信頼
あとは逃げる機会を伺うだけ......
ただし、おそらくその隙はそう簡単にできるものではない
一瞬でもミスをすれば僕のみならずみんなもやられる可能性がある。それだけは絶対に避けなきゃ......
「どうした?もう手詰まりか?」
下に降りるためにはあいつをこちらに引きつけて
後ろの穴に瞬時に移動しなければならない。
「それなら、俺から行こうか!」
またあの技が来る........だったら、あの技を利用するしかない。僕はある考えを思いつき、怪物が構えた瞬間に
この部屋に入ってきた時の扉へと走り出した。
「ハハハッ!!逃げる気か!そうはいかんぞ!」
怪物は獲物を追う肉食動物のようにこちらに迫り、
背中に生えている巨大な紫の羽が部屋全体を覆うようにして広がり、無音ながらもこちらに向かってきていることは
十分に伝わってきた。
「.......」
僕は扉を背にして、やつの攻撃を待った。
「ほう!逃げるつまりはないのか!ならば全力で行くぞ!」
またあの巨大な拳が襲ってくる。それに加え、さらに巨大な羽は僕を魚を捕える時の網のように四方を覆っていた。
だけど、今しかチャンスはない。僕は一つだけあった
隙間から脱出を試みた。
拳が振り下ろされるのとほぼ同時に僕は怪物の股の下を通り抜け、下を目指して一直線に走り出した。
後ろからは壁が大きく崩れる音が聞こえたが振り向く暇はもちろんなかった。
そして、穴から下の階へと降りることに成功した。
「ミナト!!!」
みんなの声が聞こえる。なぜだろう。剥がれてからは
数時間しか立っていないはずだけど、体感は数週間
いや、数ヶ月は離れていたようなそんな感覚になっていた
だけれど、みんなの声が聞こえた途端、その寂しさや恐さのようなものはすぐに僕の心から消えていったのはわかった気がした。
「久しぶり!!元気だった?」
「うん!それより今は早くここから脱出しよう!あいつが追いつく前に!」
「ミナトの言う通りだ。とりあえず奥の方に逃げるぞ!」
サクの合図と共に僕たちは瓦礫をかき分けるように
奥の方へと逃げていった。
「おい!窓ガラスだ!割って逃げよう!」
「俺がやる」
サクが手に持った銃を放つと窓ガラスはたちまちのうちに
飛び散り、そこから僕たちは一挙に飛び込んだ。
幸い、この階は2階だったようで降りること自体には支障はなかった。
「とにかく、この森に逃げよう!」
城館を出るとその先にはびっしりと木々が立ち並び、
辺りも暗くなっており、先もわからぬままこの森を抜けるために進んで行った。
霧も所々に立ち込め、僕たちは離れないようにお互いを見ながら進んでいくと、目の前に森が開けているのがわかった。
「あそこだ!あそこに逃げよう!」
ケイが一足早く走り出し、僕たちもそれに続いた。
「!!!」
しかし、ケイはいきなり足を止め、少しその場から下がり気味になった。
「どうしたの!?」
「見ろよ。この下」
「うわぁ!」
そこには断崖絶壁となり、下には巨大な湖のようなものが
広がっていた。
「ああ....嘘だろ.....俺たちこのままここで終わるのか.....」
「おい。一旦落ち着け」
「そうだよ!ここから助かる方法はあるはず....多分」
ケイが頭を抱えながら、そう嘆き、二人がそれを宥めるような状態だった。
確かにこの高さから飛び降りてあいつから逃げれたとしても助かる保証は全くない。
「.......」
僕は考えた.....ここから助かる方法を.....
「そうだ!!一つだけ手がある!」
「ほんとに!?ミナト」
「うん。みんなの羽織ってるコートとかに僕のオーラを当てて、クッションみたいにすれば助かるかもしれない」
「そんなことできるのか?」
ケイは僕にそう尋ねる。確かに僕もまだ絶対に成功するという確信はどこにもなかった。
「大丈夫!私はミナトを信じてるから!ミナトがそう言うんなら私は信頼できるから」
僕にそう語りかけたマイ。やっぱり彼女の言葉にはいつも
背中を押される。
「そうだな。やってみる価値はある」
「.....よし!俺もミナトを信じるからな!」
二人もそう続き、僕を後押しした。
僕は自分も含めて、みんなの服にオーラを当て、
崖の前に立ち、深呼吸をした。
「みんな、僕の合図で一斉に飛び込んで」
言葉はなかったが、みんなの表情は僕に応えるような
表情を伺わせていた。
「3....2....1.....」
僕の全身に緊張が走る。でも大丈夫....みんなが僕を信頼してくれている。それだけで怖いものは何もなかった
「みんな飛んで!!!!」
僕の合図でみんなは一斉に崖から飛び降り、
湖を目指し、各々一直線に降りて行った。
僕はみんなの無事を祈り、コートに包まれながら、
湖の中へと入って行った......。