予想外の到達
「......わかった。話すよ」
そう言うと共にケイは訳を話し始めた。
その言葉が出るまでにそれなりの時間がかかったような気がし、妙にピンッと張り付いたような緊張感も押し寄せた
「ほら、覚えてるか?俺らが初めて会った汽車での話」
忘れるはずはない。この世界のことや起こった出来事などをケイから色々聞いたことは今でも新鮮な記憶としてとどまっている。
「その時に言った暗殺未遂事件の犯人いただろ?」
確か、財閥のトップを狙ったと言われるあの事件の.....
その事件がどう関係あるんだろ......
「実はな。さっきのシキとかいう男の言った参謀総長の
レナってやつのことだが.....」
レナ.....確かにあの森の中の一軒家でシキに会った時に
その人の指示で僕たちを探しに来たと言っていた
「レナとその暗殺未遂事件を起こした男ハルカはな......
高校の時の同級生らしいんだ......」
同級生.......僕はその事実を聞かされると少しだけ納得感のようなものが得られた。レナという名前を聞いた時から
ケイの中では追っていた彼の周辺の人間.......それも彼を
よく知る人間に会えるということなのだろう。
ただ、ここである一つの疑問も生まれる。
「ねえ。そのハルカに直接会うことってのはできないの?」
何か彼を調べるならわざわざ各所をいちいち回らずとも
本人に面会なり手紙なりで話を聞く手もあるはず。
これは僕だけじゃなくマイたちもこの話を聞けばその疑問が浮かぶはずだ。
「いや。それはできない」
ケイは素早く反応し、そこから堰を切るような状態で述べ始めた。
「ハルカのやったことはそこら辺の犯罪とは訳が違う
今まで誰もやろうとしなかったことをやってのけたんだ
彼の事件について触れることはそこからほぼタブーのような今の状況からもそれは如実だからな。だから関係者以外の面会なんざ、大抵は門前払いを喰らって終わりだ」
「........」
「だからこそ、今までは地道にハルカが訪れた可能性のあるところを隈なく歩き回って調べて行ったんだ。どこかで
この事件の真実に辿り着くかもしれないと思ってな」
ケイの今の心境はとても複雑なものなのだろう。
今までの長年の努力の下で得られたものと目の前に今転がっている真実にすぐ手が届きそうな戸惑いが心の中で
絡み合って上手く解けない状態になっている.....
「ケイはさ.....どうしたいの?.....もし、レナって人を通じてハルカに会えるのなら.....ケイは会いたいの?」
「........」
長い沈黙がケイから破られることはなかった。
この事件はそれほどまでに重い。今までに起きたことがないようなものへの追求したい気持ちとは裏腹にその泥沼に浸かってしまう一種の恐怖が嵐のように渦巻いている
「これはあくまで僕の意見だけど」
「??」
「今はさ。悩んでもいいと思う。きっとその中にケイが思うこうしたいっていうものがあって、その先に自分が正しいと思える答えがあるはず。それがきっと正解への道だと僕は思う」
僕に出来ることはこれぐらいしかない....だけど、ケイが
何かをしたいということを尊重したいし、それで迷っているなら僕がその背中を押す一助になれればそれでいい。
「だからさ。いいんだよ。悩んでも。それは答えへ辿り着くための道に過ぎないんだから」
僕なりの考えと答えを述べると、ケイの表情の強張りは少しだけ、ほぐれ、体をベッドの方へと預けるようにして倒れ込んだ。
「......そうだな.....きっとそうだ。ありがとな。ミナト
少し体が楽になったよ」
そうして、先ほどまで微塵もなかった笑顔がニコッとこちらに向けられ、僕の言葉が少しだけ響いていたということが僕に安心感と喜悦感をもたらしていた。
何よりもケイのみならず、マイやサクたちにもできうる限り笑顔でいてほしいという僕の小さな願いが自身の心の底に滞留しているを改めて実感することになった。
ここに今流れている沈黙は先程のものとは違った
どこか心地の良いものに変化をしているのがしっかりと
二人の間には流れていた.......