280話 私の着替えと卑怯の準備
私が原作で書いた最終決戦の王宮エピソードは2つ。
『レオンの暴走』
『ディルクレウスの死』
どっちもこの戦いにダイレクトに関わってくる。
なんせ、ディオメシアを今動かしてる二大巨頭だし。
広い廊下をメリーと足音を殺して歩く。
本当に自分たちの足音しかしないし、不気味。
窓からの光は明るくて、絨毯もふかふかで、空気が澄んでる。
今、戦いの真っ最中なんて、遠くから聞こえる戦いの音がなかったら信じられない。
「たしか、えっと……備品のある部屋はこっちです!」
「その部屋、ちゃんとカギはかかるかしら?それに、ハサミは?」
「両方問題なしです!ディアーナ様のお着換えの間に、私作業進めますね」
走るメリーの後をついて、リネン類が大量に詰まってる部屋に飛び込む。
木でできたラックみたいな棚に、ぎゅうぎゅうに綺麗なシーツとか布巾、使用人用の肌着にシャツにブラウスにエプロン……。
この王宮で使用人達しか入らない場所。
色々と都合がいいから使いたかったんだけど、王女だった私がちゃんとこの部屋知ってる訳もなかった。
担いでた布にくるまれてた荷物を広げた。
途端に見えるのは、本当に鮮やかで、彩度が高すぎないけれどよく目を引く赤。
ガーネティアと別れる時にもらい受けてきた、ディセルからのドレス。
「メリー、着るのを手伝ってくれるかしら」
「はい!コルセットはどうしますか?予備なら探せばあると思います」
「……つけてちょうだい。できるだけ硬い素材を選んで。できるなら中に金属板仕込まれてるものはない?」
「さすがにないですー!でも、そんなことしたら戦えないんじゃ」
「あの王様よ?ただの布なんか着たら、剣の圧だけで吹き飛ぶわよ」
私とメリーがこれからやろうとしてるのは、ディルクレウスを一回でもいいから殺すこと。
そして、それを戦ってる人間たちの目の前にちゃんと持っていくこと!
さらに言えば、それを掲げて『わたくしが次の王である!』的に衝撃を生んで、戦いを一時休戦にもすること。
んだけど……。
「あの、本当にできますか……ドレス着てディアーナ様が行ったら、王様が優しくしてくれたり」
「しないわよ。あの男はそんな人間じゃないでしょうし、わたくしが本物のディアーナ王女だって疑いすらしないから……最悪、あった瞬間に斬られるかも」
「そんな!じゃ、じゃあどうしてこんな。それなら、ディアーナ様は死んじゃいます!生き返らないんですよ!?」
「だから、対策するのよ。原作通りにいかないんだから、少しでも、ほんの指先ほどでも可能性を作るの」
ギッとカッチカチのコルセットをお腹に巻いていく。
ずっとドレスなんか着てなかったから、内臓出そう。
だけど、大事だからね。
古典的だけど、お腹の防御はしとけば安心でしょ。
原作で、ディルクレウスは死ぬ。
革命軍やそれを応援する他の国、四面楚歌で味方一人もなしで、失意の中での自殺未遂。
ディルクレウスは、王宮内になだれ込んできた反ディオメシア側に捕らえられて、処刑される。
我ながら、本当に嫌な最期作っちゃったよなぁ。
いや、本物のディアーナに比べればいい具合に自業自得か。
「わたくしの物語上では自殺があった。けれど、今は王家の祝福があるもの。そんな展開にはならないし、無駄よ」
「だからって、ディアーナ様が自ら手を下すのは無茶ですよ」
「無茶を可能にするための下準備。……よし、あとは一人でもできるわ。メリー、先にとりかかってちょうだい」
悠長にしてるけど時間はない。
メリーに小細工を仕込んでもらってる間に、私は自分の防御と思い出さなきゃいけないことがいっぱいある。
ここからは、原作者の私が書いた領分だ。
表の戦いの裏側で、いろんな思いが交錯する王宮内を書きたかったんだよな……過去の私は。
おかげで、戦いの模様より王宮内で起きる事件のほうが物語の本筋。
だけど、ミクサから聞いた限り、ディルクレウスとレオンが王宮内を好き勝手にしてるって構図は原作と変わりない。
なら、私の原作知識を使える。
書いてる最中、実現させなかった『もしも』を起こせる。
私次第で別のエンドにつくることはできる!
「このあと、どうしますか……?あの、一応適当に用意出来ましたけど……」
「上出来よ。じゃあ、行きましょうか」
「次は、厨房でしたよね。それでその次は」
「そこは、わたくしのほうがわかっているわ。それが終わったら……」
ついに、ラスボス戦。
時間かけすぎると、戦ってる軍勢が王宮内に流れ込んでくる。
ディルクレウスにとっての地雷を踏み抜きに行かないと。
あの鉄仮面無表情、感情あるか?みたいな人間だけど、彼が何を大切にしてたかは知ってる。
剣のすさまじい達人に、そんなことを仕込むのなんかほぼ無意味だろうな。
だけど、それくらいしか私にできることはない。
今更だけどやっぱジーク引っ張ってくるんだった!
「ディアーナ様」
「なにかしら」
「そのドレス、お似合いです。大人っぽくて、かっこいい」
「……ディセルが、たくらみで用意したものよ。悪趣味ね」
「それでも、ディアーナ様の色です。また、ドレス姿が見られて嬉しいです」
目元をちょっと拭うメリーに、何も言えなかった。
偽物王女の私についてきて来てくれた専属使用人のみんなは、こっちのほうが馴染み深いんだろう。
私だって、見た目なんかどうでもいいけど、たくさん何か仕込めるからってドレスを着たのに。
何も言わないで、また廊下に出た。
ドレスの裾をもって歩く私も、その後について堂々と歩くメリーも。
懐かしくてちょっと涙出そう。
もう、5人で揃ってこう歩くことはないんだろうな。
死んだら、の話だけど。
「行くわよ、メリー」
「はい!ディアーナ様の仰せのままに!」




