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16話 私は恐王とアンナのそばに

日がすっかり落ちて外は夜。

弦楽器の音が会場に満ちて、紳士淑女たちは手を取り合いダンスを始める。

ダンスに参加しない面々は、各々談笑もしているけれど心は絶対笑ってない。

そして、チラリとこちらを向くのだ。

私をではない。私とアンナのそばで無表情に立つ恐王ディルクレウスのほうを見て。


(あああ怖い!!何考えてるの、この目!)


登場の挨拶が終わればパーティー会場はただの社交場。

王家と関係の深い貴族たちに、今日のパーティーに出席してくれたことを労うあいさつ回りだ。

と言っても、大体は貴族たちから私たちをめがけてやってくるからしっかり応対すればいいだけ。

ただ、その隣に何を考えているかわからない冷たい目のラスボスがいるだけ。


「ディアーナ様は大きくなられましたなあ!七歳となると、もう後継者として正式に擁立できる年齢でしょう」

「次期国王ですかな!?ではその際の王配にはぜひ我が息子などいかがでしょう。少々年上ですが実に剣術がうまくてですね」

「いやいや、おまえの息子は20を超えているし、女遊びが激しいと噂ではないか。ディアーナ王女、私の息子はいかがでしょう。まだ5歳ですが将来有望でして!」


貴族たちは私への挨拶ではなく、私と自分の子供を結婚させようと必死だ。

正しくはディルクレウスとアンナにアピールして、他の息子はディスるのに必死。

両親として二人は私を間に挟むように立ち、貴族たちに応対しているけれど、応対に差がある。


「おや、ディアーナ良かったな。こんなに手をあげてくださる方がいる、だが今はお断りさせていただこう。娘はこの先学ぶことが多くてそれどころではない、時が来るまでにもっと己を磨くよう精進するよう息子たちには伝えろ」


こういうのに対し、恐王ディルクレウスはというと


「そいつらに王家が務まるとは思えん。我らの血をなめているのか?」


これである。

それでアンナが「相変わらず不器用なのだ、申し訳ない」とフォローを入れている。

不愛想無表情ぶっきらぼう、三拍子揃ってすっかりコミュニケーションが取れない。

戦う男のガタイの良さも相まって、近寄れなさが限界突破。

黒髪が片目を隠していて、そこから覗く灰色の瞳が何もかも見透かすようで居心地が悪い。

時折私を見下ろすけど、ニコリともしない。

殺気はないのに、その目線からはプラスな感情が全然伝わってこない。

娘っていう地位じゃなかったら絶対にここにいたくなかった。

自分で作り上げた人物のくせに、目の前に現れたらこんなに魔王みたいな人間だったのかとちょっと驚く。


(十年後には娘すら戦争の道具にしてきた父親で、アンナ亡き後ディアーナとの関係は最悪。普段王宮にすらいないくせに、今日パーティーにきたのはやっぱりアンナを消すためかな)


貴族の話なんてちゃんと聞けてない。

ひたすら相槌を打って、頷いて、赤べこになった気分だ。

アンナが横にいてくれてなかったら、もっと疲れてたのは間違いない。

たまに「足は痛くないか?もう少し頑張れ」と行ってくれる言葉に何度励まされたことか!

口調も心根も男らしいよアンナ!原作でさっさと殺してごめん!!

貴族たちからの挨拶も終わり、パーティーも中盤に差しかかる。

今のところ特に異常はないし、アンナも元気そうだ。

このままパーティーが終わってくれれば危機は脱する!


「挨拶は終わりか?ではアンナ、我と来い。ディアーナ、おまえは一曲踊ってこい」

「ルク!ディアーナを一人にするのは」

「今その名で呼ぶな。おまえは病み上がりだと聞いた、我が休ませてやろうというのに」

「私は大人ばかりが躍る場に我が子を放り込み、悠々とできる親ではないのでね。心配無用だよ、君はもっと周囲の目と我が子に目を向けろ」

「向けている。ただ今は邪魔だというだけだ」

「邪魔はないだろう。いつになっても会話が苦手なままだな」


一瞬の間にアンナとディルクレウスの間で言い争い勃発しちゃったよ!

しかも器用に小声で!

間にいるから聴こえてるけど、二人の表情はピリついているように見えない。はたから見れば優雅に夫婦で会話してるように見えるんだろうな。


(あとすぐに私からアンナ引きはがそうとしないで!?二人きりになってアンナを殺すつもりか!)


この言い争いを止めないと。

私がアンナのそばにいたって何もできないかもしれないけど、冷静にはいられなかった。

彼女を守らないと、今後の展開ハードモードだもん!

咄嗟にアンナのドレスの裾を引く。

私の行動に、アンナはもちろんディルクレウスも会話をやめて私を見下ろす。


「わ、わたくしひとりは嫌!必ずダンスしなくてはいけないのかしら?」

「そうだ。だから早くいけ、お前がいてはアンナが休めない。手を離せ」

「い、いやです。ひとりは嫌です」

「なんだ、お前が口答えをするのか?この、我に?」


ディルクレウスは私を何としてもダンスに行かせたいのだろう。

アンナを休ませたいと言いつつも、それが本当なんて私には思えない。

まだ威圧は感じない。だとしても、視線の一つ一つがこちらを看破されている気がして逃げ出したい。

言葉がもう出なくて、アンナの裾を離してなるものかと意地だった。

そんな私の手を優しく包んで離させたのは、ドレスの主だった。


「ディアーナ、怖がらなくていい。ルク、いい考えがある」

「なんだ」

「君がディアーナと踊ればいい。そうすれば娘を一人にしないし、今日の主役としても微笑ましい。その間私は壁際で君たちの姿を見ながら休める……これ以上いい案があるか?」


自信たっぷりのアンナの言葉に、恐王は何も返さない。

ディルクレウスが何を考えているのか、計画を狂わせて怒ってるんじゃないかとか全くわからない。

もうビビって目も合わせられないからずっとうつむいているしな私!

そして少しの沈黙の後、私の手はぎこちなく引かれた。


「一曲で戻る」

「いっそ数曲踊ればいい。君は昔から娘との接触が少なすぎるんだ」

「えっ、そんな。お父様となんて」

「安心しろディアーナ。お前のお父様はダンスがうまい、私もステップは彼に教わったんだ」

「黙れ……行くぞ」


私の小さな抵抗は意味をなさなくて、ずんずんディルクレウスは私の

アンナが離れていき、恐王と二人でワルツの輪に入っていく。

最善で最悪な展開になった。

アンナを殺さないように引き離せたけど、私と密着ダンスなんて完全なる想定外だけど!?

私の焦りなんて関係なく、曲が始まる。

正体がバレるとか、アンナの生存はとかはもちろん大切。

でもそれ以上に、ダンスなんてやったことないのに足踏んだら殺されない?という不安でいっぱいになった。

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