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17話 私は助けを求める

私たちを見る貴族たちはどよめいたし、自然にダンスフロアの中心は空けられていく。

慣れたようにディルクレウスはそこに立つし、私の背と手のひらに触れる。

相当対格差があるし、私の頭は彼の腰くらい。

それでも、ダンスは始まった。


小さな私は、彼のリードに乗せられるままに動く。

手を引かれて、背を支えられて、ターンを決める。

下を向いていると「王女なのに踊り方もわからないのか」と言われるかもなので、意地でも向かない。

相手の足の位置がわからないけど、今のところリードではどうにもならないステップも足を踏まずにいられてる。

以上のことから、この恐王はダンスのリードが本当にうまい。


(確かワルツってボックスステップだったよね。創作のために生前調べててよかった!これすらできてなかったら本当に足踏んでたし)


少し余裕が出てきて恐王を見上げれば、彼はジッと私を見つめていた。

無感動なようで、何かを考えているようで、でも私を監視するようにも見える。

一気に背中に汗かく気がしたけど、何とか顔には出さないで目を合わせた。

アテナの時と似ている。

逸らしてはいけない目もこの世界には存在するのだ。


「もっと背筋を伸ばせ、姿勢が悪い」

「ご、ごめんなさい」

「それでいい。アンナが見ている前で無礼をするな」

「はいお父様」


私に助言する声は意外にも優しかった。

言葉選びはつっけんどんだし、雰囲気はキツイ。

だけど、かなり意外だった。


(もしかして、本当にアンナのことを心配してた?お前近いうちに外に作った女を宮中に入れようとした癖に、愛妻家とか噓でしょ)


アンナ亡き後、この王は外からやってきたほぼ庶民の女を王妃に据えようとして国が荒れる。

この国崩壊の序盤だ。

なのに、王妃を気遣い提案に乗ってやって、娘を優しくリード。

人格も価値観も好きなものも作者だから知ってる。でも本編外での彼がこんなに人間らしいなんて想像できなかった。


(じゃあなんで問題になった茶葉なんてアンナに贈ったの)


私たちを見ているだろうアンナに目をやる。

ちょうど私の目線の先、ディルクレウスの背後、人から少し離れた位置。

使用人が持ってきただろう椅子に腰かけ、私たちを見て薄く笑う。

これは微笑ましい家族の光景なんだろう。

私さえ本物の娘だったら完璧だったのに。

曲も終盤。もうすぐこの緊張の時間も終わる。


(良かった、これですぐにアンナの元に戻れば)


最後にアンナの方向へ目を向けたとき、私は見てしまった。

アンナの背後を通り過ぎようとする使用人の男。

燕尾服を着たその人の右手には尖った錐のようなものが握られている。

先が細く、鈍く光る様子は間違いなく金属。殺傷力のある武器で間違いない。

そしてその先は、無防備なアンナの首を狙っているようで……


ギッと嫌な感覚が足元でする。

ドッと全身から汗が噴き出た。咄嗟に下を向けば、ディルクレウスの足を小さな私の足が踏みつけてしまっている。


(アンナに気をとられ過ぎて見てなかった!わざとじゃないから許してくれるかな、でもダンス中に足踏むって結構よろしくないよね!?)


アンナの危機、私のドジ、全く表情を変えない恐王!

弦楽器の音楽は少しずつゆっくりになって終息しそうなのがもどかしい。

当然アンナのもとに駆け出していけるわけもない。恐王の手はそんなに力を込めていないはずなのに、がっしり私の体を捕まえている。


(暗殺者を使うなんて初歩的なこと気づかないなんて私のバカ!!誰か誰か!アンナを助けて!!)


思わず涙がこぼれそうになる。

ちょうどアンナに様子がよく見える位置にいるのが恨めしい。

何もできないまま、彼女の死を見届けなくちゃいけないのか!

ここまで私なりに手を回してきたのに、最後の最後で運命変わらないの!?


(いやだいやだ!私が書いた物語通りになんてしたくない!)


弦楽器の音が止まる。

アンナの背後の男が錐を振り上げた。

その光景から目が離せない。

だが次の瞬間、私は信じられないものを見た。


暗殺者の背後からいきなり現れる、別の燕尾服の男。

彼は一瞬のうちに、暗殺者の振り上げた錐を掴んで、へし折ったように見えた。

そのまま暗殺者の首に腕を回し、一瞬のうちに脱力させる。


(あの身のこなし、アンナも全く気付いていない。ってことは)


凄腕で、誰にも気が付かれない技量。

そしてわずかに私のほうを見るその目線。

キャスケットも、ブラウンの髪も今はない。整えられた黒髪と少し人相の違う顔。

でもわかる。暗殺者を締めあげているとき、私のほうを向いていた。

それはまさしく、庭園の彼!


(ジークだ!)


私はつい、あはっと声を出して笑う。

彼はちゃんと仕事をした。いけ好かない生意気な私のお願いを聞いてくれた。

彼にとって大切なアンナを、守るためだとしても。

にっこにこの私が見えたんだろう。ジークは「シーっ」と内緒だというように人差し指を口元に持ってくる仕草をするとどこかへ消えてしまった。

物理的に消えたわけじゃないだろうけど、暗殺者を抱えたままアンナに気づかれないように影に隠れる姿はあまりにもカッコいい。


「いきなりなんだ、笑うなど」

「アッ、なんでもないわお父様。さっき足を踏んでごめんなさい」

「些事だ、どうでもいい。……最後まで油断するな。曲の終わりの礼まで終えたらすぐ戻る」

「もちろんですわ」


私の笑い声に訝しむディルクレウスだけど、これはしょうがない。

だって、これは実質「誕生パーティーでアンナが倒れて死ぬ」というフラグをぶち折ったことに他ならないんだから!

曲が終わる。

恐王と手を繋いだまま礼をして、すぐにアンナのもとへ駆け出した。

私を迎えてくれたアンナは、とても可愛らしかったと労う。

そして、恐王にもいいリードだったと声をかける。

不愛想だけど、その言葉をおとなしく受け取るディルクレウスはまんざらでもなさそうだった。


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