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おじさんと収穫期 五

 あれから二回の日帰り狩猟と一回の運搬依頼を行っているうちに、町中は徐々に賑やかになり浮かれたような雰囲気が漂い始めていた。


 お祭りが始まる前ってこんな空気感だったなぁと思いながら、木材加工場の仕事の達成報告が終わって冒険者ギルドから帰路についていると、最近見かけなかった黒いローブを羽織ったイケオジ冒険者のジスさんとばったり出会った。


「お、ゴンゾウ久しぶりだな。仕事帰りか? お疲れさん」


「ええ、これから帰るところです。ジスさんも、お疲れ様です」


「ゴンゾウも春の風も順調って聞いてるが、実際どうよ」


「はい、私も春の風も、今はギルドから、仕事を斡旋してもらえて、仕事がなくなることも、無いようなので、助かってますよ。ジスさんは最近、冒険者ギルドで、見ないですが、長期の仕事ですか?」


「上手くいってるようで何よりだ。俺はこの時期、収穫祭の準備で冒険者ギルドから派遣で駆り出されることが多くなってなぁ。それも仕事の内なんだが、めんどくせぇのなんの」


 アンゴンの収穫祭は「何月何日に決行します」という日程が正確に決まっているものではなく、収穫が一定範囲終わり終了の目処がはっきりしたところで、そこから五日後に行われるらしい。


 収穫が始まった辺りから打ち合わせは何度か行われており、冒険者ギルドの冒険者代表として数人が参加している内の一人になってしまった。とジスさんが疲れた顔で愚痴る。


「それはお疲れ様です。でも、冒険者代表って、すごいじゃないですか。誰でも出来る、仕事ではないんでしょう?」


「流石に誰でもって訳にはいかないな。俺らみたいなちょいと特殊な契約を冒険者ギルドとしてると、こういうのに引っ張り出されるんだわ」


 冒険者ギルドと契約をしている冒険者は、正確な人数はジスさんも知らないがそれなりの人数がいるらしく、冒険者内での揉め事の仲裁、新人や新顔の手助けや観察、私も対象になったランクC以上に昇格間近の冒険者の審査、そして今回のような催しで冒険者の意見が欲しいときに派遣されたりなど、仕事は多岐に渡るらしい。


 ジスさんは「冒険者ギルドの体の良い使いっぱしりだぜ」と言っているが、冒険者という個人事業主をまとめるマネージャーのような中間管理職だろうか。どこの世界でも中間管理職は大変みたいだ。


「今日その一定範囲が終わる予定だってんで何人か呼び出されてな、やっと終わってこれからギルドに報告ってとこだ。

 春の風は収穫祭はどうすんだ? 何か店出したり……は流石にないか。見て回るだけか?」


「はい、特に何かをするとは、聞いていないので、見て回るだけに、なると思います。そもそも、オレはこちらで、祭りや催しは、たまに連れて行かれる、朝市以外に、参加したことがなくて、良くわからないんですよね」


「お前さん朝市に連行されてんのか……初めての催しが朝市とかすげぇな。ありゃ混雑ってより戦場じゃねぇか。俺は今でも朝市は避けてるが、大丈夫だったんか?」


「大丈夫……だったと思います。カエラさん、アンナさん、アイリーンさんが、がっちり護衛陣形組んで、オレは荷物を持って、付いて行くだけ、でしたから。初めは驚きすぎて、良く覚えて、いなかったです」


「くはっ、護衛陣形か! くくっ、そりゃ大変だなぁ。ま、初めての朝市を無傷で生還出来りゃ十分さ。収穫祭は朝市みたいに広場限定って訳じゃないし、防壁内全体でやるから人出は多いが朝市ほどのことにはならんから安心しな」


 朝市から生還出来ただけで十分ってどんだけだよ……まぁあの混雑具合に、カエラさんとアンナさんとアイリーンさんが物理的に薙ぎ倒した人も多かったから実はめっちゃ危険地帯に連れて行かれたんではないだろうか。


 あそこまでの混雑にならないなら、私が一人で行動さえしなければ大丈夫だと思う。たぶん。きっと。大丈夫だよね?


 一人になりそうなら、本格的にパーティーハウスに引きこもることも考えなくてはいけないっぽいかな。


「そんじゃ俺はこれから冒険者ギルドに報告に行くわ。帰り際に引き留めて悪かったな。お疲れさん」


「いえいえ、こちらこそ、色々と教えていただき、ありがとうございます。ジスさんもお疲れ様です」


 そう言って別れて冒険者ギルドに向かうジスさんだけど、少し離れたと思ったら、すごい勢いで戻ってきてた。周囲に何かあるだろうかと少し警戒を高める。


「忘れてた! 収穫祭中でも後でもいいから、またカエ……お前さんの家で飲み会しようぜ! 祭り中ならいろんな飯も買えて、カエラの手を煩わせることもないからな。カエラにもそう伝えておいてくれ! じゃあな!」


「あっはい」


 返事を聞くこともなく、相も変わらずカエラさん一筋のジスさんは浮かれながらも風のように去っていった。


 私の警戒感を返してくれ。


お読みいただきありがとうございます。


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