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1話 私はスラムに生まれた

女の子なら誰もが一度は夢に見る、王子様との結婚。

しかも、2人のイケメン王子に取り合いをされる魅惑のシチュエーション!

中世ヨーロッパ調の謁見室で王女の座に座り、それぞれタイプの違うイケメンが跪き、王女の愛を取り合う甘い求婚をする。

それを我が身に受けながら齢十歳の私は思った。

「うっそだろこんな展開私考えてなかったけど!?」

完璧に被った王女の仮面の下、私は冷や汗で溺れそうになっていた。

そして自覚する。

これは、きっと地獄につながる一丁目だ。


~三年前~

ディオメシア連合国

それは、百年以上前の大戦で大きな勢力を見せ、十数の小国を束ねる大国の名前。

この国を建国したディオメシウスは大戦の英雄。神の加護を受けて聖天使を従えて迫りくる敵をバッタバッタとなぎ倒し、子々孫々にまでその加護を伝え、国の先頭に立って民を導けと亡くなっただのうんぬんかんぬん。


それがこの国に伝わる伝説。

ディオメシアの民に「誇りを持て」と寝物語にまでなっているお話だと自信ありげに話すお貴族様。だが、私はそれを肘をついて寝っ転がりながら聞いていた。

それを咎める人は誰もいない。というか、咎めるほどこの話に感銘を受けている人などこの近くにいる訳もないのだ。

ここはスラム街だから。

ボロッボロの土壁に隙間風が普通、いつだって土埃で汚れた体、近隣の団結がないと生きることも難しい場所。

国に見捨てられかけた貧民のたどり着く先。

明日食べるパンすら微妙なのに、どうしてその元凶であるお貴族と王族の話なんて好意を持って聞けるものか。


「ライラ、お前ってホント話聞いてないよな。みんな言ってるだろ?『学がないと生きていけないらしい』って」

「慈善活動の青空教室って名目で貴族のアピールに使われてるだけだよ。しかも伝説を話すだけ。未だに私たちは火打ち石で火をつけて、雨の日は寒さに震えているのに、屋根一つ建ててくれやしない。無意味だよジャック。私は早くこの国から出る方法が知りたい」

「そればっかりだな。スラムで家族をつくって、一生を全うするのも悪くないのに。そんなとこもかわいいけど、夢見がちで困った子だよライラは」


移民らしい砂色の肌に、売るために黒い髪をずっと伸ばしている彼は私と同じ孤児で、私より少し年上のジャック。

1歳で母を亡くした私とずっと一緒に生きてきた幼馴染だ。

私が生まれて大体八年。私には、誰にも言えない秘密がある。


それは、この世界が私の書いたドロドロ小説だということだ。

自作の連載小説の最終話を書き終わり、投稿ボタンを押した途端にPC画面が歪んだと思ったら生まれたての赤子になっていた。

私が書いていたのは英雄が建国した国の百年後、自分の欲に塗れた国王の統治する国で巻き起こるロマンスと悪政と国の混乱が醍醐味の人間ドラマ小説。

最後は派手に他国を巻き込んで滅亡させた…のだが。


まさか自分がそんなドロドロ国の悪政の影響を一番受ける最下層に転生するとは…!

城壁に囲まれた敷地ではなく、そこそこ栄えている城下町でもなく、いまだに裸足で土を踏んで白亜の王宮を眺める生活。

薄々どんな世界に生まれたか察していた。しかし生まれてから数ヶ月後、今は亡き生みの母が寝物語として話したディオメシア建国物語を聞いて爆泣した。

なんとか聞いた現国王の名前も自分が名付けた悪王の名前だったもんで、赤子の時期に知恵熱を出したときは母と近所のじいさまばあさまをひどく心配させたものだ。

スラムの民がひどい目に会う描写を書いたからですか神よ。

こんなことになるなら悪王が改心して国民がハッピーになる方向で書けばよかったと3年は後悔した。


しかし、スラム生まれということは何かひょんなことがない限り王族に関わることもないわけで。

ということはよくある「転生して未来をいい方向に変えるやり直し」もほぼ不可能。

町娘なら使用人として入れたかもしれないが、スラムはほぼ奴隷だ。そんな事は考えるだけ無駄というもの。

ライラと名付けられた2度目の人生は1歳で母を亡くすハードモードだったけど、周りの大人は優しかった。

衣食住は日本よりも物足りないけど、元は成人女性だから頭脳とちゃんとした大人の対応ができる。スラムでも子供としてはそこそこの地位を得て快適に過ごせている。

あとは、数年後に起こる内戦に巻き込まれる前に安全な国に亡命できたら言うことなし。

ジャックやスラムのみんなには悪いけど、私は自分が可愛い。

原作者としての知識は、自分が生き残るために使わないとね。


「ライラー!西通りの爺さんがギックリ腰だから手伝いに行ってくれって先生が。行くだろ?」

「シー先生が?わかった。母さんの墓に寄ってから行くから先行ってて」

「おう!待ってるからな~」


シー先生はこのスラムで発言力がある大人だ。

頭が良くて、何度も水害や土砂から救ってくれた頼りになる人。彼が言うことはいつもスラムのみんなを決定づけている。

私が、存在をしっかり認識している『スラムの賢人』だ。

母さんの墓に向かおうと人通りの少ない道を、私は歩く。


「……馬車を止めて下ろして。は?王族は安全でしょ、近衛兵のあんたたちは絶対に来ないで!わたくしをひとりにしてちょうだい!」


私から少し離れた道の影に、高貴な王家の紋が刻まれた馬車が止まっていた。

それをちらっとそれを見てから足早にその場を離れる。


それが、運命。原作者の私が思いもしなかったイレギュラーになるとは知らずに。

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