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100話 私の物語は、崩壊を始める

風が涼しくなって、季節が変わりかけてるなと感じる今日。

お昼ご飯を食べた後、私はディルクレウスと隣に座っていた。


ここは謁見の間。

イメージしやすいのは大きな広間の一段上がっているところに玉座ともう一つ豪奢な椅子が並ぶ風景だと思う。


今日の私は自分のイメージカラーでもある深紅のドレスに身を包み、気合を入れるためにエメラルドの髪飾りをつけて、玉座の隣にお行儀よく座っていた。

身支度はコマチがいつも以上に神経質に髪を整えたし、アテナとジークが警備について話し合ってたし、メリーはずっと落ち着きがなくドレスを着せてくれていた。


エラも賓客のために、王族の椅子がある段の少し離れた場所に置かれた椅子に座っている。

こっちから見てわかる。

ガッッチガチすぎるぞエラ。

背筋は伸びて視線はまっすぐのきれいな姿勢だけど、表情が硬いし顔色が良くないもん。

それでも美人のエラなので「顔色悪い→透き通って陶器のような肌」になる。その美貌を武器の一つとして原作では生きてたから、羨ましいとは言わないけどね。


(いつもだったらエラがそんな時、私が元気づけたりできるけど今日は無理。エラのほうまで気使ってられない)


理由はただ一つ。

私の隣の玉座に腰かけるこの国の頂点だ。


『お前が、手紙をよこすとは驚いた』

『わ、わたくしもお父様がちゃんとお返事をくださるとは思っていませんでした』

『そうか』


…終了。

これ、謁見の間に行く前に交わされた会話の全部。


寡黙にもほどがない!?

元々そんなに長話した記憶はここ二年ほとんどないし、ディルクレウス自身もアンナがいた時ですら無口なタイプ。

だけど、今回私は「国の利益になるとはいえ独断で個人への貴族位授与」「国の暗部だった裏カジノを月光国として認めさせる」って国を変える2大やらかししてるのにこれである。


(原作通りとはいえ、あまりにも子供に興味なさすぎる。私じゃなかったらグレにグレて悪役令嬢まっしぐらだよ)


そんな相手が隣にいる。

ただでさえ威圧感&殺気立ってるのがデフォルトの彼のそばは怖いのに、今日は運命が大きく変わる日だ。


心臓がうるさい中何とかおすまし顔をキープしていると、謁見の間の扉が開いた。

それは、来客の合図。

この場所で、仰々しく王族が出迎える相手なんて『国家間の重要人物』くらいしかいないと相場が決まってる。


重々しい両開きの扉の音と共に現れたのは、それぞれ系統の違うイケメンな青年二人。

中世ヨーロッパというよりは、現代のヨーロッパ系王室の近衛兵たちが着ているような正装に近い畏まった服を着ている。


一人は浅黒い健康的な肌に、茶色の短髪が元気に跳ねる、太陽に愛されたような青年。

もう一人は、真白の肌に、雪のような白く長い髪を一つにまとめた、星のような青年。


謁見の間にいるディルクレウスと彼の側近以外、エラも国家運営を補佐する重臣たちもはじめて見る二人にどよめきを隠せない。

私は原作者なので彼らの事情は分かってるし、性格も何もかも知ってるから驚かないけどね。


(やってきましたよ~属国の王子二人!タイプの違うイケメンがここに二人揃ってるって眼福だよね。今のシチュエーションはそんなこと言ってられないくらいシリアスで吐きそうなんだけど)


二人は私達王族の前に来ると立ち止まり、跪いた。

その様子を無感動に眺めたディルクレウスが「遠路はるばる、よく来たな」と一声かける。

労いの言葉なのに、1ミリも気遣いとか優しさが感じられないのはなんで??


そんなことをぐるぐる考えていると、低くて重たい声が「ディアーナ」と私を呼んでいた。

間違うはずもない、ディルクレウスの声。


「は、はいお父様。なんでしょう」

「この者たちは、属国の皇位継承者だ。将来は国の王となるため、王宮に滞在して我から国についての運営を学ぶこととなった」


ディルクレウスがそう言うと、王子二人は顔を上げて胸に手を当てて名乗る。

まるで騎士みたいだ。


「俺はソルディア国、第一王子のレオン!陛下からお噂は聞いておりました、とても賢い王女様だと。よろしくお願いします」

「僕はステラディア国、第三王子のルシアンです。本日は、お目にかかれて恐悦至極に存じます」


まさに二人の性格は見た目の通り。

ソルディアは太陽の国、ステラディアは星の国。

私(原作者)がそう決めたように、二人の性格もそれによく似ている。

ラテン系の太陽、静謐の星。


この二人がエラを取り合うだなんて、絵面だけ見てぇ~!

美男美女のロマンスっていくらあってもいいよね。


だがそんな考えは、ディルクレウスの一言でぶち壊された。

なんでもないように、退屈そうに、いや…見定めるように?

彼は王子二人を見てこう言い放ったのだ。


「お前たちのどちらか一人にディアーナをやる。王妃として迎え、国を繁栄させるがいい」


…What’s?


え、なんて??

私、じゃなくてディアーナをやる、だって?

それって嫁とりだよね、言い方からして私が嫁ぐんだよね?


ありえない。

ありえなさすぎる。


「お、お父様?わたくし何も聞いておりませんわ」

「言っていなかったからな。相手はどちらでもいい、我にはさして二人とも変わらんからお前が決めろ」

「そんなこと、これは国家の一大事でしてよ?」

「我に黙って偉業を成したお前であれば、自らの結婚相手を決めるなど容易かろう」

「わ、わたくしに選べと?そんなの、この二人だっていきなり言われていい迷惑に決まっておりますわ」

「お前の結婚相手となれば、自国に利益をもたらすのは間違いない。よいではないか、お前が『好んだほう』が将来の勝者だ……お前たちも、それでよかろう?」


ディルクレウスの言葉に、レオンとルシアンは両省の言葉を返した。


唇が震えちゃう。

何とかバレないように噛みしめたけど、そのせいで言葉が止まって、私が了承したみたいな空気になっていく。


(嘘だ嘘だ嘘だ!どうしよう、これは、これは原作にない!)


ディアーナの結婚相手の話は原作では全く触れていない。

なんなら、メモ書きに書いた覚えもない。

二人がディルクレウスから学ぶために王宮に来たっていうことまでは原作通りだったのに、何でいきなりどっちかがディアーナの結婚相手な訳!?


なんとか、何とか私は口角をあげて焦りを悟られないように心がける。

考えろ考えろ。

ディルクレウスは冗談でそんなことを言う人間じゃない。


ここは私が作った世界だ。

ソルディアもステラディアも、国の事情は原作者だから知ってる。


その上で思う。

これは、私は…


今、ディルクレウスにこの国から『排除』されようとしている。


これが、私が超序盤で冷や汗をかいた理由。

二人の王子から求婚を受けるだろう、通常ならロマンスなシチュエーションでちっとも甘くない私の心だ。


10歳にもならない幼女に、現在18歳の王子二人が求婚するなど、そこに恋も愛もあるわけがない。


ここに、この話の『原作崩壊』が成立してしまったのだ。

私が、全く望まない形で。

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