39話 私のシンデレラ育成
燦燦と日光が差し込む、広々として何もない大広間。
一週間後に公式な社交界パーティーが行われるこの場所で、私達は真剣に踊っていた。
右足、左足、一歩引いて横移動。
規則正しい手拍子に合わせ、背筋を伸ばし、淀みなくヒールを履いた足を動かす。
足の運び方に注意を向けつつ、私の腰に手を添えてリードをする相手と目を合わせ、くるっとその場で導かれてターンする。
二周して、元の手を引かれた状態に戻ったとき、内心でガッツポーズした。
(よし、うまく決まった!)
「あ、わ、きゃあ!」
心配だったターンを終えて、内心喜んでいると背後でヒールを履いた足がもつれるような音が聞こえる。
ここ数日、何度も聞いたその音。
正直、見ないでも何が起こっているかわかる。またかよとイラつきすらある。
でも、私はそれら全部隠して心配の顔を作り、弾かれたようにリードしてくれていた使用人の執事の手を離して駆け寄った。
「エラ!大丈夫かしら」
「ごめんなさい、ごめんなさい!また足引っ張ってあたし」
「問題ないわ。わたくしも始めてすぐはたくさん転んだもの。さあ、社交界まで時間がないんだもの、続きを踊りましょ」
「はい……ありがとうございます、ディアーナ様」
エラのリードをしていた執事の男性は、嫌そうな顔を隠しもせずに目を逸らした。
ダンスをエラに教えるため呼ばれた40歳代の貴族女性は、うんざりという目をしていたが、私が二人に「また始めから、いいわね?」と言うとすぐにしゃんとして練習を再開する。
こんな形が、この二週間の恒例だった。
エラを王宮に迎えるというディルクレウスの発言から翌日、既に朝のうちに王宮を発った彼が、自分の専属執事に私への言伝を伝えた。
『エラを一か月後の社交界にお前と共に出す。あとは任せた』
ま~~~ムカついたよね。
「後妻候補として発表するためか?」「専属使用人じゃなくて9歳の娘に丸投げするか普通」「自分は放置かよ」
色々考えたけど、真っ先に浮かんだのは「ド庶民貴族関係無知のエラを、一ヵ月で人前に出せる出来にしろって?」という焦りだった。
私は確かにライラとして庶民以下のスラムの孤児で8年弱を過ごし、王女として成り代わったのは二年くらい前だ。
でも、中身は社会人経験も、ちょっと格式高いマナーとかも経験している下地のある大人。
そんな私だって、テーブルマナーや応対、ダンスはちょっと準備不足でディルクレウスのリードあって初めてうまくいったけど……貴族の世界で生きるのは何もかもが違う。
(それを何の下地もない15歳の子に求めるなよ。そのせいで貴族の不和起こるんだぞ)
原作では、今回と同じように一か月後に社交界デビューを果たすエラ。
しかし、応対もダンスも完璧ないくつも年下で正統な後継者のディアーナと比較され、人前に出せるレベルまで至らなかったことを嘲笑され、さらに自信を無くして自分の意志のないままに流される性格になってしまう。
(そのせいで王家の威信は下がっていくし、それで流されて他国の王子と……ってこれは今はまだいいとして。最悪なバッドイベントになるんだよなエラの社交界デビュー)
誰だよこんな運命用意したの。私だね。
全部原作者の私のせいです。
ディルクレウスだって少し考えればエラには無理ってわかるでしょうが、無理無茶無謀!
事実を淡々と語るような形式で自作小説書いてたから、ディルクレウスの思惑だとかには触れて書いてなかったのが悔しい。
わかってたら、もっと回避の方法も考えられただろうに。
だから、私の次の目標は決まっていた。
エラの今後とか、起こるだろう後妻騒ぎだとか、彼女の出生の秘密をどう利用するかだとかはこの際置いといて。
(まずはエラの社交界デビューを無様に終わらせないこと!)
ここはエラの性格とか今後に影響を与える部分だし、地味に重要なターニングポイント。
誰も死なないし、政治的な物の発表もないし、血も流れない。
だけど、確実に「王が見出した有望なもう一人の少女」という肩書は原作を変える一手になるはず!
「ほら、いいところまで踊れているのだからもうすぐよ。わたくしをよく見て真似なさいな」
「はいっ、ディアーナ様!」
大広間の隅には、私のお世話のために待機してるメリーとコマチがいる。
メリーはいつも通り、柔らかな笑顔を向けて応援。コマチはなんだか苦々し気にエラを見ている。どうせ「ディアーナ様の手を煩わせて、あまつさえ気遣われるなんて」とか思ってるんでしょう。
ジークとアテナはここにいない、というか一週間くらい姿を見てない。
エラが来た日、二人にはディルクレウスの監視を一夜だけお願いした。
それ以降ジークがアテナを伴って自由に動き回ってるからここにはいない。
『詳細は言えないんですけど、ちょっと面白いことがわかったんでアテナを借りますね。ちゃんと護衛は陰ながらやるんで、メリーとコマチとのほほんとアホ面晒していてください』
『前半の言葉以外全部余計よ、せいぜい無事に怪我しないで元気に戻りなさい』
『当然。俺達はあなたの命綱ですから』
専属使用人を命綱という感じ、完全にアンナ王妃の受け売りだった。
今、エラのことを任されてるので二人が抜けるのは痛い。
でも、いつも万全で挑めるほど世界は優しくない。
(メリーもコマチも二年で専属使用人として堂々と仕事できるようになった。三人でどうにか、エラを成長させてやる!)
「エラ、ダンスが終わったらあいさつ回りの練習よ。わかったら下ではなく前を向きなさい!」
「うう…あたしにはできないです……」
「できないではないわ、あなたはやるの。わたくし、信じてるもの」
「信じてる、ですか?」
「ええ。あなたの美貌、三週間弱わたくしの特訓に耐えた心意気、弱音を吐いても立ち上がる強さ!」
あと原作での影響力と、悪運の強さと、お人好しで今恩を売っておけば将来守ってくれそうなところも!
「だから、立ちなさい。あなたは、素質があるわ」
15歳が9歳の子供に上から目線でしごかれてるなんて、絵面的にどうなんだろうと思いつつも、エラはちゃんと食らいつく。
私は、確かに今、誰かを育てる快感を感じていた。




