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104話 俺の語りの始まり始まり~前編~

むかしむかし、まだディオメシア王国というものが誕生する前。

隣国として実に仲が良かったとある国がありました。

『ソルディア』と『ステラディア』です。


ソルディアは海に、ステラディアは山に面した国。

お互いの領地にないものを贈りあい、敵に備えて共に訓練をし、国民同士も国境などないように皆が仲が良かったのです。

この2国は別名『兄弟国』と呼ばれるほどに親密でした。


しかし、欠点がありました。

親密すぎて、2国以外の民を排斥してしまうことです。

実際、国民が慎ましく穏やかな生活をするのであれば問題がなかったので、何百年とその状態が続いておりました。

ソルディアとステラディアは、まるで付き合い立てほやほやの恋人のような関係性で周囲の国から孤立していたのです。


その潮目が変わり始めたのが約百年前のこと。

ディオメシウスという若者が先陣を切り、不死身のごとき猛攻を続けていくつかの国を占領し、ディオメシア王国が建国されました。

ディオメシウスは元は国を追われた男だと伝わっていますが、そんな彼に賛同したのは同じく国を持たない者達。

彼らの『自分の国を作りたい』という思いは凄まじく、建国後もじわじわとその領土を広げていきました。


それに困ったのは周囲の国々。

友好的に属国になるのならば交渉だけで済むのですが、国民がそれを許すはずもありません。

それに、ディオメシウスの倒れても翌日には前線で戦う人間離れした力と『属国』というものがわかっていなかった他国の人々は過剰に恐れたのです。

『自分の国は自分で守る』と軍備を強化していきました。


ソルディアとステラディアも例外ではありません。

排他的な国民たちは、外敵を入れないようにと必死に準備を進めておりました。

たくさんたくさん頑張りました。

兄弟国らしく協力し合い、ちょっと無理を重ねても訓練を続け、ついにはディオメシア王国よりも堅牢で強い国となったのです。


豊かだった自然や、慎ましく暮らしていくのに重要だった資源を大きく犠牲にしながら。


さて、そんなこんなで難攻不落となった兄弟国。

なんとなんと、ディオメシアが落とせないまま何十年もの歳月が経ちました。

その間にディオメシアは多くの国を属国としましたが、国を奪うことはせずに『連合国』という枠組みを作って統治するようになりました。

ディオメシアが一括統治という体になっていますが、基本それぞれの国のことは干渉せず自治を任せている状態。

もはや『属国』になるのに心配も何もないはずなのですが、国というものはそうはいきません。抵抗を続ける国というものはあるものです。

今も、ディルクレウス王はそういった国々に戦を挑み、戦果を挙げています。

俺的には、今は戦よりも内政をちゃんとしたほうが国のためになると思うんですが。



「…さて、ここまでが国としての基本知識です。ここから、問題の4か国戦争の話に入ります」

「誰がそんな昔の話しろって言ったんだよ、話長ぇじゃねーか」

「いやいや、たった百年前の歴史です。歴史的に見たら最近ですよ、人間はぽっくり死にますが、記録として残るには若いくらいです」

「百年は長いんですジークさん…国の仕組みとか、頭くらくらします…」

「二人ともまだまだですね、後で話の内容を書き取りさせましょうか…どうです?コマチ、俺の説明はなかなかのものでしょう」

「ソルディアとステラディアの話をしていたのになぜディオメシア建国の話になるのです?話が逸れ過ぎではないですか」

「俺的には重要だと思ったから話しただけですのに~」


字の練習を始めて2年ほどのメリーとアテナがこうなるのは仕方ない。

ディオメシア建国伝説は寝物語としてこの国にあるはずなんですけどね。

しかしコマチが言うことも一理あります。話が飛ぶのは俺の悪い癖。


ちらっとディアーナ様のほうを見れば、おいしそうに紅茶とケーキを召し上がっている。

話聞いてました?王族のあなたにとってはもう学んだことかもしれないですけど、聞いてないならそれはそれで傷つきますよ。


「え~じゃあここまででディオメシアが連合国で王国な理由が分かったということで次いきますよ」



さっさと話さないと、時間が遅くなってしまいますからね。

ここからが明確な亀裂であり、融和であり、戦いのひっどいところです。



「さて、事の起こりは今から16年位前。ディオメシア国民の少年が旅の途中、山で遭難して助けられたことから始まります」



16年ほど前。

きっかけは些細なことでした。

たまたまステラディア領地の近くの山にいたディオメシアの少年が道に迷ったところを、ソルディアの少女に助けられたのです。

排他的な国民性のはずですが、その娘は優しく少年を導きました。

そのまま少年はまっすぐ帰ればいいものを、よりによって『ソルディアとステラディアを見てみたい』とのたまったのです。


少女も少女で拒否すればいいのに、素直に国に案内してしまった。

そこで少年は、ソルディア・ステラディア両国が非常に貧しい暮らしをしていることを知ってしまった。

家はボロボロ、建材になる木以外は草すら生えておらず、民もすり切れた服を着ている。

だというのに、国の至る所で武器を作るための火が上がっていた。武器を作る工房と、2国を守る城壁だけが美しくピカピカだった。


そう、兄弟国は戦争に備えるあまり、生活をずっと犠牲にしていたのです。


別に犠牲にすることが悪いんじゃない。

戦の中ではよくあること。でも異常だったのは『戦が起こっていないのにこの状況』ということだった。


少年は、少女から教わったことを胸に家に帰った。

その少年の家ってのが…王宮。

少年は、お忍びで山に登っていた心優しい王子だったってオチです。


これがロマンスだったら少女と結ばれてハッピーエンド、貧しかった国もこれで安泰!…ですが、そうはいきませんでした。


少年が王宮に戻って父である王に進言したのは、そんな個人的なことではない。

『ソルディアとステラディアが無茶な軍備拡張で非常に弱っている。何とか助けられないか』

そんな、実にココロヤサシイ言葉。


ですが、言うでしょう?

『地獄への道は善意で舗装されている』

息子からの言葉を聞き、当時のディオメシア王…ディルクレウスの父親、ディアーナ様の亡きおじい様は、少しずつ難攻不落だった兄弟国を手に入れようとたくらみ始めたのです。

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