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121話 私不在の王宮を思いながら目覚める

季節は冬に差しかかる。

気温はかなり下がったし、朝はだんだん起きるのが辛い。

子供の体は転生前の成人女性よりもあったかいから、少しマシだけどね。

冬になると節々が痛むから冬嫌いだったな。



「ディアーナ様、おはようございます。よく眠れましたか」

「ええ。今日の予定は?」

「二日目の本日は午前中は西の村へ視察、それと交易ルートを使う商人たちとの問答会が入っております。午後は東と南の村の作物の様子を視察」

「まったく……気が休まらないわね」

「明日王宮へ戻れますので、もう少しの辛抱です。メリーに菓子を用意させましょうか」

「大丈夫よコマチ。ただ少し……王宮が心配なだけ」



そう、ここは王宮ではない。

王宮から半日ほどの時間をかけて移動するほどに遠い、ディオメシア国の田舎である。

年に2,3回行っている各地の視察にやってきた。

自分でも思う。なんでこの王宮内人間関係シリアスな時期に行かなきゃいけないんだよ!



「王宮はアテナとあの愉快犯がいます。護衛はできるでしょう」

「コマチ、ずっとジークのこと毛嫌いするわね」

「実力は認めていますが、あの性格は推測するに難しいので排除したいだけですね。アテナを鍛え、メリーに学を与えたその手腕は認めてもいいかと」

「つまり、あの二人がいるから王宮での心配はない。と言いたいのね、素直じゃないこと」



王家の秘密を知った日の翌日から、なんとなく王子たちは変わった。

ルシアンは相変わらず、私への接し方は無邪気で自然体。

私に見舞いの花を持ってきたってのをアテナから聞いたけど、それを本人の口から言うことはない。

他国のことだけど、心配になるくらいの素直さと人の良さである。


で、問題なのがレオンとエラだ。


レオンはエラへの好意を隠さなくなった。

もう政略結婚なんて目に入ってないみたいに、エラに向ける目線と二人きりになりたがる様子がもはやうざったい。

エラは友好的に接してるけど、二人っきりにはなりたがらない。でも、なんか友達っていうには優しすぎるような接し方をしてる。


(あの二人を一緒にしたら原作の悲劇勃発→原作通り国家崩壊→ディアーナ処刑になりかねないから、王宮じゃ引き離すのに苦労していたってのに!)


王宮ではエラを呼びつけたり、私が引っ付く形になって妨害していた。

だというのに!!

三日間も私不在だったら、レオンとエラどうなっちゃうの~!



「失礼しまーす…ディアーナ様!お目覚めだったんですね。見てください!村の人達に『ディアーナ様と食べな』って果物いっぱい貰いましたよっ」

「メリー。今回の訪問は自分とあなたしかおそばにいられないから、警戒しろとあれほど…」

「いいのよコマチ。ものを貰うのはいつものことでしょう?」

「ディアーナ様、人気者ですもん!」

「支持の高さも考え物ですね」



そう、実はこんな時に三日間も王宮をあけているのはこれが理由でもある。


「王女様が結婚されて他国に行く前に、どうか視察に来て欲しい」「民の願いを聞き届けて下さる王女様にぜひ」「以前喜んでくださった作物が豊作だったので、何卒食べに来て欲しい」

そんなこと言われたら、視察を断るのはなかなか厳しい。

だって、自分がこれまで未来で処刑されないためにと必至になって支持を得ようとした結果だし…

今は忙しいって断ろうと思ったけど、今後ディアーナが処刑される未来は消えたとは言えない。なら、支持集めのために奔走するのが堅実ってもんでしょ。



「王宮の三人はジークとアテナに任せたのだから、わたくしたちはやるべきことをやるわよ。さぁ、行くわよ。朝食は馬車で食べるわ」

「ディアーナ様のご命令とあれば。馬車の準備はできております」

「果物剥きました!サンドウィッチも作りましたよっ」



なんで子供なのに私は社畜のごとく働いてるんだろうね。

ディルクレウス?内政を大臣とかに任せて戦いに行きましたよ。


(あいつが戦行ってばっかなのって、死なないからじゃない?王家の祝福悪用してない?)


この世界でディオメシアが戦が強い理由を知ったところで、私にできることなんてない。

だって、私は本物のディアーナじゃないんだから。

元この世界の創造主(原作者)でスラムの孤児に生まれ変わっただけの少女だ。


(下手に手出して、生き返るからって一回殺されることがあれば、私はTHE・ENDだし)


つまるところ、私はこれまで通りだ。


真実だの秘密だのを知っても、劇的に変わることはない。

現実って案外そんなもんだよね。

つまり、スラムの孤児が王女に成り代わるほど劇的変化ではない。


(自分の手が及ばないところで、頼むから事態急変だけはするなよー!)



「ディアーナ様?どうかしましたか…?」

「なんでもないわ。さぁ、まずは西だったわね」



表面上はちょっと物言いが高飛車で、頭が良くて、優しい王女様。

内心は冷や汗かきまくりで、この先が怖くてしょうがない原作知識があるだけの人間だ。


それでも、運命のディアーナの誕生日は迫ってる。

その日まで、自分ができることはあるはず。


(だから、不在の王宮で事態の急変なんて起こさないでくれよ…)


馬車に揺られて視察の中、私はそれだけを考えて胃に朝食を詰めた。

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