休息
見渡す限りの高層の建物や奥では帝都に住む住民の人たちの賑わう声がえんやえんやと聞こえ、この青空の下を飛ぶ
鳥たちの囀りが窓から入る風と共に運ばれてきていた。
僕たちは住宅街などの区域とは別のルートを通っており
シキは一旦僕たちを休ませる目的で帝国ホテルへと向かっていた。しばらくすると馬車は影が伸びる裏口の方へと
到着し、僕たちは約4時間に渡る馬車旅を終えた。
一人一人、狭い扉から降りていき、ホテルのエレベーターのあるところまで移動することになった。
ただ、僕には一つ気がかりなことがあった。
僕はそのケイの長い服の袖をクイッと引っ張ると
ケイは非常に驚いた様子で僕がいる後ろをのぞいた
「びっくりした〜!どうした?」
「いや。そんな驚かなくても」
少し僕が不満を垂れるとケイはごめんというように両手を合わせた。
「そんなことより、ケイなんかあった?シキとここに向かってからずっとソワソワした感じだけど」
「ああ、いや。ちょっとな......」
ケイはそのまま話をはぐらかして逃げるような速足となって僕の前をスッと通っていった。
「.......」
帝都に行くと決まってからケイの様子は少しおかしかった
何かここに来るきたことで気にかかるような何かがあるのかな.......
僕はそのことが引っかかりながらも先導するシキについていき、ホテルのエスカレーターに乗って上の階へ上がった
そういえばトウのホテルに泊まった時はエスカレーターそのものがなく、これだけでもこの場所がいかに発展しているかが如実に伺えた。
しばらくエスカレーターに乗って上の階はつくと様々な人が行き交っており、皆スーツやコートなどに身を包み
人々からも帝都というものを感じるほどだった。
「しばらく待っててくれ」
シキにここで待つように指示を受け、フロントも近く
床もカーペットから大理石に変わり、その小さな変化ですら僕を興奮の坩堝へと叩き込むにはちょうどよかった。
マイは疲れたのか近くの椅子に座り、ケイは相変わらずで
サクもいつもの仏頂面だった。
「すまんな。待たせた。今から部屋に案内するからまたついてきてくれ」
数十分経った頃にシキは戻り、僕らを再び先導し、今度は
僕たちが泊まる部屋へと案内した。
「あの。私たちどれぐらい部屋にいればいいんですか?」
ここまであまり口を開いていなかったマイが重い口を開いた。確かにそうだ。僕たちがどれくらいの期間ここにいるべきなのかは聞かされていない。
「すまない。それは俺も詳しいわからないんだ。何せ上の指示で君たちを連れてきたに過ぎないからな」
肝心はことは何もわからなかった。ただ、何か切迫した事態に対して僕たちの協力を求めていることはシキを僕たちに向けていることで容易に想像はつく。
でも、一体それがどれほどの事態なのかはこれとは真逆に
想像の一つも浮かばない。現に他の地域全体でも何かが起こったという話も噂すら入ってこない。
ますますわからない。先ほどまでの高揚感は一気に冷めたものとなり、自分の中でもゲンナリとした感情となるのがわかった。
「ミナト!エレベーター乗るよ!」
そうこう考え込んでいるとエレベーターはすでに着いていたようでマイが腕をブンブンと振り、僕に乗るように合図をしていた。
「.......」
体感としては微々たる差かもしれないが、トウよりもエレベーターの速度は早く感じ、いつのまにか僕たちが泊まる階まで到着していた。
エレベーターの扉が開くとホテル特有の上品な匂いに全身が包まれ、心地よさが充満しているようだった。
「ここだ。鍵はとりあえず預けておく。何かあったら部屋にある電話でフロントに一報入れてくれ。あと、こっちから用がある時も電話がおそらくかかるからその時は誰か出てくれよ」
シキはガチャガチャと少しガサツに扉の鍵を開けると
電気をつけ、僕たちを部屋に通すとすぐに立ち去っていった。ここからしばらくこの帝都に留まることになるとは
少し前に森で目を覚ました頃には考えもしていなかった
何かしみじみしたものを感じながら僕たちが泊まる部屋の
方へゆっくり歩みを進めていた。