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240話 アテナタクシーを乗り越えて、私はスラムに到着した

時間は少し遡る。

私は山を越え、野を越え、岩を越えていた。


私の目には、よく見えないのだけれど。



「ディアーナ、もうすぐ着くぞ」

「アテナ、お願いもっとゆっくり……」

「あぁ?急いでんのに何言ってんだ」

「酔う、酔うのよ……ウェッ」

「貧弱かよ。ちゃんと訓練してんのか?」

「あなたが、速すぎる……揺れる……」



あたりは真っ暗で、日の光もない夜。

もう数時間は走りっぱなしだ、アテナが。


アテナに小脇に抱えられながら、私はひたすら揺れに耐えてるだけなのにもう限界。

これまでに乗ったどんな馬車より、乗り物より、転生前に体験した荒っぽい運転より凄まじい。



「アテナ、吐く」

「またかよ、しょうがねぇなぁ」



アテナがすぐに止まって、地面に足をつける。

その途端、胃をひっくり返したみたいに吐いた。

もう3回目だから胃液しか出ないよ。


アテナの足の速さに磨きがかかってるのはなんとなく予想ついてた。

あのディオメシアの港から、スラムまで歩いたら二日は間違いなくかかる。

なのに、もう近くの山が見えるんだから、二日の距離を数時間で来たことになる。


(さすが創作の世界の人間……足の速さが人間超えちゃってるよ。ヴァルカンティア人怖すぎ)


アテナの速すぎる足に任せて、抱えられるままにスラムについたのは翌朝。


顔色最悪、口の中気持ち悪い、息も絶え絶えすぎてなんか死にそう。

そんな私を、スラム特別保護区の住人は出迎えてくれた。



「ライラちゃん?ライラちゃんね!?」

「よかった、生きてたの……!」

「別嬪さんになったなぁ。大きくなった……いつのまに、デカくなって……」

「すまなかった、本当にすまなかった。おれたち大人がもっとしてやれることはあったはずなのに」



アテナに下ろされて、ほぼ十年ぶりにスラム特別保護区の土を踏んだ。

その途端に、大人たちがワッと集まって、私に声をかけてくる。


みんな、驚いて、悲しんで、申し訳なさそうにする。


十年の年月が経って、みんなちょっと老けた。

私の精神はとっくにおばさんだから、十年って重いよねわかる。

なんだか知っている面影のある青年や若い女性は、私が七歳の時に一緒に遊んでた子たちじゃない?

時の流れ早い~みんな大きくなってるぅ~!

それは私もなんだけど。


それにしても、気が乗らなさすぎる。


(あ~、ダルい。今状態最悪なのに、群がってこないで欲しい)


そもそも、私はヒロインっぽく『みんな、私は無事よ!だからそんな顔しないで!』なんか言える性質じゃない。


考えてもみて欲しい。

ジャックの誤射でディアーナを射抜いたのがバレるとまずいとはいえ、それを私一人で何とかするように決めたのは大人たちだ。


(っていうか、シー先生だってディアーナが王家の祝福で生き返るのわかってたよね?なら私が成り代わってた意味って何よ)


なんだか、このまま応対してると嫌なこと言っちゃいそう。


私がどんな思いで王女してたか。

ディルクレウスに追われて、七年間逃亡しながらシー先生と動いてたか。


みんな、スラムの人達は助けてくれなかったじゃないか。


耐え切れなくなって、アテナに耳打ちする。

この場で、信頼できるのはライラの幼少期を知る人間じゃない。

ディアーナとしての私についてきてくれたアテナだ。



「アテナ、場所を移しましょう。シー先生に会いに行きたいわ」

「いいのか?お前のこと親し気に呼んでるけど」

「いい。わたくしから言うと角が立つから、適当に離脱して」

「……あいよ」



そうしたらアテナが「コイツ、疲れてんだ。シー先生に用があるんだけど、もういいか」と私の手を引いてくれる。

残念そうにしてる人もいたけど、私の今の体調と精神状態じゃ話しても幻滅させるだけだ。


その時、遠くから何かを呼ぶ声が聞こえた。



「お~い!!おぉ~い!!月光国の人、いるかー!」



大きい声で、叫んでいるのは男の声。

だんだんと声は近づいてきて、声の主の姿が見えた。


黒いスーツみたいな服に、黒い髪。

厳つい顔は、私が原作で書いてた月光国構成員のなりだ。


アテナが手を挙げて「こっちだ!伝令かー!?」とバカでかい声を上げる。

知ってる人みたいだ。



「はぁっ、はぁっ……アテナさん!よかった、コマチ幹部の居場所をご存じですか」

「避難民を海路でトモエの領地に行かせて、今こっちに向かってる。何があった」

「あのっ、まだ確信的なことは言えないんですが。緊急事態でして」



月光国は、国潰れて避難してで大忙しでしょ。

これ以上の緊急事態があるんだ?


何かあったかな……私の覚えてる限りでは、ここから軍勢同士の争いがある。

だけど、月光国自体は争いに関与しないはず。


原作では裏カジノが崩壊して民は散り散りになった後、ディオメシアを出てたはず。

私の記憶では、崩壊を最後に話には登場しないのに。



「おれたちも分からないんですが、タレコミが入って。王宮に避難した奴らとボスについて」

「やっぱり、王宮には入れてもらえなかったか?」

「いえ。それは成功したんですが……」



月光国の男は、私とアテナに耳打ちした。

私、月光国の避難とか何も知らないけどいいのか?


でも聞ける情報は聞いておこう。

この後アテナに情報共有してもらってこの後の動きを決めれば……



「ボスが、死んだかもって。王宮のレオンに、刺されたって……」

「……は?それ確かなのかよ」

「構成員のやつが見たらしいです。ボスについてたんですけど、それ見てすぐ王宮から逃げ出したって」



まずい、吐きそう。

散々吐いたのに、胃が上がってる感じがする。


バタフライエフェクト、ってやつなのか?

本来、起きないはずの出来事。

ボスが、ミクサが死ぬなんて私は書いてない。

レオンがまだ王宮にいるのは原作通りだけど、彼が裏カジノの人間を殺すなんか想定してない。


未来が、わかってたはずのことがこぼれていく。


もう受け入れたはずの現実なのに、この体調も相まって心に来る。


私の手を、アテナが握ってくれなかったら、私はまた吐いていた。

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