実行役
深くフードのようなものを被った彼女は慌ただしく
西部へと走り出そうとする貨物列車に男児を乗せると
その発車を見届けたのちに少し吹き荒れる強風に押されるようにそそくさとその場を後にした。
「はぁ〜。なんでこんな仕事を私が....頼むんじゃなくて自分でやれっての」
そう不満をボソボソと漏らしながら、ある場所へと帰っていった。
あれから数時間はたち、彼女はようやく目的地へと帰りつき、その建物の中へと入って行った。
そこは周りは森のようになっており、そこにポツンと立っている建物は草などが壁などに生えっぱなしとなっており
いかにも手入れをしていないというような雰囲気だった
建物の中は暗がりながらも奥に数本の蝋が明かりをともし
彼女はその明かりのところへと足を速めた。
「ただいま戻りました」
「中々早かったな。いつもに比べれば少し楽だったか?」
そう尋ねてきた人物は髪は水色がかっており、瞳は黒で
目鼻立ちはくっきりとし、肌は雪のように白く、スラリとした体型をしており、その眼差しや雰囲気は冷徹そのものと言ったような様子だった。
「はあ〜。姐さんなぜ私があいつの依頼の実行役みたいなのやらなきゃいけないんです?あいつがやればいいのに」
「まあまあ。彼にも表としての立場があるのよ。少しは理解してあげなさい」
「でも、なら他のやつに頼めばいいじゃないですか。
バヤンとかも部下はいっぱいいるんだし」
すると、先ほどまでは少し逸れていた姐さんと呼ばれた女性の表情は再び虚無を窺わせるようなものに戻り
「そういえば、最近バヤンたちからの連絡は途絶えたままね。マサがバヤンたちに頼まずに私たちに頼んだってことは何かそれなりの理由があるはずよね」
彼女はスッと椅子から立ち上がり、姐さんと呼んだ女性を
自分の部屋へ戻るように催促した後に自らも薄暗い部屋へと入って行った。
「グランの手から逃げた少年といい、バヤンからの連絡もないこと、それに政府からの討伐の激しさも増して
本当にこの世界はあの時よりもさらに荒れてしまっでいくのね」
彼女のその言葉はこれから起こるこの世界の事象を暗示し
葉についた一滴の水が地面に落ちるようにポツリとその場で吐き捨てていた。