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マウント

作者: 雉白書屋

 とある住宅街の道端にて――。


「あら、どうもぉー!」

「どうもぉ、うふふ、お元気?」


「ええ、とっても元気よお。そちらは?」

「元気、元気! 最近ね、ヨガ教室に通い始めたのよお」


「あら、そうなの。よかったわあ。実はちょっと心配してたのよ」

「え、心配? どうして?」


「いやね……大下さんのこと、聞いた?」

「大下さん? ああ、いつも小さいワンちゃんを連れてる方ね」


「そう。その大下さん、実は……二日前にお亡くなりになったのよ」

「え! そうなの? 全然知らなかったわ……」


「あら、そうなの。ほんと、かわいそうよねえ」

「ねー。ワンちゃん、どうするのかしらね。あの子、いつも横をぴったりくっついて歩いてたじゃない」


「ねー。あ、三宅さんちの旦那さんも、今週亡くなったのは知ってるわよね?」

「え! 初耳よ! あらあ、不憫ねえ……」


「そうなのよお。ほら、あなたと年が近いでしょ? だからあたし、なんだかあなたのことが心配になっちゃってねえ」

「あ、そう……まあ、気をつけなきゃね。お互いに。あたしはヨガ教室に通い始めたから大丈夫だけどね」


「ほんと、最近は怖いわよね。それにしてもあなた、町内のことなのに全然知らないのねえ」

「え、ええ……あ、そういえばあのマンションのことはご存じ? この前できたばかりのとこ」


「あー、駅近くの?」

「そう。あたしの友達が住んでるんだけど、先週、そこの住人の方がお亡くなりになったのよ」


「あら、そうなの。それはお気の毒にねえ……」

「ええ、引っ越してまだ半年も経ってないんじゃないかしら。せっかく綺麗なマンションなのにねえ。エントランスも広くて。行ったことある?」


「いいえ、ありませんけど……」

「あらあ、そうなの! 一度遊びに行ってみたら? お部屋も広くて綺麗でねえ。ああ、もちろん、お友達が住んでたらの話だけど。勝手に入ったら不法侵入になっちゃうわ。あはははは!」


「ええ、そうねえ……あ、ところでこれは知ってる? 実は市役所の職員が二人も亡くなったらしいのよ」

「えっ、二人も!?」


「そう、まだ公にはなっていない話なんだけどね。うちの夫、他民党の人とお友達で、そこから聞いたの。でも、内緒よ? うふふ」

「ああ、そうなのお。あ、あれはご存じ? うちの孫が通う小学校の先生が、この前お亡くなりになったの」


「え? そうなの? たしか、お孫さんの学校って市内の小学校よね?」

「そう。まだ若い先生でねえ、優しかったそうよお。うちの孫が泣いててね、こっちまでつらくなっちゃったわ。あ、あなたのところはお孫さんはまだ……だったわよね。じゃあ、知らなくても仕方ないわね」


「え、ええ、まあ。……あっ、じゃあこれは知ってる? あの駅近くのスーパーの店員さんが、店の裏で亡くなってたの」

「え、知らない。北口の?」


「あっはあ! 違うわよお! 南口の! まあ、あそこは高級スーパーだから知らなくてもしょうがないわよねえ。でも、北口って、あはは! あのスーパーは駅から遠いじゃないのお! うふふ!」

「え、ええ……。まあ、でも本当なのかしらねえ」


「え?」

「ニュースになってないし、うふふ、嘘だったりして」


「あはは! それはそっちにも言えることですけどねえ」

「いえいえ、うふふ! 市役所の話だって本当かしらねえ。何さん? お亡くなりになった方のお名前は?」


「それは、極秘の情報だから、ちょっと言えないのよねえ」

「極秘! あはは、じゃあ、仕方ないわねえ、うふふ。旦那さん、極秘なのに話しちゃって怒られたりしないのかしら。口が軽いのねえ」


「大丈夫でしょ。話したのはあなただけだもの。まあ、あなたがお喋りさんだったら話は別だけどね」

「まあ! お喋りなのは誰かしらねえ!」


「さあ、誰でしょうねえ! 活き活きと人が亡くなった話をするお喋りさんは、どこの誰なんでしょうねえ!」

「そうよねえ! 最初に話し始めたのはあたしじゃなかったはずだけど、お喋りさんな上に記憶力まで衰えちゃったら大変よねえ! 誰に話したか分からなくなっちゃうものお! あはははは!」


「ええ、ほんとそうねえ! ヨガだか何だか知らないけど、長続きしなさそうよねえ!」

「ええ、お喋りさんは黙ってるのが苦手みたいだから、ヨガの楽しさがわからないでしょうねえ!」


「おーい! どうもー!」

「あっ、どうもー」

「どうも、こんにちはあ」


「盛り上がってたみたいじゃない。角を曲がる前から声が聞こえてきたわよ」

「あらやだ、うふふ。ちょっと、こちらの奥さんがはしゃいじゃってね」

「ええ、ほんと、こちらの奥さんが大盛り上がりしちゃってね」


「あはは。お二人って知り合いだったのねえ」

「あ、ええ、まあ、お名前はまだ知りませんけど」

「ええ、お宅の猫ちゃん繋がりで知り合いになって。人懐っこくてかわいいですよね」


「あら、そうなの? あの子もきっと、喜ぶわあ。また会えたらいいのに……」

「えっ、まさか死んじゃったの……? 全然知らなかっ、いや、そんな気はしてましたけどね」

「あたしは死んだと思ってたわ」


「え? うふふっ、違うわよお。生きてるわ。あたし、娘のところに引っ越すことにしたの」

「あ、そうなの」

「それはいいですねえ」


「ええ、だって怖いですものねえ。まさか、市長がお亡くなりになるなんて」

「え!? 市長!?」

「本当に!? マウント取ってんじゃなくて!?」


「マウント……? それは意味がよくわからないけど、ついさっきニュースになってたわよ。それにね、実は市内で他にも次々と人が亡くなってるらしいわよ。怖いわねえ。最近の異臭騒ぎと何か関係があるのかしらね。地下のガスか、それとも水に毒でも混じってるのかもって噂もあって。まあ、わからないときは、とりあえず避難したほうがいいわよねえ……」

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