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投稿練習
よく分からないまま、部屋をあてがわれたまま暫く待つ様に言われた。
天蓋付きのキングサイズのベッドに、豪華に装飾された壁や窓。飾られた花に装飾されたミニテーブル。ふかふかの椅子が4脚。窓からは昼間の明るい光が漏れる。窓の覗き込むと丁寧に手入れされた庭が見えた。残念ながら3階程度の高さがあり飛び降りて逃げることは不可能そうだ。
入ってきたドアの外にも剣を持った騎士の様な見張りがいた。入り口のドアからも逃げ出せない。
悪く扱われているわけではないので逃げ出す必要も無いのだが、今後何が起こるか分からないし安全確保の為逃げ道は必要だ。
部屋を見渡すと、壁に姿見ほどの大きな鏡が掛かっていた。鏡の周りは派手ではないが上品な(高そうな)金の装飾で囲まれている。鏡を覗き込むと正に朝出勤しようとしているそのままの姿だった。
グレーのスカートのスーツ姿に、柔らかくふわふわに巻かれた肩までの栗色の髪の毛。オフィスで仕事しているだけあって日焼けしてない白い肌。まっすぐ伸びた茶色のまつ毛。前髪は顎下まであり、耳にかけるときらりと華奢なピアスが光る。
新調したてのパンプス。今月30歳になったばかりだがまだ、30代には見えないぐらい若く見えるはずだ。
仲の良い友人から、中身はオジサンなんて言われることもあるが、外見にはそこそこ気を遣っている。
チラリとベッドの上の荷物を見る。前日のお泊まりのおかげで一応化粧品を持ってこれたのはまぁ良かったと言うべきか。携帯はさっき確認したが勿論のこと圏外だった。
時間だけは辛うじて生きており現在昼の1時半。
電話機能は勿論使えるはずはなく、連絡なんて出来ないので無断欠勤になるが早々にその辺は割り切った。
全くの異世界に来たはずなのに、一昨日新調したばかりのネイルは相変わらず上品なピンク色をしている。
手首を動かすと昔、元カレからもらったブレスレットがきらりと光った。
元カレには全くもって未練はないが、結構な高級ブランドの人気の物らしく中々捨てれずにいた。
友人には色々言われたが、自分の中ではモノに罪はないし、ということで落ち着いた物だ。
(異世界モノでも、人に憑依するパターンじゃないわけね…。そして言葉も通じる。…夢?夢のパターンもあるよねぇ。死にかけてるとか。)
とりあえず現状を一つでも整理したくて俯きながら、考え込む。
残念ながら二日酔いは取れていなかった様で、下を向いた瞬間気持ち悪さが込み上げてきた。
吐き散らかすなんて失態は、いくら夢でも頂けないと上を向く。
色々考え込んでいると、装飾された重厚な扉が開いた。
さっきの司祭でも出てくるのかと思ったら違った。
真っ白な騎士の様な服に、腰には剣が刺さっている。背中には真紅のマント。
悠に190は超えるであろう身長に小さな顔。
背中の途中まである綺麗な黒髪はツヤツヤしており真紅のリボンで一つにまとめられている。長い前髪は横に分けられている。
切れ長の漆黒の三白眼にツンと尖った鼻。
自分の美的センスが狂っていなければ芸能人級のなかなかのイケメンだ。
「こんにちは。聖女様。」
そう言ってイケメンはにこりと微笑んだ。急な微笑みに射抜かれそうになるのをぐっととどまる。
聖女なんて気恥ずかしい呼ばれ方をされているはずなのに超ド級のイケメンが現れたせいで思考が一気に飛んでしまった。
イケメンは声までイケメンなのか、なんてどうでも良いことを考えてペコリと頭を下げた。
「こんにちは。」
降り注ぐ沈黙。たった一瞬だけど初対面の人と訳の分からない状況に耐えれなくなり、つい部屋の中の椅子をそっと手で刺し示した。
「…とりあえず、座ります?」
自分の部屋でも無いし、見ず知らずの男を招き入れるなんて普段なら危機感ゼロだが、こんな訳分からない状況なら許されるだろう。
そんな和葉のどうでも良い考えなんか吹き飛ばす様にイケメンはニコリと微笑んだ。