おじさんと収穫期 三
今回のように日帰りで昼前後に帰還できるときは、半日も休めば体力が有り余っていることと、本格的な冬季を迎える前に冒険者ギルドや依頼主からの私個人に対する信用を少しでも得るために、斡旋される依頼は受けたいことを伝える。
初めて迎える現代地球の文明の利器が使えない冬季は不安であったため、いざというときに個人的に頼れる場所や組織はひとつでもあった方が良いと思ったのだ。
というわけで、休養日ではない休日は私もしっかり休むことを約束して、アイリーンさんをはじめとした圧をかけてくる四人を説得することに成功した私は、皆が休んでいる今日は冒険者ギルドから斡旋された物資集積所での運搬依頼を受けている。
冒険者ギルドから斡旋されると言っても色々な場所に派遣されることはほとんど無く、木材加工場と物資集積所が大半だ。倉庫区画での仕事が入ったこともあるが、斡旋された依頼ではまだ一回しか行ったことがない。
「ゴンゾウさんの運搬能力がとても優秀であることは、冒険者ギルドも十分な理解が出来ました。出来たのですが、木材加工場と物資集積所以外ではその能力をもて余しますし、変に多数の依頼主に広まっても困るので斡旋する依頼にも困ってるんですよね。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
とは冒険者ギルドの受付の女性の談であるが、それでも稼げる仕事があるだけありがたいので、私はもっぱら木材加工場と物資集積所に通っている。
「ゴンゾウさん、あなたが来てくれるようになって助かりました。収穫期は物資集積所も収穫物の保管場所になりますから、毎年この時期は場所の確保がそりゃもう大変で。
そうだ。良かったらそこにあるもので良ければ依頼一回につき、最近背負われている背負子かいつもの大きなリュックに入る量に限らせてもらいますが、ご自由にお持ち帰りください」
「え、良いのですか? ここにあるもの、ですよね。色々ありますが、ご迷惑ではないですか」
「あなたは本当に真面目な人だ。迷惑だなんてとんでもない。ここの範囲にあるものは処分品なんです。こちらも処分にかかる手間が省けますからね。処分品で申し訳ないですが、まだまだ使える物も多いですよ」
物資集積所での今日の仕事が終わり、責任者の衛兵さんに報告をしていると、そんなことを言ってもらえた。
物資集積所って私には馴染みのない場所だったけど、この場所の役目は「物資集積所」の名前そのままの物資を集めて積んでおく場所だ。
私が見た範囲ではあるが、石切場から運んできたのであろう大小の荒く切られた石材や、馴染みつつある木材加工場から運ばれた木材、岩塩や麦や芋などの各種食料、他には馬車の荷台が並び、何が入っているかわからない木箱や樽などが整然と小山のように積まれている。
責任者の衛兵さんが言った処分品の範囲には、破損した石材や木材、去年の収穫物であろう食品類、珍しいものでは調理器具や食器や衣類に生活小物、破損しているがまだ使えそうな武器防具まである。
これ売ったら結構な金額になると思うんだけど、責任者さん曰く。
「もちろん商人に買い取ってもらったり、食料は炊き出しや衣類と合わせて孤児院に寄付もします。ですが、限度なく処分価格での買い取りや寄付などをしてしまうと際限なく求められてしまうので、販売も寄付も上限が決まっています。
私個人としてはそれで貧困に喘ぐ人々や子ども達が救えるなら、処分品は全て解放して販売や寄付をしてもと思っているのですが、ここは国営で物資も領主様の財産ですので色々と規則がありまして……」
悩ましげな優しい想いを持つ衛兵さんを見ていると、悪いことを聞いてしまったみたいだ。
去年のアンゴンは豊作だったらしく食料を中心に物資に余裕があるが、不作の年ももちろんあり、そんなときに処分物資を頼りにされても民も国も両方が困った事態になる。
そもそもが物資集積所にある物は規模が大きくて忘れがちになるが、全てがアンゴンの領主様の財産だ。
その財産を上限を定めてはいるが処分価格で売ったり寄付している領主様は素晴らしいお方なんですよ。と元気を取り戻した衛兵さんが誇らしげに教えてくれる。
確かに強靭な魔物が跋扈する世界でアンゴンを大きく発展させ、防壁に囲まれた閉ざされたひとつの国と言っても過言ではないアンゴンを崩壊させずに長年統治し、さらに自らの財産を民に還元、寄付しているとなれば人柄はお会いしたことがなく推察は失礼になるが素晴らしい領主様なんだと思う。
「ゴンゾウさんにもわかりますか! そうなんですよ! 領主様は民を守り、民を慈しむ、とてもとても素晴らしい方なんです! いやぁゴンゾウさん! あなたは話のわかる人だ! 力もあって真面目で、こちらの期待以上の仕事を毎回してくれる! 冒険者辞めて私と一緒に衛兵やりましょう! うん! それが良い! すぐに推薦しますよ!」
うおっ!? 待って待って! 急に推薦とか困りますから!
なんとか、命の恩人である「春の風」に恩を返したいことや、すでにかなりお世話になっている冒険者ギルドを切り捨てて、急に衛兵なることは出来ないことを説明して落ち着いてもらうことが出来た。
急にテンション上がって驚いたよ。思った以上に衛兵さんから領主様への忠誠心っていうか尊敬の念が強すぎた。止めなかったら本気で私が衛兵になりそうな勢いだったぞこの人。
でも、こうして馴染みと言えるようになってきた物資集積所や木材加工場の方々との何気ないやり取りから、この地方や世界についての話が聞けてよりこの世界に対する理解が深まっていると思う。
それにボブさんに作ってもらった背負子を慣らしも兼ねて木材加工場に背負って行くようになってからは、薪に使ってくれと加工場の方々が積み木遊び感覚で端材を背負子に載せてくれるし、物資集積所からは今回から処分品をいただけることになった。
好意に甘えさせていただいて、今回は処分される中から汚れていない衣類をいただこう。着れないものでも装備の手入れやパーティーハウスの掃除に使えるからね。
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