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37話 私の抵抗は小さい

さあ、いきなりだけど私は全力で応接室への道筋を妨害している。

なぜか?そんなの決まってる。


(なんで今日に限ってディルクレウスが王宮に戻ってくるの!?)


恐王を、何としてもエラと会わせないようにするため!


======


事態が変化したのはほんの10分前。

緊張しながら私とケーキを食べるエラを眺め、簡単にメリー、アテナ、コマチ、ジークを紹介していた。


「あなたの存在はもう王宮内に知れた。本当はお帰り願いたいところだけれど、もう日が暮れたもの。今日は空き部屋を用意するから泊っていきなさい」

「そんな、迷惑になりますので帰ります」

「ここに来た時点でそこそこの迷惑よ。いいから、安全に帰りたければわたくしに従いなさい。困ったことがあればこの4人を呼べばいいわ、わたくしの信頼する使用人達だから」


将来後妻、いや、お母様と呼ばなきゃいけないだろう相手に恩を売っておく。

正直、ディルクレウスの名前入りの装身具を所持してる時点で本人に合わせたほうがいいのはわかってる。


私がメリーとアテナとコマチにカメオを渡したように、王族から名前入りのものを賜るのはそれだけ意味があるもの。

それを手放さない限りその王族の庇護を受け、王族に所持されるという契約代わりにもなる。


(でも今ならまだ何とでもなる。「不審者だと思って追い返した」とか何とか言えばいいし、ディルクレウスは何か月も帰ってこないのはザラ!)


原作通り、エラの王宮入りを半年遅らせられるはず。

その間に手回し根回し、もっと王宮内の連携とかを盤石にして、後妻騒ぎくらいじゃ揺らがないように動かないと。


(原作崩壊させようとしてるのに、原作知識を生かして生き延びるために原作通りに動かさないといけないってどんな矛盾?)


「そんなにいいんですか!?やっぱり、ディアーナ様は素晴らしい方なんですね」

「それほどでもあるわねぇ!感謝するのなら、家に戻ってからわたくしの素晴らしさを語って回りなさいな」


そして自分の支持率向上も忘れない。

何をするにも、支持が高いほど意見を通しやすくなる。

今はディルクレウスのほぼ独裁政治だけど、だからこそ国は崩壊していく。

それに、ディアーナは17か18歳の時に国の崩壊後に民衆の前で処刑されるんだ。


(アンナの葬儀の時から、民衆への人気は意識してきた。民衆を味方に着ければ、この世界の攻略度は上がるはずだから)


そんな時、またドアがノックされる。

現れたのはさっきのメイド。これまた焦って息を切らせている。

まだ何かあるの?今日エラが来ただけでかなりの衝撃だったのに?


「ディアーナ様、あの、先ほど陛下がお戻りになられました…」

「……へ?」

「ディルクレウス陛下が、今玄関ホールに」


(聞き間違いじゃなかったー!)


私は背後を振り返らずに猛ダッシュで応接室を出る。

玄関ホールに向かう道すがら、応接室をめがけて廊下をこちらに歩いてくる大きな人がすぐに見えた。

相変わらず片目を隠した黒髪に、剣を腰に差して堂々と進む姿。

それだけなのに、もはや覇気が違う。

見慣れるほどに会っていないのもあるけど、二年経ってるのに怖い!


(でも、今ディルクレウスとエラ会わせたら原作の流れ早まるの間違いなし!)


==============


そんな経緯で何とかディルクレウスを応接室から遠ざけようとするけど、全く靡いてくれない。


「お父様、いきなりどうされたんですか。戻るなんて一言も」

「我が戻ったら何か不都合か?」

「(不都合極まりないよ!)いえ、お父様にお会いできてとてもうれしいですわ」


私の全力の可愛げにも足が止まらない。

この人、身内の情とか皆無。アンナが死んだときもさっさと寝室から出て行ったし、こんな幼い娘をほぼ放置だもん。


(そりゃ、私自身は成り代わった偽物の娘だけど)


本物のディアーナは、母を亡くして父も帰ってこない中、エラ襲来を受け止めなきゃいけなかったんだ。

そんなディルクレウスを止めるのはまず無理。


「今朝連絡があった。我の名の入った装身具を持った娘が王宮に来ると」

「今朝ですか?そんな、来たのは夕暮れ頃なのに」

「そうか、やはりいるのだな」

「あっ」


何とか通せんぼをするも、9歳の子供の抵抗なんて意味がない。

ディルクレウスの手が応接室のドアに掛かる。

必死に隠そうとしていたのに、私の目の前で二人は対面してしまった。


見目麗しくも悪政と強い武力で恐れられる王と、みすぼらしくも内と外から美しさが溢れている主人公の女。


「お前は……誰だ、名乗れ」

「あたしは……エラと申します」


エラの言葉に、目元を覆うディルクレウス。

15歳の小娘相手に、30歳になる王が何も言えずにただ立っていた。

それを、私も、メリーもアテナもコマチも、ジークも。黙ってみているしかできない。


「我の装身具を持っていると聞いたが」

「これ、です。母さんが貰ったと」

「それは……エレインへ与えた…」


王族が自分の名前入りのものをあげるのは、相当その人物を気に入っているからと言い換えてもいい。

だから、何を誰にあげたのかはなかなか忘れられないもの。


(ああ、原作が始まっていく)


ディルクレウスの口から出たエレインという名前。

そして彼女の面差し、すべてディルクレウスには繋がったことだろう。

私だって、原作者じゃなかったらわからなかった。


エラはディアーナ(王女)と同じ灰色の瞳。

ディルクレウスと同じ、黒く光沢のある髪。

そして、原作者の私はディルクレウスとエレインの間にあったことを私は知っている。


原作のドロドロ小説では、様々な事情と思惑と策略が交錯していた。

これは、その中の大きな一つの要素。


(エラは、ディルクレウスの娘なんだよね)


王妃でも愛人でもなく、庶民との間にできた私生児。

そして客観的には何の後ろ盾もない庶民の小娘を後妻に据えようとして、混乱を後で起こすんだこの王は。


ディルクレウスが、エラに手を伸ばす。

私は小さくため息をついた。


私が「シンデレラ」と彼女を位置付けた意味。

庶民から王族に成り上がる女。いきなり駆け上がる人生は、絶対にハッピーエンドだけじゃない。


きっと今日、エラが王宮に住むことが決まる。

準備が万全じゃない中、頭が痛い原作が始まるんだ。

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