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107話 うざったくなっちゃった私の朝

次の日、昼間、今日の分の勉強やら政務やら、ヴァルカンティアのおじい様との手紙を書こうといつものように政務の机に向かっていたんだけど…


(ダメだ、うざったくて素が出そう。邪魔くさい)


まさに辟易していた。

理由は簡単、目が覚めて身支度をしてからすぐ王子二人が部屋にやってきたから。

朝だってのにキラキラな見た目してくれちゃって、ムカつくったらありゃしない。


『ディアーナ様!これから朝ごはんですよね?俺達もご一緒していいかな、君のことが知りたいんだ』

『朝早くからごめんなさいディアーナ様。レオンが行くなら僕も一緒に食べたくて…どうか、お願いできませんか?』


朝から太陽に愛されたキラキラ陽キャなレオンと、物静かで礼儀はできてても結局押しかけてるルシアンが、ドアの前にいたときの私の気持ちったらないね。

イケメンからの誘いが嬉しいとか転生前なら思ったよ?でもこれは違うでしょ、何としても自分が選ばれようとしてるでしょ!?


そう、アピール合戦は朝から始まっていたのだ。

朝ごはんの時もレオンはぐいぐいテンション高く私に話しかけてくるし、ルシアンはちょっと緊張してるけどレオンに負けじと私の今日のドレスだったりを褒める。


『ディアーナ様、今日はよく眠れましたか?俺はあまり寝付けなくてね。いつも波の音と共に眠っていたから落ち着かない。俺の国は本当に海がきれいなんだ、ぜひ一度来てほしい』

『あっ、その…ディアーナ様、今日のお召し物とってもお似合いです。ふわふわで、ひらひらで、えーっと…あ、僕の国は山でとても空気が澄んでいるんです』


そんな状態で心休まるわけもない。

さりげなく自国のアピールも入るあたり、私(ディアーナ王女)が国政に影響を与えてるのもリサーチ済みってことかな。

見え見えの気を引こうとする媚って冷めるわ~、二人にとって死活問題だから仕方ないのはわかってるけど。


そして朝ごはんを終えてもそのままずっとついてくる。

月光国とのやり取りも、ヴァルカンティアの手紙も機密情報だし、見られたくないものが多いのに、二人が居座るからちっとも作業が進まない。

ここは私の執務室だし、他の使用人も必要なものを届けたりで人の出入りはあるけど、エラとうちの使用人ズ以外でこんなに居座られたのはじめてだわ!



「二人とも、出ていってくださらない?わたくしお勉強がありますの」

「勉強だったら俺が教えましょう!俺もルシアンも、将来国の王になるものとしてよく教育されている。わからないことは何でも教えよう」

「レオン、ここは一度出よう。淑女の部屋に居座るわけにはいかないし、彼女も執務がある」

「彼女の私室ではないだろう?それに、出たいなら勝手に出るといい。俺は、ディアーナ様と『仲良く』なりたいんだ」



怖い。え~レオン怖いよ…

コンセプトとしてはリードしてくれる系兄貴分キャラだけど、必死さが先行してるんだよさっきから。

あと別に王族ムーブかます気ないけど、我成り代わったとはいえ現王女ぞ?ルシアンみたいにちゃんと言葉遣いとか考えろよ。

ルシアンも、もっとちゃんと引き止めろよ!

適切な距離でいてくれようとしてくれるのはありがたいけど、お前ら幼馴染だろ?

気心知れてるはずだろもっと頑張ってくれ…!


私(原作者)の設定では二人は幼馴染で仲が良くて、レオンが兄でルシアンが弟ポジ。

朝食の席でバッチリ言ってたし、関係性とか人格の原作齟齬はないのはわかった。

それは今後のためにもありがたいんだけど、ここまでしつこいと嫌になる。


(せめて、このぐいぐいアピール攻撃をやめさせないと)


二人は私のことを『9歳の女の子』として扱ってる。

だからこそ畏まりすぎないし、たくさん話しかければイケると思ってんだろ?

だが残念、中身はとっくに成人したレディなんでね。

舐めてもらっちゃ困る。


(大人らしく、幼女らしく、もてなしてやろうじゃない)


私は今日の執務補佐であるアテナとコマチに目配せをした。

ディアーナ専属の使用人という立場でも、王子相手にいろいろ言えるはずもないからずっと黙ってくれてたんだよね。


そう、だから、私が普段とは違うらしくないことをしても茶化したりしない。

茶化す筆頭のジークは今日は家事当番だしね!



「ねぇ!わたくし、今日は外で遊びたいわ!あなたたち、ついてくるのだったら遊び相手をなさい!」



そう言って王子二人を引き連れて向かったのは、王宮敷地内にある湖。

水面は太陽の光を反射してキラキラしているけれど、私は知っている。

湖の端の方は、かなりの泥んこエリアだということ。


王子たちを呆れさせる、怒らせる、ドン引きさせる。

そのどれでもいい。ディアーナ王女(私)をただの幼女だと侮るなよ!


私は泥んこに飛び込んだ。

私の足が膝まで埋まるくらいのそこに、ドレスを着たまま。



「さぁ!一緒に遊んでくださるんでしょう?早くしてちょうだい?ずーーっとわたくしにくっつくんですもの。これくらいできてあたりまえよね?」

「ディアーナ様、それはやめようぜ?せっかくのかわいい顔が汚れちまう。手を貸すから早く上がった方がいい」

「あら、わたくしの顔が泥に汚れたくらいで醜くなるとでも?わたくしが嫌だといってもついてきたのに、泥の中には入れないのかしら」



お前たちは泥んこに入れないよな?

だって、あんたたちが着てる服は、一張羅の高いもののはず。

豪華な刺繍のしてある「ラノベの王子様」みたいなその服を汚すことにはかなり抵抗あるだろう?

王宮内で支給されたものじゃない。

復興ができずに苦しむ自国で何とか用意しただろうその服を、全く顧みずに飛び込めるはずない。

私はありがたいことにドレスはたくさん持っているし、メリーがきれいに洗濯してほつれたら直してくれるから問題ないもんね。


(まだ子供だ。これくらいしておかしくない!)


私はわざとらしく、子供の無垢さを目指してキャハハと笑った。

ずっとやってこなかった『わがままで高飛車なディアーナ様』を今こそ発揮するとき!



「ふふっ、あら?来ないのかしら…わたくしの命令に従えないなら、もうべったりそばにいるのはやめることね。言うことの聞けない男に寄られると、虫唾が走りますの」



私の言葉に、レオンもルシアンも戸惑った表情を浮かべていた。

そうでしょうとも。ディアーナ王女はここ二年賢くてわがままがずいぶん減って、高飛車ながらも優しいって噂がちょーっとは流れてたっておかしくない。


ちなみにコマチもちょっと戸惑ってるけど、あれはきっと私が滑って怪我しないかを心配してるやつ。

アテナは今にも吹きだしそうにしてるのを何とか抑えてる。良いぞ、そのまま黙ってくれ。


さあ王子たち、どうするかい?


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