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202話 自分は彼女が王女になった理由がわかる

「わたくしがディアーナ王女に成り代わったのは、10年近く前。王女が共もつけないでスラム特別保護区にやってきた日」



ディアーナ様……いえ、もうこの方をどう呼べばいいのでしょうか。

ライラ様?ですが自分にとってはディアーナ様なので、ディアーナ様です。


彼女は自分たち4人にジッと見られているのに動揺がない。

しかし、手にしているティーカップには波紋が生まれていました。


(手の震え、力の入りよう。この方はいつもそうだった、表情以外の部分に本音が現れる)



「あのスラムは、治外法権。あの中で住人に殺されようと、貴族であっても文句は言えない。だけれど、王族だけはしっかり罪に問われる」

「はい、知っています。王族殺しは国家転覆に並ぶディオメシアの最も重い罪ですね」

「ええ。今でも覚えているわ、ディアーナが自分そっくりなわたくしを連れ帰ろうと乱暴した。それを見て勘違いした住人が……彼女の頭を射抜いたのよ」

「もしや、それを行ったのはジャックではないですか?」



ガチャっと茶器が鳴る。

ソーサーにカップが当たった。

上品にカップを摘まんでいたディアーナ様の指が、緩んでマナー違反の音を立てる。

どうやら、自分の想像は当たってしまったらしい。


自分の声と、彼女の声だけが音になる厳重な部屋の中。

メリーもアテナも、痛みをこらえているはずのジークですら音を立てず、茶もクッキーにも手をつけずに自分たちを見つめていた。



「どうして、それを」

「ジャックは自分を殺人者だと言いました。しかし、ただの人殺しであればあれほど激昂するわけがない。何か、彼がしたことでスラムが、あなたが変わる何かがあったと推測しました」

「恐ろしいわね。それだけでそこまで考えてしまうの?なら、もうすべてバレているんじゃなくって?」

「ただの妄想にすぎませんので」

「きっと大きく間違っていることはないわ。言えばいいじゃない」



スラムに行った日から始まっただろう成り代わり、誤って王族を射抜いたスラムの子供、罪に問われるだろうスラムの住人達。


自分の脳は情報だけで多くの可能性をはじき出すことができる。

その結果、成り代わりが発生する可能性を考えることは造作もない。


当時の住人たちは最悪を考えただろう。

ディオメシアで最も重い罪を犯した代償は、皆殺ししかない。

多くの民が住むスラムで、もし王女殺しが住民全員による結託の結果とされてしまったら?


治外法権で、ディオメシアの国土でありながら王族ですらなぜか触れられないスラム特別保護区。

扱うのが難しく、貴族たちから見ても邪魔でしかなかったその場所。


(ジャックの独断専行だったとしても、問答無用で皆殺しになっていたはずだ)


例え王族は不死だったとしても、事実は消えない。

邪魔者を一掃できるなら、これ以上の『朗報』はないだろう。


(でも、もしそこに王女に瓜二つの人間がいたら)


自分は、ディアーナ様の手に触れて包み込む。

痛くなりそうなほど握られた拳は、七年前よりも硬い。

柔らかかった幼い手ではなく、女性の手になっていた。



「大人たちが、あなたをディアーナ王女として王宮に送り出した。死を隠ぺいするために、スラムを助けるために」

「わたくしが名乗り出たとは思わないのかしら?知っているでしょう、わたくしが成り代わっていた3年間でどれほど国政に口も行動も出したのか。野望を持った女にはこれ以上ないチャンスではなくって?」

「しません。自分から野望をもって名乗り出るわけがない」

「わたくしはただの子供ではないのよ。知っているでしょう」



知っています。

アンナ王妃の葬式で、伝説に残る演説と演出のために奔走したこと。

ヴァルカンティア宰相との交渉を完遂したこと。

いきなり現れたエラを導き、全員の力を使って逃がしたこと。

裏カジノに乗り込んで月光国として表舞台へ連れ出す、アンナ王妃が完遂できなかった偉業。

自身の結婚と国際関係が複雑に絡む状況を生き抜いたこと。


時系列的に、メリー、アテナ、自分を専属にしたのは彼女が成り代わってから数日後ということになる。

であれば、自分が接したことがあるのは偽物のあなただけなのです。


偽物王女のすべてを誰より近くで見てきたのが誰だとお思いですか。



「あなたは、ただの子供ではない。ですが、他人の死を踏み台にして意気揚々としていられる人間ではないことは知っています」

「何を根拠にしているのかしら。わたくしは冷徹よ、あなたたちを囮にしたことを忘れたの?」

「アンナ王妃が亡くなった後のことをお忘れなのですか。あの日、泣けないと言ったあなたに忠誠を誓おうと決意したのですよ」



ハッとディアーナ様が息をのむ。

思い出されたのでしょうか、あの日の涙を。

まだジークが入る前、4人でアンナ王妃を悼んだことを。


あの日から自分たち3人はあなたの専属使用人になったのだと認識しています。

メリー、アテナと違い自分はアンナ王妃の影を見ていたことは間違いありませんが、それも裏カジノ騒動で払拭された。



「ですからディアーナ様に罪は……ディアーナ様?」



まだ彼女に聞きたいことはある。

だが、自分は見てしまった。

みんなにも見えているだろう。


ディアーナ様の拳を包む自分の手に、雫が降る。

それは、彼女の涙以外にない。


下を向いたままのディアーナ様の顔は見えない。

しかし、涙がいくつも降ることが何より証拠だろう。



「どうして、泣いていらっしゃるのですか」



ディアーナ様の涙は、王宮にいた頃もあまり見たことがない。

だから、きっと何か意味があるのだ。

感情を大きく揺さぶられるほどの、何かが。


彼女は、いくつも深呼吸をしていた。



「わたくしは……」



言葉に耳を澄ませる。

彼女の呼吸以外に、音はない。

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