99話 私が作った世界の、地獄を思い返せ。前夜
さて、私が何を原作で書いたのか。
原作者の私が描いたこの世界が、ついに原作突入の空気ということで整理していきたい。
現在日付が変わる直前。
みんな部屋から出ていって、私一人の部屋の中。
ベッドに寝転がって、誰にもバレない自由時間。
明日はついにディルクレウスがやってくる日。
ということは、エラの登場から原作が始まり、その大きな流れの開始点が明日くるということ。
エラの登場は原作の開始だけど、本格的な開始…ディオメシアの謀略と愛憎ドロドロに絡み合う滅亡劇は明日始まるからだ。
(もう原作は始まってるけど、この世界にとっては明日が運命の分かれ道…これ自分が当事者ポジションじゃなかったら楽しく見られてたのになーっ!)
これまでは私がネタ帳に書いた細かいメモだったり、原作に入れようにも泣く泣くカットした箇所だったり、なんでか発生した原作外の出来事だった。
でもこれからは違う。
ディルクレウスの宣言で、この国は決定的な滅亡への舵を切られる。
何が起きたのか?それは『エラを後妻として王妃に据える』ということだった。
我ながらなーんて悪趣味。
だって、ディルクレウスはエラが実の娘だと知っていてそれを言い出すんだから。
でもエラはそのことを知らない。
本人が知るのはあと何か月か後のこと。
(倒錯!実に倒錯すぎるよ、禁断の関係すぎるよ。いやいや、絶対に許されないからね?このアイデア考えてるとき確かに徹夜してたし、ハプスブルク家近辺にドはまりしてたけど!)
言っておくけど、断じてこの世界はそんな禁断の関係が歓迎されているわけではない。
この事実を知ってるのはディルクレウスとその側近くらいだった。
世間的には『王が見初めた美しい庶民の娘と再婚』である。じゃなかったら許されるかこんな事!
まぁ、これは既定路線だろう。
断言してもいい。明日きっと私達はそれを彼の口から聞かされる。
するとどうなるか?
エラの苦悩が始まる。
庶民の彼女が王の妻になるんだぞ?「やったー玉の輿!」なんてお気楽できるほど精神強くもないんだあの子は!
(そういうように設定してたからしょうがないんだけど、社交界デビューでいくらか強くなったとはいえ繊細な子だからなぁ)
原作の彼女は流されがちで、自分の意見も言えないような子で、だからこそ後妻になることも抗えなかった。
彼女の苦悩はそれだけじゃ終わらないんだけど…それはまず置いておいて。
(でも、今の彼女が違うことがある。劇的に変わったこと)
間違いなく、ディアーナ王女がライラ(原作者)であることである。
エラにはいろいろ気にかけていたし、王女の後ろ盾があるっていうのを良くアピールしてた。
原作崩壊させて国家滅亡を防ぐには、エラのメンタルを鍛えるのがこの先必要だったから。
つまり、原作での主軸の一つは『禁断の関係になったエラの深い苦悩と葛藤』だ。
これで終わるならまだ簡単。
しかし、原作者の私はさーらーに面倒なことをしてしまう。
それが『ディルクレウスが連れてくる客人』。
現時点で情報は来ていないけれど、きっと明日王宮にやってくるのは二人だ。
属国の2つの国から、18歳になる王子を二人。
タイプの違うその二人の王子はあろうことか……エラに恋してしまうのだ。
(王様に愛され+王子二人に取りあいとか恋愛マンガの詰め合わせ越えて盛り合わせ。胃もたれするわこんなん!)
そして、恋に落ちたエラは一線を超えてしまう。
だが時期を同じくして、ディルクレウスとも後妻としては義務である関係を持ってしまう。
今思い返すとエラ尻軽か?いやいや、原作のエラは断れないタイプの子なんだよ。仕方ないというかなんと言うか…
(なんで私が擁護してるんだよ。…原作者で創造主だから当たり前か)
それでエラは身籠る。
相手が誰なのかわからないままで、名義上ディルクレウスの子として出生したその子が『ディルクレウスとの望まない子』なのか『恋した相手との子』なのかわからず、愛情を注げない地獄が生まれてしまう。
……本当に私はエラに刺されても文句言えないくらいのハードモード人生を用意しちゃったんだな。
私がエラに優しくするのが罪滅ぼしじゃないとは、完全には言えないかも。
これが第二の原作の軸『国同士の争いに発展しかねないドロドロ恋愛模様と、その結果生まれた命が織りなす崩壊の未来』
この二つの軸を崩壊させれば、何が待ってるのか?
それはわからないけれど、崩壊させたらこの国の滅亡は遠ざかる可能性がある。
だって、エラが他国の王子と恋に落ちなければ国家間でのいざこざは起きないし、ディルクレウスとの間に子ができなければ崩壊の未来はかなり遠ざかる。
なぜなら、原作ではその生まれた子供が革命の旗頭として挙げられ、幼い彼を先頭に正義感を振りかざした民衆の暴力によってこの国は終わりを迎えたからだ。
(そんな革命、後が大変ってことはフランス革命が証明してる。でも、この国の人にそれを説いたってわかんないよなぁ)
だから、私が必死に国民に『王族悪くないよ』アピールしてるってのに原作通りに国民を苦しめて戦争三昧してくれちゃうんだもんなディルクレウス。
はぁと息を吐きだして目をつむる。
考え事をした頭は、すっかり眠気が襲ってきていた。
「ともあれ、明日。明日から本格的に変わっていくはず……」
あくびをして、体を丸めた。
どうか、自分の決断がよりよい未来に繋がりますようにと願いながら。
そして、日は上り、時が来て謁見の間。
私は、とんでもない決断を突きつけられることになった。