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2王都__ヤンデレって知ってる?

【:クローネ・ライン :平民。花屋の心優しい娘。本来は人見知りで、引っ込み思案。父が病死し天涯孤独になってからは、悲しみをこらえ、天真爛漫に明るく花屋を切り盛りしている。欲がなく、静かに暮らしている。おとぎ話に憧れる乙女心を持っている】


 運命の乙女の名は、クローネというらしい。


 父を亡くしてまもない10歳のクローネが、両親の愛した店を守るため、気丈に振舞う様子に心無いことを吐く人は少なくない。親を亡くして途端に明るくなった薄情な子、いつも無口に部屋にこもってばかりで周囲を困らせていたくせに。そんな言葉を聞いて涙を零すクローネに、通りがかったジークハルトがハンカチを渡して慰める。ジークハルトより2つ年上のクローネは、自分よりも年下なのにとても大人びた王子様に驚き、憧れ、次第に惹かれていく。


 あの日、リリアンの顔に唾を吐くように血を噴いた日記は、リリアンの部屋を殺人現場のごとく赤く荒らした。


 不思議なことに、リリアン・ジョンストンのページは判読不可能になったが、日記の他のページは赤色に染みている様子も滲んでいる様子もなく、濡れている様子もなかった。またしばらくすると、血濡れはその鮮やかな色ごと蒸発し、何事もなかったように消えた。


 リリアンはこの恐ろしい現象に怯えて呼吸を止めたが、日記には禁断の魅力があるようで、数か月経った今では、紙の黄ばみや染みの位置まで思い出せるほど読み込んでしまった。


「___リリー、手を」


 アルフレドの手をとって、リリアンは上機嫌に馬車を降りた。


 今頃、少女クローネは運命の王子様の微笑みに胸をときめかせて気もそぞろで、ジークハルト殿下はいつものように帝王学に励みながら運命の乙女を忘れられずにいるだろう。


 ああ、少女クローネ!わたしを、この腐敗した義務から解放する者よ!


 目の前の王都の邸宅は、その存在自体を誇るように白く、豪勢な屋敷だった。リリアンは、門から玄関までをつなぐ道の両側に植えられた白い薔薇たちを見て、苦笑した。


 白い薔薇は王太子の好きな花だった。


 侯爵の権力を示すように装い、王家に媚びるように飾り立てられたこの邸宅をリリアンは好きではなかった。


 あの静かで広大な生家、ジョンストン侯爵邸が恋しい。


 山の麓に建つ侯爵邸は、帝国と大国の国境近くにあった。家族と過ごし、旧友と遊んだ、素朴な木造平屋。


 そして漠然と、どうしても、あの2階の窓から眺めた、白い銀嶺に急ぎたかった。


「ねえ」


 自室に戻ろうと邸宅の階段を上がっていると、ちょうど先を上がっていたアルフレドが足を止めて振り返った。


「あれは本当に運命の出会いなの?以前はリリーと婚約解消したとはいえ、平民蔑視を一貫して、ロマンチックな素振りなんてなかったじゃないか」


「アルフレドはわたしが学園に入学してすぐ、俗世を離れて魔塔で働きはじめたじゃない。殿下は人間なんだから、たとえ貴族より下は動物だと思っていても、考えを一新することだってあるよ」


「その通りだけど、うーん」


「案外、ロマンチックかもよ。学園じゃ、ある女の子に花を渡したって噂が流れていたし、その話題の女の子と一緒にいるところをよく見かけたもの」


 そう言うと、納得していなさそうなアルフレドは目を丸くした。


 驚くのもわかる、だってジークハルト王太子は、貴族以下を獣だと思っているし下級貴族を動物だと思っているし、自分をもてはやす令嬢を地位固めの道具だと思っているのだから。


 わたしだって、実際に目撃するまでは王太子を人間のふりをした悪魔だと信じていたくらいだ。


「ほんとう?」


「ほんとう、ほんとう」


 リリアンはアルフレドを追い越して、ひらひらと手を振った。


 自室に戻ったリリアンは、外着から中着に着替えながら、例の日記がきちんと棚にあることを確認した。


 まさかここに書かれてあることがすべて現実のものとは考えていなかったけれど、クローネとジークハルトの出会いは本物だった。


 隅々まで読んで「未来の日記?」である疑いは、先ほど街で見た光景から「未来の日記かもしれない」に変わった。


 まあ、もう少し様子見してもいいかもしれない。



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