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242話 ワシの行動で壊してしまった男

「人間を犬とは、ずいぶんな言い草じゃねぇか」

「地上で暮らせないモグラが偉そうに口を利くな」

「は?誰に口きいてるかわかってないな」

「崩壊したアリ山の大将だろう」



気に入らない奴に、大げさなへりくだりはいらない。

ワシは、そう教わってきた。


ワシらの月光国を、なんて言いやがった?


誰が経済握って、地上に住んでる国民を食わせてやったと思ってる。

お前らが国民襲われてるのをほぼ無視した時も、誰が避難させてやったと思ってる!!


ブチッとこめかみで音がした。

立ち上がって殴り飛ばしてやろうとしたら、左側から延ばされた腕が首にあたってベッドに倒される。



「ぐえっ!」

「おーっとすみませんミクサ。つい俺の腕が長いせいで失礼しました」



息が一瞬できなくなって、喉に来た衝撃。

骨がごりっと音を立てて、一瞬意識が飛びかける。

こいつ、わざとだな!?


荒っぽいんだよジークの野郎!



「汚い唾を飛ばすな。野蛮だぞ、もっと配慮しろ」

「え?なんであなたに配慮しないといけないんです?」

「貴様の行動で人が死ぬぞ」

「さぁさぁレオン様申し訳ございませんでしたはやく話をおすすめくださいませ」

「ゲホゲホっ!ジーク、お前……!」



いけ好かないレオン、変にへりくだるジーク。

どっちも気持ち悪い。


それに、レオンの不穏な言葉。

そうだ、コイツは何か話があるって言ってたんだ。


聞きたいわけねぇ。


でも、わかってやがるんだろう。

ジークがすぐワシの左肩をシーツに押し付けて、動けないようにされる。


下から睨みつけたジークの顔は、これまで見たどの顔より軽薄だった。



「あ、普通に話聞いてくださいねミクサ。俺もあなたも、もう不自由の身ですから」

「なに、言って」

「貴様もディオメシアの駒になるんだ、ミクサ。月光国がなくなった以上、お前に価値はないと思ってるがな」



さっきからなんなんだこの男は。

ディオメシアの、ディルクレウス王の右腕だか、婚約者だか関係ない。


月光国は確かに崩壊しちまった。

大回廊が崩れて、外に繋がる道が闇に落ちていって、それでも必死に生きて全員生きてるんだ。


月光国は、人だ。

戦える構成員も、戦えない女子供も、老人も赤ん坊も全員で生きる国だ。

国民を助けない、見捨てる、そんな神経逆撫でしかしないお前に、ディルクレウスに、何だわかる。


ワシは、そのボスだぞ。

ワシを舐めるってことは、何千何万の民を愚弄するってことだろうが!!



「……おい、離せよジーク」

「ダメですよミクサ」

「コイツ殺す」

「そしたら死ぬからやめましょうか。さ、話を聞きましょうね」

「舐められたままでいられるか!ワシを殺すなら殺せ!」

「頭に血が上ったままですねぇ。コマチは短気な男は好みではないですよ」

「コマちゃん関係ねぇだろ!!ボスが仲間舐められて黙ってろってか!」



レオンに殺気を向けようが、動揺しない。

ワシが、ベッドに腕一本で押し付けられてるからか?

ワシの殺気は十分なはずだ。何度命のやり取りをしてきたと思ってる。


無理に動こうとしたその時、肩にさらに力が入れられた。


肩が痛い。

押し付けてるジークの手が、肩を、鎖骨を砕くくらいの勢いで握ってくる。

握力が、凄まじいなんてものじゃない。


コイツは、本当にワシを動かせなくする気だ。


何とか腕外そうとジークの顔を見た。

それで、後悔した。

見ないほうが良かった。


ジークの顔が、張り付けた笑顔が、はがれないように必死になっているのを見てしまったから。

目が血走って、2,3度口の端が痙攣するように引きつって、笑顔の奥のおぞましい何かが出てこようとしているような。



「冷静に聞いてくださいミクサ。俺たちは今、人質にして人質を取られている状態です」

「おい、勝手に話を進めるな。ディアーナの犬が」

「あなたの存在は、ミクサにとって悪でしかない。これ以上時間を浪費しては、ディルクレウス王に叱責されるのはあなたでは?」

「なんだと」

「ここは俺に任せてご退室ください。……なぁに、ちゃんと説明はします。駒になるように、とね」



淡々とした、ジークの声だ。

見上げるワシにはもう目もくれないで、とんでもない力で押さえつけながらレオンと会話する。


そうだ、こういう化け物だったコイツは。

軽薄な顔の下に、どうしようもない獣がいる。

理性なのか、忠義なのか、奴の行動を止められるのは飼い主だけ。


飼い主……王女サマじゃないのか?


レオンは舌打ちをして、部屋を出ていった。

その途端、肩の手は外される。


もう、ワシにはこいつがわからない。

ワシに配慮してるのか、レオンの味方なのか、ディルクレウス王の駒なのか。

ディアーナ王女サマの、専属使用人ですらないのかも。



「じゃ、簡単に説明しましょうね。まず俺もあなたも、王宮に逃げてきた避難民を人質に取られてます」

「……それは、ワシには有効だろうが。なんでお前まで」

「で、俺は避難民に手を出させず王宮で保護する代わりに二重スパイを命じられましてね?これから王宮を出てディアーナ様達に合流、逐一情報を流して運が良ければディアーナ様を誘拐してこいってのが任務なんですよ無茶言いますよねぇ」

「おい、ワシの質問に答えろよ」

「あなたの役割は月光国民が蜂起しないように留めることです。ですが特段仕事はありません、王宮でディルクレウスからもらう仕事を適当にこなせばそれだけでいい」



次から次へと、淀みなく口が回る男だ。

でも、さっきからこちらの言葉にはわざと反応しない。


不自然すぎる。

いつもはこっちがなんとなく放った言葉のいちいちに反応して、皮肉とジョークを飛ばすのに。


今横にいるジークは、まるで機械だ。

奥に化け物がいるのに、表面は感情がない。

目的だけを遂行する駒。



「お前、本当に納得したのか?王宮に逃げてきた奴ら、お前が背負うことないだろ」

「で、あなたが目覚めて事情を話して『王宮に留まる』って頷かせるまで俺は待機だったんです。仕事するのも面倒なのでもっと寝ててほしかったんですけどね」

「いつからだ?避難民が人質ってことは、もしかしてワシらがここに逃げ込まなかったらお前はこんなことしないでよかったんじゃないのか」



ペラペラ喋るジークの口が止まった。

すぐに、耳に痛い沈黙が降ってくる。


さっきまで、どんなにワシが投げかけても無視した言葉。

なのに、話を止めるほどだったのか。


(もしかして、コイツをこんなにしてしまったのはワシたちのせいなんじゃ)


気味が悪いほどに剝がれかけた笑顔のまま、ジークはワシの顔を覗き込んできた。

感情が見えない、レオンとどこか似てる死んでる目で。

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