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278話 俺の雄叫びと狙えなかった頭

スラムの土じゃない。

石が詰まった道を裸足で歩くのは骨が冷える。

ひとっ走りすれば、もう王宮が見えるのに。


俺は、自分の弓から手が離せなかった。



「うん?どーしたジャックそんな震えて」

「でかい図体でブルブル震えちゃ、なんかあったのかと思うぞ」

「ち、ちょっとな。風邪ひいたかもだ」



風が寒いんじゃないか。

そう思ったけど、違うってすぐわかる。


これは俺の震え。

寒いけど、こんなのスラムじゃ暖かいほうだ。


指先が冷たい。

ハーっと息かけても、治らない。

こんなんじゃ、弓が引けないだろ。


舌打ちをしたとき、シー先生が人をかき分けてこちらに来た。

王宮襲撃の、最前線に。



「ジャック!時間だ、皆に号令を」

「先生……なぁ、本当にやるのか。先生がやめろって言えばみんな止まるし、先生なら王様と話し合ってさ」

「今更なんですか?ここまで準備に加担したのも、君が最前線に行くのも納得したことでしょう」

「そうじゃない、先生はわかってないんだ!人を殺すってどういうことか」



これから、俺は、狙って人を傷つけに行くんだ。

あの日、ガーネティアの頭を俺の矢がブチ抜いたあれを、またやりに行かなきゃいけない。


おじけづいたって言われてもいい。

人を殺して、何度も何度も夢に見て、貴重な飯食べた後で吐くなんかみんな知らなくていい。


なのに、呆れたみたいな先生がため息をつく。

何度も、なんども先生に言っても変わらない。

最近ずっとそうだ、誰の言葉もきっと聞いてない。



「一人殺したぐらいで、傷ついたフリですか」

「はぁ!?」

「大丈夫ですよ、あなたなら英雄になれる。君はこの戦いで、名を残すんだ」

「違う。俺は英雄なんかじゃない」

「君はこの戦いでいくつもの殺人をして、勝って、英雄になる。一周目も二周目も、君には人殺しの才能がある」

「そんな話してない!どうすればこんなことやめられるかって聞いてるだけなのに」

「私はあなたの比にならないほど人を殺して殺された。でも今元気に生きています、あなたもできますよ」



先生の声が、冬の川の水みたいに冷たかった。

なに言ってるのかなんかわからない。


俺は間違ってるのか?

どうして今更、こんなに悩まなきゃいけないんだよ!



「ジャックー!早く行こうぜ!!」

「お前が居なきゃ始まらないだろー」



時間、だよな。

行かなきゃ、じゃないと、先に俺たちが突撃しないと。

……どうして、だっけ。


戦いなんか、ないほうがいいのに。



「……ほら、行きなさい。あなたの声で、みんなが動きます」

「……先生のほうがみんな動くだろ」

「この革命軍のカリスマは、今はジャック、君だ……言え。皆を奮い立たせろ」

「だけど」

「この戦いを、止めるためだよ。ディオメシアの今を変えるために」



どうして、こんな時ばっかりライラのことを思い出すんだろう。


俺のせいで、王女に成り代わって。

俺のせいで、本当ならやらなくてもいい、この国のために働いて。

俺のせいで、王様に目をつけられて、追い出されて。


それでも、あいつは、ちゃんとこの国のために役目を果たしてた。


もし、これが俺の役割ならやらなきゃいけない。

この戦いで、俺が王族をなくしたら。

苦しむみんなを救える?

ライラがやってきたような、みんなのためになれる?



「あんたは、どこにいくんだよ先生」

「私はちょっと後ろにいるよ。だけど、大丈夫だ。君だけにこの戦いは任せない」

「……わかった」



まだ手が冷たい。

だけど、やらなきゃいけない。

この先、敵は大勢待ち構えてるのは知ってる。


その敵を、倒せ。

この大きな戦いを、意味のあるものにしないといけない。


一歩、みんなの前に進む。

みんなが俺を見る。

目がギラギラしてる、獣みたいだ。



「みんな!!時は来た!!」



うおぉぉぉぉぉおお!!

耳がビリビリする。

男たちのデカい声で、なんだか温かくなった気がする。

手は、感覚ない。



「これから、予告通り進撃を行う!!敵は、大勢だ。きっと厳しい戦いになる!!」

「それがどうした!」

「おれたちが叩きのめす!」

「王族にデカい顔させるなー!」



頼もしいくらい、みんなのデカい声がたくさん出てくる。

きっと、問題ないんだろうな。

これから、殺し合いするのに。


ダメだ、こんなんでいたらライラに顔向けできない。

自信がなくても、ライラはやり切ったはずだろ!



「俺が先陣を切る!!俺に続け!!」

「おおおおお!!!」

「行くぞーーーー!!!!」



駆け出していく。

冷たい風が、顔にびゅうびゅう吹き付ける。


背中の筒から矢を出して、弓を射れる準備をする。

みんなもガシャガシャ、矢とか刃物を触る音が聞こえた。


大声で町の人達が窓から顔を出してるのが見えた。

その時、俺は叫んだ。



「死にたくなきゃ離れろーーー!!!」

「おおおお!!!」



何叫んでも、みんな雄叫びで返す。

熱い、熱気が、背中が温かい。


目の前に、だんだんと兵士が見えてきた。

どこの国の誰かも分からない。

だけど、王族に味方してるなら俺たちの敵だろ!!


指がノッてない。

でも、弓をつがえて、放った。


兵士がひとり、肩射抜かれて倒れた。

頭は、狙えなかった。



「かかれぇぇぇぇぇえ!!!!」



俺は、これから、人を殺す。

指が、冷たすぎて動きにくかった。

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