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103話 仕方なし、俺の語りの始まりを

ディアーナ様は俺を見た。

わざわざコマチが説明しようかといっているのを、俺を名指しして。

あーあ。アンナ様に似た面差しで見てますね。

説明しろっていうんでしょう?

確かにソルディアとステラディアの話は俺が適任のうちの一人ですから。


だが残念。

俺、これに関しては言いたくないことが多すぎるんです。

国の戦いの歴史っていうのは、カッコいいことだけじゃない。

ましてや俺はその戦争に参加した身。

ここは全力で煙に巻かせてもらいましょう。



「そうですねぇ…あの2国には、いろいろと内情深くまで潜っていましたから」

「内情?ジークさん、何をしていたんですか?」

「俺、ヴァルカンティアの凄腕スパイだったんですよ。あの2国を属国にした時期は、そりゃ忙しくしていました」

「え、えええっ!スパイって、そんなの知らなかったです…」

「おや?言ってなかったですか。今はディアーナ様のお付きになったので休業中ですがね」

「現役だろ、月光国の時にあたしまで潜入させられたんだから」



確かに今でも密かに宰相夫妻との連絡は取っていますけど。

でもヴァルカンティア有利にはしてないですし、情報はすべてディアーナ様にお伝えしている。

まだまだ詰めは甘いですが実に賢い主人です。幼いのが本当に惜しい、さっさと女王になってくださればいいのに。



「じゃあ、お話ししましょうか。当事者として…そう、あれは俺があらゆるケンカを買いまくっていた狂犬時代のこと…」

「関係ない話を始めないでちょうだい。それに、長いのは嫌よ。手短になさい」

「ディアーナ様、水を差さないでくださいよ」

「そーだそーだ、わかりづれぇんだよ」

「わ、私も難しい言葉はあんまり…」

「自分はあなたの過去などこれっぽっちも興味がないので口を閉じてください」

「なんということでしょう、俺の味方がいやしない。男だからでしょうか?今からでも女性としてふるまうことは可能ですよ、俺は案外美女になれますが」

「い、い、か、ら、話を進めなさい」



女に化けて潜入したことだってあるから言っただけなのに、何とも冷ややかな視線を食らった。

残念です、あんまり話したくない内容だったのでうやむやにしたかったのですが。


いつの間にか全員ケーキを食べ進め、いつもの和やかでうるさい空気が漂っていました。

この感じ嫌いじゃないんですが、これからのお話をするには何とも場違いです。

国同士の戦争なんて、聞いて面白いことはない。

内情深くまで潜れば潜るほど、それはそれは残酷だというのに。



「やっぱりやめません?話題を変えてレオンとルシアンのどっちが好みかとか話しましょうよ。女子って容姿のいい男性好きでしょう?」

「どちらも好みではないわ」

「私そういうのは苦手で…」

「あたしより弱いなら興味ない」

「男性には興味はありませんね」

「さあ、話は終わったわ。ジーク、早くなさい」

「なんとしても話させるつもりじゃないですか。強引な女性は殿方に嫌われますよ」

「どうせわたくしの相手は政略結婚で得るのよ。属国の結婚相手が、連合国を束ねるディオメシアの王族に歯向かえるとでも?」



まだ9歳なのに、悲しいくらい現実わかってるじゃないですか。

これくらい幼いなら、まだ将来の結婚相手について夢見るお年頃だろうに。

しかもメイド全員引っ掛かりもしないなんて、ここに健全な年頃の女子はいないんですか?


俺だってあなたたちの頃には女の好みで盛り上がっ……ってなかったですね…?

四六時中アンナ様の戦闘訓練のお相手と、軍の訓練と、ハイネ様の教育で異性に興味なんて微塵もわきませんでした。

異性と触れ合うこともスパイの任務ばかりで、恋も知らぬうちに苦い現実ばかり噛みしめることになって恋人もいたことがない……


(これが偉い人に仕える者の運命ってやつですか?戦争と同じくらい残酷な現実に気づいちゃましたね)


ですが、こんなに脳内でしゃべっていても事態は変わってくれないものです。

今か今かと4人分の視線が突き刺さる。


こうなったら観念するしかありません。

できるだけ簡潔に、主観は排除して語りましょう。


残っていた自分の分の紅茶とケーキを平らげ、姿勢を正して彼女たちと目を合わせた。

いつもの訓練のような、俺が先生になったような錯覚を起こすんですよねこの構図。


「ではざっくりと話しましょうか。事の起こりは16年前…まだ属国ではなかった『ソルディア』『ステラディア』にディオメシアが接触したところから始まります」



さあ語りましょう。

これから始まる国家間の静かな政略結婚争いに備えて、歴史を学ぶため。


これでも教えるのは得意なんです。

とっても不本意ですがね。

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