たちの顔はこの仮面パーティーで良く見える事はず。


転生前はやったことがなかったけど、ディアーナの顔は切れ長美人キレイ系、エラは二重の可愛い愛嬌+色気系だ。


(魅力的な顔面が寄り添う図は古今東西威力抜群なんだよ!)


「あら、仮面でお顔が隠れておりますので誰だか『わからないこと』にいたしますわね?……エラに関することはわたくしが答えますわ?」

「いやいや、この娘のことでディアーナ様の手を煩わせずとも」

「そうそう!ほら、ディアーナ様は他の皆様にご挨拶をされては!」

「私共がこの娘のことはちゃんと見ておりますので。ポット出の女など放って、さあ!」


何としても私を引き剝がしたいみたいだなこいつら。

そりゃね?大っぴらになじったりできないでしょうとも、王が認めた異例の女なんだから。

エラが王宮でどうなるのかは貴族たちの興味と今後に関わると思う層がほとんど。

私が牽制し続けてるとはいえ、後妻の座を虎視眈々と狙ってるのなんてモロバレだしね?


(ったく、もうアンナが亡くなって二年経つんだから自分で牽制しろよなディルクレウス!)


「いいえ?エラは『わたくしのお気に入り』ですの。お父様ではなく、わたくしの。……これ以上、何かお話があって?」


悠然と構えて、これが当然のように言う。

明らかにおかしいことでも「それが当たり前ですが?」って顔でいると人はたじろぐもの。

これ、この世界だけじゃ無くて転生前の現実世界でも案外使えるから有用ね?


「あっ……ですが噂ではとんだ出来損ないだと」

「あら?あなた方ともあろうものが、随分情報が遅いのね?無理もないわ。頻繁に王宮に来ることは叶いませんものね?」


ちょっと皮肉?

いやいや、貴族社会これくらい効いてないと舐められるからね?ちゃんとした貴族ならこれくらいで腹を立てない!


「彼女は、庶民だったとは思えないほどに見事な淑女になりましたの。そう、挨拶で皆様の目を引くほどにね?」

「ですが」

「納得されない?では……」


私は手近にいた貴族らしい黒い礼服を着た男を捕まえる。

他の貴族よりも少々地味で、ともすればパッとしない、印象に残らないような顔の薄い男。

そして、彼を確認するとエラの手を離した。


「エラ、この人と一曲踊りなさい?あなたのダンスを見れば、みんなひとまず納得するわ」

「ディアーナ様、あた…いえ、わたしは」

「エラ……お返事は?」


ネガティブ出そうになったエラを何とかとどめる。

こんな大勢の前で踊るなんて、初めてなら緊張するよね。私もそうだったし。

だめだよネガティブ発言したら真っ先にそこ突かれるんだから!

ちょっと黙らせるみたいになったけど、まず喋らせるより魅せることと緊張を解くこと。

そして、自信をつける事。


捕まえた礼服の男と目が合った私が顎でエラを示すと、彼は自然な様子でエラに手を差し伸べた。


「エラ嬢。ディアーナ様から拝命いたしました僕と、踊っていただけますか?」


初めてこんな対応をされたんだろう。

エラは一瞬たじろぐけど、すぐに覚悟を決めたのかぐっと口を引き結んでその手を取った。


「エラ。仮面をつけなさい、もうあなたの顔を見せびらかさなくて良くってよ」


仮面をつけたエラと、男を見送る。

噂好きな貴族たちもそれを見てそそくさと退散した。彼らが一曲後にいい噂を流してくれることを願うばかりだ。


男は一瞬私の方を向いてウインクしてきたので、さっさと顔を逸らした。

心配?別にしてない。

だって、エラはもう素敵に踊れる。

緊張でこわばるところが玉に瑕だけど、彼女の長い手足の動きはしっかりハマればすっごく優美なんだから。


「ディアーナ様、お飲み物はいかがですか」

「ああ、コマチ。ありがとう……まったく、機嫌が悪いわね。どうしたのかしら」

「っ、申し訳ございません。どうしても、あの女がガーネットを纏うべきなのかと考えてしまい。ディアーナ様のご決断を愚弄するつもりは」

「わかっているわ。でも、将来を見越しての考えなの。こらえなさい」


大広間の中心が空いていく。

そこへ、ワルツを踊ろうとする男女が5組ほど入る。

そのうちの一組は、もちろんエラだ。


「大丈夫でしょうか、緊張で固くなっていますが」

「問題ないわ。よく見ておきなさい」


曲が始まる。

ぎこちなくも、リードに従いつつボックスステップを踏み、男性に腰を抱かれながら踊る彼女。

仮面をしていても、雰囲気というものはわかるもの。

その指が、弧を描く腕が、ドレスの揺らめきが彼女を引き立てていく。


(さあ、ターン!私でもちょっと苦手な部分、練習ではいっぱい転んだ場所!頑張れエラ!)


内心、もしかするとと思ってた。

原作で散々だった社交界。

それは、ダンスでもだ。

私がいくら教えても、運命力……いや、原作修正力が働くと思っていた。

だって、彼女は主人公。一番物語に縛られているから。


そして、彼女がターンの瞬間、体勢を崩した。

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