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203話 私は、ずっと前から踊らされてた

どうにか声が震えないように深呼吸する。

なのに、唇が震えてしまって噛みしめた。


やめろ、やめろよ私。

こんなの弱いみたいだろ。

アンナに言われたじゃないか『ディアーナの顔で、弱気を見せるな。生き残りたいのなら』って。



「アンナ王妃に託されたのよ。ディオメシアを、民を、王族を救ってくれって死に際に……あの人は、わたくしが偽物だとわかっていて託したの」



自分が嫌になる。


今更何泣いてるんだよ。

コマチは私が泣いたあの日をよく覚えてるみたいだけど、お前あの日何思ってたか思い出せよ!


『マジで泣けないけどここで泣かなきゃ信頼得られないわ』


って涙ひねり出してただろ!?

何今になってアンナの最期思い出して泣いてんだよ!!

何の涙だこれは、今更救えなかったって泣いてるの?


(あれは原作通りの死だった。防げなかったけど、とっくに死人!私が今更泣いたところで何も変わらない)


なのに涙は止まらない。

どうして?今になって愛着が湧いてきたとでも?


いや違う。

これはきっとジークに当てられたんだ。

じゃなきゃ、私が泣いていいわけがない。



「ディアーナ様、本当ですか」

「ええ。だからアンナ王妃はわたくしにエメラルドの髪飾りを託したの」



アンナの威光を何回も使っただろ。

本物のディアーナに贈るはずだったものを「借りる」だけって、節操なく。


この世界を「本物の世界」って認識しだしてからずっとこうだ。

私が守れなかったものに、私が取りこぼしたものに、私が心から泣いちゃいけないんだよ。


じゃないと、本当にアンナを思って涙を流す人たちに申し訳が立たない。



「待ってください、アンナ王妃はあなたにあげたのではなく『託した』んですか?」

「ええ。それが何か問題あるかしら」

「つかぬ事をお聞きしますが、他に何か言っていませんでしたか。誰に渡すとか」



コマチが変なことを聞くなぁ。

託したは託した。なのに、何をこれ以上あるっていうの。


思い返す。

そうだ、アンナはディアーナに渡す約束だったと言っていた。

知らないけれど、私が成り代わる前にアンナとディアーナの間で話があったのかもしれない。



「エメラルドの髪飾りは、ディアーナに渡す約束だったと言っていたわ。だから託すと」

「っ!まさか、アンナ王妃はご存じだったのか」

「さっきから何かしら、わたくしの言葉に問題でも?」



私の言葉をよそに、コマチは振り向く。

視線の先には負傷しているジーク。

ジークは薄笑いもなく、真剣な顔でコマチと目を合わせていた。



「ジーク、アンナ様は祝福をご存じでしたか」

「生憎俺は最近まで祝福の存在すら知らなかった。でも、ディセルの話通りなら極秘扱いでも仕方ないでしょう」

「祝福?あなた達、王家の祝福の正体を知っているの」

「はい。スラムに行った際、ディセル……シー先生とやらに話を聞きました。王の子は生まれてすぐに一度殺され蘇ることで血を証明すると」



ちょっと、私が何とか王宮時代隠そうとした秘密バレてんじゃん。

それ知ったら側近が何かしてくるかもって隠してたのに!


今の専属使用人全員、側近に何かされても問題ないくらいには権力か武力持ってるから安心だけどさ。



「それ、王族の最重要機密なんだから内密に」

「では、アンナ王妃は本物のディアーナ王女が生き返って来るって知ってたから偽物に託したんですね」

「……なんですって?」



ジークの言葉に思わず顔を上げた。

さっきまでの殺気がなくなって、薄笑いを浮かべながら私を見てる。


彼の標準装備であるにんまり笑いが、こんなに凶悪に見えたのは初めてだった。



「ちょっとジークさん!黙ってろって言われたのに」

「だってそうでしょう、生みの母親が祝福について知らないわけがない。地下教会に行かない場合、十年で生き返る法則を知っているなら『繋ぎ』として偽物を擁立するのが最善です」

「おい、黙れよ話が長くなる」

「やぁっと偽物に優しくできそうなので言わせてくださいよ。所詮、この女は本物のディアーナ王女が戻るまで『王女の生存』を誤魔化すための人形だってことでしょう?」

「待って、待ってちょうだい!!」



自分の声がこんなに大きく出るのは、宿屋ぶりだ。

だって、ジークが訳の分からないことを言うから。


私の知らない、情報をサラッと口にしたから。



「本物?ディアーナ王女が、生きているの?」

「とぼけないでいいですよ。だってディセルと手紙とかでやり取りしてたんでしょう?彼は『王族を潰す』とか物騒なこと言ってましたし、あなたも加担しようとしていたんでは?」

「知らないわ」

「ディアーナ様…?」

「わたしは、知らない。シー先生とは、勢力拡大とディオメシア侵攻の話だけしかしてないの」



唇が震える。

嘘、嘘だ。

だって側近はそんなこと言わなかったじゃないか。


十年で生き返る法則?

それをなんでジークやみんなが知っているの。


コマチがぎゅっと私の手を握ってくれた。

それが、さっきまでは嬉しかったはずなのに今は哀れみしか感じない。



「スラムの秘密の洞窟で、ディセルは眠る女性を指して『本物のディアーナ王女』だと言いました。十年の間、ずっとここで目覚めるのを待っているのだと」



スラムの洞窟。

たしか、子供の頃にシー先生がみんなに嘘ついてまで遠ざけた場所。


『あそこは入ると毒ガスがあるよ』


まさか、私がいなくなった後、シー先生は私に内緒でディアーナを匿っていた?


(祝福?……それ他の人からも聞いたことがある)


記憶が的確に蘇ってくる。

普段忘れているものが、水を得た魚みたいに存在感を示してきた。


アンナの死に際だ。


その時重要なことを言われたな。

どこか引っかかること。


思い出せ、死に際にしては意味深だっただろ。

もうすぐ死ぬってのに、あの人は強い瞳で言ったじゃないか。


『王と王の子は祝福される。だから娘に、必ずだ』


まさか、そんな。


祝福ありきの未来は、とっくに伏線済みだったってこと?



「は、はは……なんてこと」



こんなの、想定できるはずない。

私は、原作者なのに、登場人物に一杯食わされたということになる。

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